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Day‘s Eye 花嫁になったデイジー
実家に帰らせていただきます。
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──もう疲れた。
私の口から漏れ出た言葉は、誰もいない新居内に虚しく響き渡った。
追い詰められた結果、私は家を出る事にした。手紙に【3日間くらい実家に泊まります、探さないでください】と書き残すと身一つで徒歩25分ほどの実家に出戻った。
手紙ではテオが心配しないように行き先を伝えておいた。探すなとも書いておいた。これで安心だ。
実家に帰ると、「新婚早々どうしたの」とお母さんに聞かれたが、言えない。
──旦那の愛が重すぎて身体が保たないとか。
獣人社会を甘く見ていた私が馬鹿だった。まさかこんなに気力体力削られるとは思わなかったんだよ…。仕事がしたいのと日常生活に戻りたいので蜜月を切り上げてもらったのに、夜の時間がより濃密になっただけであまり変わらない気がする。
私はとにかく安心して眠りたかった。
新居では疲れが取れないのだ。私の隣にはいつもお腹をすかせた獣がいるので、毎晩発情して襲われるの繰り返し。睡眠時間を削られ、身体がバキバキになった私は日中寝る羽目となり、不自由な生活を送らざるを得なかった。
自室のベッドに寝転ぶと私はため息を吐き出す。あぁ、べたべたのどろどろにならずに横になれるなんて幸せ過ぎる……
怠いし、行為のし過ぎであちこち痛い…過ぎる快感は拷問にも近いのだ。私は疲弊していた。……念のために言っておくが、酷いことはされていない。だが限度ってものがあると思うんだ。
私の意識はどんどん沈むこんでいく。夢も見ずに眠りについた。
「……!」
「こらっ待ちなさいってば!」
言い争う声によって、私の安楽の眠りは突如妨害された。
ガチャリとやや乱暴に開かれた扉、その先にいたオオカミの姿を見て、私の自由時間が半日で終わった事を悟った。
窓の外を見上げれば、外はすっかり真っ暗になっている。さては仕事が終わって家に帰った後にすぐに吹っ飛んできたな。一応、今日の分の夕飯は作り置きしておいたのだが、駄目だったか。
「迎えに来た、ほら帰るぞ」
ベッドに横になってる私を抱き上げようと手を伸ばしてきたテオ。
しかし私はその手を振り払った。
「私は家出宣言をしたはずだよ。3日は実家に住む」
空を切ったテオの手は手持ち無沙汰に浮かんでいる。私から拒絶された奴は呆然としていた。
「なんでだよ、なにか不満があるのか?」
その問いかけに私はぐむっと吐き出しそうになった言葉を飲み込んだ。
不満ていうかさ……あんた、毎日毎日人のこと襲って加減のかの字も知らない行為働いておいてよくも白々しく……
「なぁ、帰ろう?」
テオの不安そうな、縋るような目。
しかし今の私にはそれに絆されるほど心に余裕がなかった。睡眠不足、関節痛、喉の痛み、その他諸々……いい加減に頭がおかしくなりそうなんだ!
私はベッドに座ったまま、テオを真顔で見上げた。これが新居なら問答無用で襲われていたが、私の実家なので奴も流石にそんなことはしない。
私の安楽の地はここなのだ。私は安心して眠りたい!
「私のこと愛してる?」
「もちろん!」
言葉にして聞かなくてもわかっているけど、言質のために確認した。予想通りテオは迷いなく肯定してきた。
因みにこれは可愛らしい理由で尋ねたわけじゃない。
「なら3日位我慢できるでしょ? 私のこと愛してるんだものね。私のお願い聞いてくれるよね?」
「それは無理!」
清々しいほどの拒絶である。
愛する妻のおねだりを聞かないとはどういうことなのだろうか。
「──なら帰らない」
私はすん、と冷めた表情を浮かべると布団の中に逆戻りしてテオに背中を向けた。
今日は一人の部屋でゆっくり過ごすんだ。そして明日は薬作って、また夜はゆっくり眠るんだ。
「デイジー…わがまま言うなって」
わがままだと?
私の体と心は悲鳴を上げてるんだよ!
