太陽のデイジー 〜私、組織に縛られない魔術師を目指してるので。〜

スズキアカネ

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Day‘s Eye デイジーの花が開くとき

どいつもこいつも所構わず発情するんじゃない!

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 旦那と喧嘩して実家に帰ってきたミアに、「血気盛んな年頃の雄は総じて心が狭いもんだ」と言い聞かせる村の奥様方や、「家を長期間開けるのは感心しないぞ」と窘めてくるおじさん連中。
 田舎だから余計にこういうのに口うるさいが、彼らも心の底からミアのことを心配していた。ミアは彼らの言葉を受け止めつつ、憂いの残った表情で日々を過ごしていた。

 だがそれはミアの旦那さんもだ。
 てっきり自宅に帰ったかと思えば、彼は近くの町で宿をとってひっそりミアを見守っていたのだ。こっそりしているつもりらしいが、五感に優れた獣人にはバレバレな気もする。
 しおしおした表情で村の出入り口で突っ立っている彼を見つけたときは何してるんだろうこの不審者と思ったけど、恐らくこの人は感情表現が不器用なんだろう。

 テオの場合、その時その時で感情を露わにするからわかりやすいけど、ミアの旦那さんは気を遣って抑え込んで決定的な場面で爆発するタイプなんだと思う。
 ふたりは出会って結婚するまでの期間が短かったし、お互い理解や会話が足りないんだろうなぁというのが私の想像である。

「…こんな場所じゃミアの様子見れないでしょ。中に入ったらどうですか」
「……ミアが怖がるじゃないか」
「あなたがおっかない顔してなければ大丈夫でしょ」

 おっかない顔して冤罪を責められた上に話聞かないんじゃそりゃ逃げたくもなるわ。

「おっかないって、……!」

 その時、ピクッと彼の猫耳が細かく動いた。
 縦に切れた瞳孔が細くなり、またあのおっかない顔をした。尻尾の毛をビビビと逆立たせると彼はしなやかなその体で素早く駆け去った。
 …あぁ…今、面倒事な空気を感じ取ったぞ。

 放置してもいいけど、2人の痴話喧嘩に関わってしまった後なので、私はその後を仕方なく追いかけようとしたが、旦那さんの姿を見失ったので困っていた。

「デイジー? お前なにしてんの?」

 私がキョロキョロしながら探している姿を見つけて声をかけてきたのは、仕事帰りのテオだ。

「あ、ちょうどよかった。ミアの旦那さんが血相変えて飛び込んでいったんだけど、居場所知らない?」
「ミアの旦那…?」

 怪訝な表情しつつも、テオはすんすんと鼻を鳴らしていた。匂いを探っているのだろう。嗅覚も聴覚も狼獣人であるテオのほうが優れている。広い村のどこにいるかすぐに探し出せるであろう。

「…こっちだな」

 テオが向かった先は森近くの厩舎だ。家畜が自由に歩き回れる様に囲いがされてある。ちょっとした牧場になっている場所だ。その近辺には民家がないので人気もない。…こんな場所にいるの?
 私がそこに駆け寄って、厩舎を覗き込むとその中では一組の男女が絡み合っていた。

「いやあああ! やめて、いやぁ!」
「シエルよりも俺のほうがいいってわからせてやるって…!」

 私はぎょっとして後ずさった。
 その男女の片割れはミアだった。彼女は涙を流して抵抗していた。もう片割れは……知らないな。この辺りでは見ない男である。ミアの手首を片手で押さえつけ、空いた手で彼女の脚を無理やり押し広げている。

「我に従う雷の元素たちよ、不埒な男に雷の鉄槌を!」

 私の放った呪文は綺麗に男にぶち当たる。雷に打たれた男はビリビリと震えながら横に倒れた。その際、汚らしいものを見てしまったが、今はミアである。
 ミアはひどい格好だった。最悪の状況までは行かなかったらしいが、あと一歩のところだったようだ。

「ミアッ!」
「シエル…」

 あんた勢いよく駆け出したのに、まだ見つけてなかったの。
 ようやくミアの居所を見つけたミアの旦那さんは目の前の光景にわなわな震えていた。

「…サイモン、貴様……!」
「見たか、この女は尻軽だぞ! 簡単に股を開いて俺を受け入れたんだぜ!」

 どうやら不埒男は旦那さんの知り合いだったらしい。

「違う! この人が突然目の前に現れて、私を無理やりここに引きずり込んだの!」

 ミアは泣いて否定していた。だけど状況的に分が悪すぎた。

「…自白剤でも作りましょうか?」

 白黒はっきりつけるための手段を旦那さんに提示したが、彼は首を横に振った。
 羽織っていた上着を脱ぐと、泣いて震えているミアにそっと掛けてあげて、彼女を横抱きにしたのだ。

