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エピローグ「落ちこぼれと浪人クラス」

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ヨーイチ
「それじゃ、お前も俺の妄想ってわけか」

ルキフェル
「いいえ」

ルキフェル
「私はあなたの中に残った、ルキフェルの残滓」

ヨーイチ
「よく分からん」

ルキフェル
「残留思念のようなものよ」

ヨーイチ
「漫画とかで良く聞く単語だが、実際に言われても困る」

ルキフェル
「そうかも」


 ルキフェルは、悪戯っぽく微笑んだ。


ヨーイチ
「俺は……ゲームの世界に居るのか?」

ルキフェル
「どう思う?」

ヨーイチ
「わかんねー」

ヨーイチ
「ダンプラにそっくりだが、作り物と割り切るには、リアルすぎる。それに……」

ヨーイチ
「ウヅキへの気持ちを、作り物だとは思いたくねーな」

ルキフェル
「妬けるわね」

ヨーイチ
「好きにしろよ。妬くだけなら自由だ」

ルキフェル
「しとしと」

ヨーイチ
「何だそれ?」

ルキフェル
「嫉妬の擬音よ」

ヨーイチ
「さいですか」

ルキフェル
「それにしても凄いわね。レベル3でユニークモンスターを倒すなんて」

ヨーイチ
「負けだろ」

ヨーイチ
「俺は途中で力尽きて、動けなかった」

ヨーイチ
「ミナクニとカゲトラが頑張らなきゃ、負けてた」

ルキフェル
「パーティの勝ちは、あなたの勝ちでもある。そうでしょう?」

ヨーイチ
「だと良いがな」

ヨーイチ
「魔獣なんて、対人戦のための、ただのチュートリアルだ」

ヨーイチ
「それに苦戦するなんて、面白くねーな」

ルキフェル
「頼もしいわね」

ルキフェル
「これからも期待してるわ」

ルキフェル
「頑張ってね。他のプレイヤーたちに負けないように」

ヨーイチ
「他のプレイヤー……たち?」

ルキフェル
「ええ」

ルキフェル
「既に記憶を取り戻しているはず」

ルキフェル
「みんな、根は良い子だと思うけど、気をつけてね」

ルキフェル
「それとレヴィアタンと、もっと仲良くしてあげてね」

ルキフェル
「あの子の本当の力は、あの程度では無いはずだから」

ルキフェル
「ダンジョンコアとしてのあの子の力を、ちゃんと引き出してあげて」

ヨーイチ
「どうやって……」

ルキフェル
「それじゃ」


 ルキフェルは、ヨーイチに背を向けた。


ヨーイチ
「おい……!」


 ヨーイチは、慌てて彼女を呼び止めた。

 だが、背景の白に溶け込むかのように、ルキフェルは姿を消してしまった。


ヨーイチ
「…………」

ヨーイチ
「結局ナニをすりゃ良いんだよ。俺は……」



 ……。



 翌朝。

 ヨーイチは、クラスの教室に入った。


アキラ
「ヨーイチ。おはよう」

ヒカリ
「おはよう。チャンピオン」

ヨーイチ
「おはよう」


 入室と同時に、アキラとヒカリが挨拶をしてきた。

 ヨーイチは、自分の机に向かった。

 そこへヒカリが駆け寄ってきた。


ヨーイチ
「露骨な転生者アピール止めろや。このデフォ顔が」

ヒカリ
「キャラメイクはさせてもらえなかったんですー」

ヨーイチ
「そうなのか」

ヒカリ
「うん。ひどいよね」

ヨーイチ
「ガリカインにブチこまれるよりマシだろ」

ヒカリ
「そうだね」

ヨーイチ
(……ルキフェルの言った感じだと、コイツの他にも転生者が居そうなんだよな)