「じゃあ寝る時はお父さんを間に挟むけどいい?」
間にお父さんを挟んで眠ればテオも手を出してこないだろう。その条件を飲み込むなら帰ってもいい。
「やだよ! 何が悲しくて新婚時代に嫁さんの親父と同衾しなきゃなんねぇの?」
目が覚めて隣にいるのが髭面のおっさんってどういう状況だよ! と喚くテオ。それには部屋の外でお母さんと共に様子を伺っていたお父さんが微妙な顔をしていた。
テオ、あんたは全く私の気持ちがわかっていない。ずっとそばにいるのに、結婚してからほぼ毎日気絶しっぱなしの私が疲弊していることに気づかないのか!
「じゃなきゃあんた私の寝込み襲うでしょうが!」
私が怒鳴ると、テオは一瞬呆けた顔をした後に『何いってんの?』と言いたげな顔をして首を傾げた。
「隣に嫁が寝てたら襲うに決まってんだろ」
「限度ってものがあるでしょ!?」
ふざけんなよ! いくら獣人とはいえ、理性というものがあるんだからなんとかしろよ! あんたは嫁を殺す気なのか!
「体格差とか体力考えて!? 私は物理的に身体が壊れそうなんだよ!」
もう駄目、無理、と訴えてもこいつは調子に乗って更におかわりをしてくるんだ……。本気で無理と言ってるのに別の意味で受け取って発情しやがって…!
私がどれだけ悲鳴を上げているか見ているくせに、こいつは、こいつという奴は…! 絶倫エロ男め!!
「痴話喧嘩は家でやれ…」
遠い目をしたお父さんの疲れた声がやけに大きく響き渡った。
結局テオの泣き落としと両親の説得で私はテオと共に家に帰ることとなった。身体がきついなら、と私はテオに抱っこされてお持ち帰りされたのである。
帰ると、台所に作り置きしていた夕飯を温めてから食べた。そしてお風呂から上がるなり、テオが痛い部分をマッサージしてやると言って私をベッドの上でうつ伏せにさせた。
「痛いか?」
「ん、もうちょっと強くてもいい」
職場の人とかテオのお父さんにもよくしてあげているとかで慣れた手付きだった。テオからは何度も痛くないかと確認されるが、加減されすぎて逆にくすぐったい。
テオの手のひらの温度が高いので、押されている部分がじんわりと温熱効果を生み出している。とても心地良い。
「きもちいい…」
昼寝したけど、今までの睡眠負債を取り戻しただけで、まだまだ寝足りない。マッサージを受けながらこのまま眠れそうである。
「デイジー?」
「ぅん…」
テオに呼びかけられたが、私はすやすやと夢の世界へと旅立っていった。
夢も見ずに、深い深い夢の世界へと旅立っていったのである…
■□■
ちゅんちゅん、と外で鳥のさえずる音で目を覚ました。いつもよりスッキリ目覚めたような気がする。完全復帰とは行かないが、大分身体が楽になったように思える。
私は横向きになっていた身体を仰向けにして両腕を頭の天辺に伸ばすと、背伸びをした。するとバキボキっと腰辺りが音を立てる。あー腰が軽い。
ご飯を作ろうと起き上がると、ふと横から強い視線を感じ取った。
「…うわっ!?」
テオである。
奴は目を真っ赤にさせてこちらを見ていた。
「な、なに…起きてたの…」
驚いて引いていたら、テオはこちらに腕を伸ばしてきて私をベッドに引き戻した。
「…一晩中お前の寝顔見て我慢してた」
私を腕の中に閉じ込めてぎゅうと抱きしめると、覇気のなさそうな声で言った。
……私は男でも獣人でもないから、その衝動を理解できないが……その言い方だと私の訴えを聞き入れて一晩中我慢してくれていたのか…。一睡もしなかったのかまさか。
「…好きな女と結婚できただけでも俺は幸せもんなんだ。…3日は我慢する…」
萎れてしまいそうな声で宣言された言葉に私は思わず吹き出してしまった。
テオが可愛く感じたので、その広い背中に腕を回して抱きしめ返した。
「頑張ってね、旦那さん。できれば加減も覚えてほしいけど」
「う…頑張る」
