番って10年目

アキアカネ

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「指輪……なのは分かるけど、何個あるの。これ」

 引き出しの中には、ベルベットのリングケースが入った小さい紙袋が複数個。
 複数個?
 袋のロゴから全部違うブランドだっていうことが分かる。ということは、セットじゃなくてそれぞれ買ったってことだろう。

 頭が追いつかないままヒデを見ると、へへっと照れ笑いをしている。
 なんで照れてるの!
 説明をしてよ!

「ナギ、やっぱり引いた?」

「引くっていうか、えっと、どれが俺の指輪?」

「……全部です」

 全部とは?

「えっと?」

 引き出しの前で困惑する俺。
 ヒデも立ち上がって俺の隣にやってきて、袋を指差しながら説明を始めた。

「最初に買ったのがこれ」

 見ると、学生に人気の比較的手の出しやすいジュエリーブランドだった。一万円しないでシルバーアクセが買えるのもポイントだ。

「高3のとき、実は買ってたんだ」

「それって」

「進路先もバラバラで渚のこと縛りたいってわけじゃないけど、指輪が離れてるときも渚のこと守ってくれるかなって。それに、渚とこの先もずっと一緒にいたかったからさ。卒業式に渡そうと思って、リュックに入れてたんだ……結局渡せなかったけどね」

 だから紙袋がちょっと傷ついてるんだ。

 高校の卒業式なんて、それこそ10年近くも前だ。番になって1年くらいで、俺はヒデと番になれて浮かれてるときで、ヒデはちゃんと考えてくれてたんだ。

「知らなかった」

「直前で怖気ついちゃったんだ。高校でプロポーズって重いかなとか、卒業式後の盛り上がりに水差しちゃうよなとか。リュックから出すことも出来ないで、気づいたら家に帰ってて。卒業の寂しさより渡せなかった不甲斐なさが勝ってたよ」

 その時を思い出しているのか、ヒデの顔は少し苦しそうだった。
 そんな顔をさせたいわけじゃなかったのに。

「で、次に買ったのがこっち」

 ヒデが指差したのは、さっきのより少しグレードアップしたブランド。もしかしてどんどん値段も上がっていくんだろうか。

「これはハタチの節目にって用意したんだけど、ナギのほうが先に社会人になったでしょ?」

「あ、うん。ヒデは大学だったけど、俺は専門だったから」

「先に独り立ちするナギに、こっちはまだ学生なのにプロポーズ出来ないよ」

「気にしすぎだよ!」

「プライドの問題というか……それで、社会人になったからって買ったのがそれね」

「もうこれで3個目だよ! 今さら言ってもどうしようもないのはわかってるけど、なんで毎回新しいの買っちゃうの!」

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