ヨーイチ
「兄貴の方は? 転生者なのか?」

ヒカリ
「それが、どうも違うっぽいんだよね」

ヨーイチ
「……素であの性格なのかよ」


 熱血主人公っぽい奴。

 それがヨーイチから見た、アキラの印象だった。

 転生者なら、主人公という役割を、意図的に演じている可能性も有る。

 だが、そうでは無かったらしい。


ヒカリ
「あはは。ちょっと変わってるよね」

ヒカリ
「それで、どうなの?」

ヨーイチ
「何が?」

ヒカリ
「オーサコなんでしょ? キミ」

ヨーイチ
「ノーコメントで」

ヒカリ
「え~? いまさら隠さなくても良いのに」

ヨーイチ
「俺は、オーカイン=ヨーイチだよ」

ヒカリ
「そっか」

ヒカリ
「私はケンザキ=ヒカリ」

ヒカリ
「これからもよろしくね」

ヨーイチ
「ああ。よろしく。ケンザキ妹」

ヒカリ
「…………」

ヒカリ
「昨日あれからさ、ステータス見た?」

ヨーイチ
「見たけど?」

ヒカリ
「めちゃくちゃレベル上がってて、ビックリしたよ」

ヒカリ
「さすがユニークモンスターだなって思った」


 ユニークモンスターは、エンドコンテンツの1つだ。

 その能力は、ラスボスを凌駕することすら有る。

 それから得られるEXPも、莫大なものだった。


ヨーイチ
「そうだな」

ヨーイチ
「俺もレベル6に上がった」

ヒカリ
「えっ? しょぼい」

ヨーイチ
「2倍なんだが?」



 ……。



 午後のホームルームが終わった。

 去り際に、担任のマサユキが、ヨーイチに声をかけた。


マサユキ
「オーカインは、このあと校長室に来るように」

ヨーイチ
「分かりました」

ウヅキ
「…………?」


 マサユキが教室を去り、放課後になった。

 ヨーイチは、言われたとおりに、校長室へと向かった。


ヨーイチ
「失礼します」

センイチ
「どうぞ」


 ヨーイチは、校長室に足を踏み入れた。

 校長机の奥で、校長のカネムラ=センイチが、ヨーイチを出迎えた。

 センイチは小太りで、髪の薄い男だった。

 ヨーイチが校長机に近付くと、センイチは口を開いた。


センイチ
「オーカイン=ヨーイチくん」

ヨーイチ
「はい」

センイチ
「実はね、言いにくい話なんだが……」

センイチ
「君をこのまま在籍させておくのは、問題だという話が有るんだ」


 オーカ冒険者学校は、侍のために立てられた。

 だが今のヨーイチは、厳密には侍では無い。

 家長が武士としての収入を持たなければ、侍だとは言えない。

 ミトオーカイン家の家長は、領地を召し上げられた。

 今や、ただの浪人だ。

 その息子であるヨーイチも、浪人だと言えた。

 さらにヨーイチは、問題を起こしてもいる。

 それで、不適格だという話になったのだろう。

 ヨーイチは、そう考えた。


ヨーイチ
「退学ですか?」

センイチ
「いや。そこまでは言わない。だがね……」

センイチ
「君は、D組に移るべきだ」

センイチ
「理事会で、そういう話になった」

ヨーイチ
「浪人クラスですか」


 この学校は、侍のために立てられた。

 だが一応、浪人のためのクラスも、1つだけ用意されていた。

 浪人クラスという言葉に、良い意味は無い。

 校舎は隔離され、授業内容も劣る。

 露骨な被差別クラスだった。


センイチ
「うん。申し訳ないんだけどね」

ヨーイチ
「まあ、妥当でしょう」

ヨーイチ
「領地も扶持もありませんからね。今の俺には」

ヨーイチ
「浪人だと言われれば、その通りです」

センイチ
「承諾してくれるのかな?」

ヨーイチ
「はい」

センイチ
「良かった。それじゃ、細かい手続きは、こちらで済ませておくよ」

センイチ
「明日からは、D組の校舎にかよって欲しい」

センイチ
「明日の朝は、D組の職員室に、顔を出すように」

ヨーイチ
「分かりました」


 ヨーイチは、センイチに背を向けた。

 ヨーイチの背中に、センイチが声をかけた。


センイチ
「あのさ……オーカインくん」

ヨーイチ
「何ですか?」

センイチ
「フユザトノミヤ家に、言いつけたりはしないよね?」

ヨーイチ
「ご心配なく」


 ヨーイチは校長室を出た。


ウヅキ
「ヨーイチ」


 ウヅキの声が聞こえた。

 廊下には、パーティの仲間たちの姿が有った。


ヨーイチ
「みんな……」

ヨーイチ
「俺、クラスを移ることになった」



 ……。



ウヅキ
「抗議しましょう」


 ヨーイチの話を聞くなり、ウヅキは目を鋭くして、そう言った。


ヨーイチ
「やめとけよ」

ウヅキ
「ですが……!」

ヨーイチ
「俺はダンジョンコアを盗んだ」

ヨーイチ
「その時点で、本当なら退学処分が妥当なんだ」