スンスンスンと私の首元の匂いを嗅いで我慢しているテオはどうにも危うかったが、宣言通り3日我慢した。
4日目で私がどうなったか……
家から一歩も出られなかったことだけはここに記しておこうと思う。
私の口から漏れ出た言葉は、誰もいない新居内に虚しく響き渡った。
追い詰められた結果、私は家を出る事にした。手紙に【3日間くらい実家に泊まります、探さないでください】と書き残すと身一つで徒歩25分ほどの実家に出戻った。
手紙ではテオが心配しないように行き先を伝えておいた。探すなとも書いておいた。これで安心だ。
実家に帰ると、「新婚早々どうしたの」とお母さんに聞かれたが、言えない。
──旦那の愛が重すぎて身体が保たないとか。
獣人社会を甘く見ていた私が馬鹿だった。まさかこんなに気力体力削られるとは思わなかったんだよ…。仕事がしたいのと日常生活に戻りたいので蜜月を切り上げてもらったのに、夜の時間がより濃密になっただけであまり変わらない気がする。
私はとにかく安心して眠りたかった。
新居では疲れが取れないのだ。私の隣にはいつもお腹をすかせた獣がいるので、毎晩発情して襲われるの繰り返し。睡眠時間を削られ、身体がバキバキになった私は日中寝る羽目となり、不自由な生活を送らざるを得なかった。
自室のベッドに寝転ぶと私はため息を吐き出す。あぁ、べたべたのどろどろにならずに横になれるなんて幸せ過ぎる……
怠いし、行為のし過ぎであちこち痛い…過ぎる快感は拷問にも近いのだ。私は疲弊していた。……念のために言っておくが、酷いことはされていない。だが限度ってものがあると思うんだ。
私の意識はどんどん沈むこんでいく。夢も見ずに眠りについた。
「……!」
「こらっ待ちなさいってば!」
言い争う声によって、私の安楽の眠りは突如妨害された。
ガチャリとやや乱暴に開かれた扉、その先にいたオオカミの姿を見て、私の自由時間が半日で終わった事を悟った。
窓の外を見上げれば、外はすっかり真っ暗になっている。さては仕事が終わって家に帰った後にすぐに吹っ飛んできたな。一応、今日の分の夕飯は作り置きしておいたのだが、駄目だったか。
「迎えに来た、ほら帰るぞ」
ベッドに横になってる私を抱き上げようと手を伸ばしてきたテオ。
しかし私はその手を振り払った。
「私は家出宣言をしたはずだよ。3日は実家に住む」
空を切ったテオの手は手持ち無沙汰に浮かんでいる。私から拒絶された奴は呆然としていた。
「なんでだよ、なにか不満があるのか?」
その問いかけに私はぐむっと吐き出しそうになった言葉を飲み込んだ。
不満ていうかさ……あんた、毎日毎日人のこと襲って加減のかの字も知らない行為働いておいてよくも白々しく……
「なぁ、帰ろう?」
テオの不安そうな、縋るような目。
しかし今の私にはそれに絆されるほど心に余裕がなかった。睡眠不足、関節痛、喉の痛み、その他諸々……いい加減に頭がおかしくなりそうなんだ!
私はベッドに座ったまま、テオを真顔で見上げた。これが新居なら問答無用で襲われていたが、私の実家なので奴も流石にそんなことはしない。
私の安楽の地はここなのだ。私は安心して眠りたい!
「私のこと愛してる?」
「もちろん!」
言葉にして聞かなくてもわかっているけど、言質のために確認した。予想通りテオは迷いなく肯定してきた。
因みにこれは可愛らしい理由で尋ねたわけじゃない。
「なら3日位我慢できるでしょ? 私のこと愛してるんだものね。私のお願い聞いてくれるよね?」
「それは無理!」
清々しいほどの拒絶である。
愛する妻のおねだりを聞かないとはどういうことなのだろうか。
「──なら帰らない」
私はすん、と冷めた表情を浮かべると布団の中に逆戻りしてテオに背中を向けた。
今日は一人の部屋でゆっくり過ごすんだ。そして明日は薬作って、また夜はゆっくり眠るんだ。
「デイジー…わがまま言うなって」
わがままだと?
私の体と心は悲鳴を上げてるんだよ!