「…疑ってごめん。遅くなってごめんよ」
「…シエル…!」

 旦那さんはミアを信じたようだ。ミアは彼の首へ縋り付くと、火がついたように泣いた。

「お、お前はそんな淫乱の話を信じるのか!? 俺はお前の為を思って」

 諦めの悪い不埒男がなにか言い出そうとすると、旦那さんがギッと鋭い睨みを送る。その冷たさに不埒男は口をつぐんでいた。

「ミアの手首には痣ができている。君が強く抑え込んで無理やり事に及ぼうとしたのだろう」

 目を細めて友人らしい不埒男を見下ろす旦那さん。

「二度と僕たちの前にその汚い顔を晒すな。──今度は殺してしまうかもしれない」

 …なんかいい感じに俺が助けましたみたいな顔してるけど、最初に助けたの私なんですけどね。

「お前っ」
「頭冷やしたら?」

 この期に及んで言い返そうとする不埒男の頭上に水の玉を落としてやる。バシャリと水が跳ね返った。
 これでお終いじゃない。これから村長のもとに出頭させるからな。村社会は怖いぞ。よそ者に厳しいから覚悟するといい。

 私が不埒男に捕縛術を掛けているそばで、新婚夫婦は熱いキスを繰り返していた。

「ごめんなさいあなた…愛しているわ」
「他の男に君のキレイな体を見られたのは耐えられないが……今晩僕が上書きするから覚悟しておくんだよ」

 人前でべたべたいちゃいちゃと……恥ずかしくないんだろうか。

「あの…ちょっと」

 ミアを抱っこしたままどこかに立ち去ろうとする新婚夫婦を呼び止めると、頬を赤らめたミアが「彼と帰るね、ごめんねありがとう」とあっさり帰ると宣言した。

 待つんだ。この変態の処理しないといけないから、発情期に入るんじゃない。
 なのに燃え上がった二人は止まらない。今晩と言わず今すぐに愛を育むつもりじゃなかろうか。

「全くもう、人騒がせな」

 仕方ないので転がった不埒男の処分をしようとしたのだが、後ろから抱きつかれた。
 ここにも不埒な男が存在したらしい。服越しでもわかる熱い手のひらが私の胸をまさぐっていたので、その手を叩き落とすと、奴は私の体を抱き上げてきた。
 ミアを襲った不埒男を乱暴にドカドカ足蹴にして家畜の糞がまとめられた一角に追いやると、ふかふかのキレイな藁の上に私を下ろした。
 テオはギャワギャワ騒いでいる不埒男を無視して私の上に覆い被さってきたではないか。どうやら、お騒がせ猫獣人夫妻の空気に影響されて発情してしまったらしい。

「こらっ…んむっ」

 私の口を塞ぎながら、私のスカートの中に手を突っ込んできたテオは、そばに他の男がいることもお構いなしに盛ってきた。ボタンを外してシャツを開くと私の胸元に舌を這わせ、熱い吐息を吹きかけてくる。

「テオッ…もう、ダメだって…」

 尻尾をブンブン振っているテオの獣耳をグイッと引っ張ると、テオが顔を上げた。その目は情欲に満ちており、その瞳にさらされた私はドキリとした。空腹の獣を前にしたみたいなのに、私の身体はそれを待ち構えているみたいに熱く火照る。
 このまま食べられたいって、思ってしまった。

「ちょっとだけ、な?」

 掠れた低い声が耳を撫でる。首筋にキスを落とされ、大きな手が私の胸を揉みしだく。

「んっ…」

 私の口から鼻にかかったような声が漏れ出す。その声を聞いたテオはご機嫌になって、刺激を受けて主張している胸の飾りにキスを落としてきた。

「あ、だめ…!」

 既のところで我に返った私はテオの胸板を押し返して拒否した。快感に体が震えたが私は耐えた。
 あ、危ない。流されそうになってしまった。
 こいつはなんて顔するんだ。耳元で低く囁かれるとクラッとしてしまうじゃないか。

「駄目!」
「デイジー…」
「結婚してからだって言ってるでしょ!」

 懇願するようなキスをされながら腰を押し付けられる。お腹に彼の昂ぶったものを感じ取った。
 テオが私を欲しがっている。私もテオを求めて理性がどろどろに溶けて、抵抗する気が失せそうになった。
 もっと触れてほしい、と私の本能が訴えているのだ。

 しかし私にはまだ理性が残っていた。首をブンブンと横に振る。

 だけどダメなものはダメ。
 テオの首に腕を回して強く引き寄せると、耳元でそっと囁く。

「ねぇ、こんな場所で他の男に私の身体をみせたいの?」

 ピタリとテオの動きは止まった。
 それで冷静になったテオは、大人しく体を起こすと、私を抱き上げてその場から立ち去った。

 その直後、テオは場所を変えて盛ってきたが、もちろんお預けである。奴が情けない顔して縋ってきたが、私は心を無にして拒否した。


 厩舎に残された不埒男は忘れ去られ、翌日、家畜の世話に来た村のおじいさんに発見されて、村中に響き渡るくらいの悲鳴をあげられたのである。
 その人が鶏鳥人だったせいか、すごく声が響き渡ったよ。

 うっかり忘れてた。
 決して面倒だったわけじゃないよ。本当だよ。
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