ヨーイチ
「それを家の力で、うやむやにした」

ヨーイチ
「俺がやってきたことを考えたら、温情が有る方だと思うぜ」

ウヅキ
「D組は……設備も授業内容も、今のクラスより劣悪だと聞きます」

ヨーイチ
「べつに良いさ」

ヨーイチ
「そんなもんに拘るほど、上品じゃねーよ」


 ヨーイチの1番の目標は、強くなることだ。

 そしてヨーイチは、ダンジョンの攻略法を知っている。

 冒険者学校に通うことが、強さの必要条件だとは、ヨーイチは思わなかった。

 一応は、高校くらい卒業しておくか。

 今のヨーイチにとって、この学校は、その程度の存在でしか無い。


ヒカリ
「御三家のおぼっちゃまのくせに」

ヨーイチ
「元な」

ヨーイチ
「とにかく、もう決まった話だ」

ヨーイチ
「グダグダ言うのは止めようぜ」

アキラ
「分かった」

アキラ
「けど、D組で何か有ったら、すぐに相談してくれよな」

ヨーイチ
「気が向いたらな」

チナツ
「また一緒に、ダンジョンに潜ろうね」

ヨーイチ
「ああ」

ヨーイチ
「それで、これからどうする?」

ウヅキ
「5人でダンジョンに行きませんか?」

ヨーイチ
「それも良いな」


 その日は5人で、ダンジョンに潜った。

 20層のボス、雷鳴の大鷲を、撃破した。

 圧勝だった。

 ユニークモンスターのEXPを得た5人に、上層のボス程度では、相手にならなかった。

 ボス部屋で記念撮影をして、家に帰った。

 そして、その翌日。


ヨーイチ
「うっわあ……」


 冒険者学校の、敷地の片隅。

 そこに寂れた、木造の校舎が有った。

 ヨーイチは、その前に立っていた。

 そこは、浪人クラスの校舎だ。

 侍クラスの校舎とは、比較にならない。

 あまりにもみすぼらしかった。


ヨーイチ
(予算……じゃねえな)

ヨーイチ
(浪人と侍の差別化か)

ヨーイチ
(侍連中に、優越感を持たせるために、わざとやってるってわけだ)

レヴィ
「許せません」


 ヨーイチの隣で、レヴィが顔をしかめていた。


レヴィ
「あるじ様を、こんな校舎に通わせるだなんて……」

レヴィ
「あの校長、毛根を刈り尽くして……」

ヨーイチ
「まあまあ」

ヨーイチ
「風情が有って良いじゃねーか」

レヴィ
「あるじ様が、そう言うのでしたら……」


 ヨーイチは、校舎に足を踏み入れた。

 下駄箱を通り、職員室に向かった。


ヨーイチ
「すいませーん」


 職員室に入ると、ヨーイチは中に呼びかけた。


ヨーイチ
「今日からこっちでお世話になる、オーカインですけどー」

ギンコ
「おお。よく来たな」


 赤髪の女性教員が、ヨーイチに話しかけてきた。

 彼女の年齢は、まだ30に届かないように見えた。

 身長は平均よりは少し高いが、チナツよりも低い。

 特にがっしりしているというわけでも無い。

 だが妙に、貫禄が有った。

 元は、腕の立つ冒険者だったのかもしれない。

 ヨーイチは、そう推測した。


ギンコ
「私はイトー=ギンコ。お前らの担任だ。よろしくな」

ヨーイチ
「オーカイン=ヨーイチです。よろしくお願いします」

ギンコ
「それじゃ、始業のチャイムが鳴るまで、そのへんでくつろいでてくれ」

ヨーイチ
「分かりました」


 ヨーイチは、職員室のソファに座り、くつろいだ。

 やがて、朝のホームルームの時間になった。

 ヨーイチはギンコと共に、職員室を出た。

 そして、クラスの教室を訪れた。


ギンコ
「みんな。今日は編入生を紹介するぞ」

ギンコ
「まずは自己紹介だな」

ヨーイチ
「…………」


 ヨーイチは、黒板の前で、教室を見回した。

 ギラリとした視線がいくつも、ヨーイチに突き刺さっていた。

 明白な敵意が、そこには有った。


ヨーイチ
(へぇ……)

ヨーイチ
(思ったより、楽しそうな所じゃねえか)


 敵意を受けても、ヨーイチが萎縮することは無かった。

 戦いの予感に、心を躍らせていた。


ヨーイチ
「俺はオーカイン=ヨーイチだ。B組から、落ちこぼれて来た」

ヨーイチ
「まあ、楽しくやろうぜ」


 いずれ世界を救う少年は、そう言って、挑発的な笑みを浮かべた。


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みんなの感想(1件)

vv0maru0vv
2023.02.24 vv0maru0vv

あっと言う間に読んでしまいました。
ヨーイチ引退か(*´・д・)これから変わったりしないかな?
長編ということで、これからどうなって行くのか、続き楽しみにしています。

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