「じゃあ寝る時はお父さんを間に挟むけどいい?」
間にお父さんを挟んで眠ればテオも手を出してこないだろう。その条件を飲み込むなら帰ってもいい。
「やだよ! 何が悲しくて新婚時代に嫁さんの親父と同衾しなきゃなんねぇの?」
目が覚めて隣にいるのが髭面のおっさんってどういう状況だよ! と喚くテオ。それには部屋の外でお母さんと共に様子を伺っていたお父さんが微妙な顔をしていた。
テオ、あんたは全く私の気持ちがわかっていない。ずっとそばにいるのに、結婚してからほぼ毎日気絶しっぱなしの私が疲弊していることに気づかないのか!
「じゃなきゃあんた私の寝込み襲うでしょうが!」
私が怒鳴ると、テオは一瞬呆けた顔をした後に『何いってんの?』と言いたげな顔をして首を傾げた。
「隣に嫁が寝てたら襲うに決まってんだろ」
「限度ってものがあるでしょ!?」
ふざけんなよ! いくら獣人とはいえ、理性というものがあるんだからなんとかしろよ! あんたは嫁を殺す気なのか!
「体格差とか体力考えて!? 私は物理的に身体が壊れそうなんだよ!」
もう駄目、無理、と訴えてもこいつは調子に乗って更におかわりをしてくるんだ……。本気で無理と言ってるのに別の意味で受け取って発情しやがって…!
私がどれだけ悲鳴を上げているか見ているくせに、こいつは、こいつという奴は…! 絶倫エロ男め!!
「痴話喧嘩は家でやれ…」
遠い目をしたお父さんの疲れた声がやけに大きく響き渡った。
結局テオの泣き落としと両親の説得で私はテオと共に家に帰ることとなった。身体がきついなら、と私はテオに抱っこされてお持ち帰りされたのである。
帰ると、台所に作り置きしていた夕飯を温めてから食べた。そしてお風呂から上がるなり、テオが痛い部分をマッサージしてやると言って私をベッドの上でうつ伏せにさせた。
「痛いか?」
「ん、もうちょっと強くてもいい」
職場の人とかテオのお父さんにもよくしてあげているとかで慣れた手付きだった。テオからは何度も痛くないかと確認されるが、加減されすぎて逆にくすぐったい。
テオの手のひらの温度が高いので、押されている部分がじんわりと温熱効果を生み出している。とても心地良い。
「きもちいい…」
昼寝したけど、今までの睡眠負債を取り戻しただけで、まだまだ寝足りない。マッサージを受けながらこのまま眠れそうである。
「デイジー?」
「ぅん…」
テオに呼びかけられたが、私はすやすやと夢の世界へと旅立っていった。
夢も見ずに、深い深い夢の世界へと旅立っていったのである…
■□■
ちゅんちゅん、と外で鳥のさえずる音で目を覚ました。いつもよりスッキリ目覚めたような気がする。完全復帰とは行かないが、大分身体が楽になったように思える。
私は横向きになっていた身体を仰向けにして両腕を頭の天辺に伸ばすと、背伸びをした。するとバキボキっと腰辺りが音を立てる。あー腰が軽い。
ご飯を作ろうと起き上がると、ふと横から強い視線を感じ取った。
「…うわっ!?」
テオである。
奴は目を真っ赤にさせてこちらを見ていた。
「な、なに…起きてたの…」
驚いて引いていたら、テオはこちらに腕を伸ばしてきて私をベッドに引き戻した。
「…一晩中お前の寝顔見て我慢してた」
私を腕の中に閉じ込めてぎゅうと抱きしめると、覇気のなさそうな声で言った。
……私は男でも獣人でもないから、その衝動を理解できないが……その言い方だと私の訴えを聞き入れて一晩中我慢してくれていたのか…。一睡もしなかったのかまさか。
「…好きな女と結婚できただけでも俺は幸せもんなんだ。…3日は我慢する…」
萎れてしまいそうな声で宣言された言葉に私は思わず吹き出してしまった。
テオが可愛く感じたので、その広い背中に腕を回して抱きしめ返した。
「頑張ってね、旦那さん。できれば加減も覚えてほしいけど」
「う…頑張る」
スンスンスンと私の首元の匂いを嗅いで我慢しているテオはどうにも危うかったが、宣言通り3日我慢した。
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