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2.幼馴染
ディアナとダニエルは昔からの幼馴染だった。国の第三王子と伯爵令嬢という身分違いの間柄だったが、年齢が近く、バルザレッティ伯爵が王と懇意の間柄だったためだ。
よく二人で外を駆け回り、周囲にイタズラを仕掛けたものだった。身分の高い王族様と貴族様が一体何をしているのだと、周囲の大人たちは大騒ぎしていた。
そんな風に過ごしていくうちに、ディアナの幼心にはダニエルに対する淡い恋心が芽生えていった。「今日も冒険に行くぞ」と言ってディアナの小さな手を引っ張る。その横顔に、頼もしさと優しさを常に感じていた。
だが思春期に入った頃からその関係は崩れてしまう。
ディアナがダニエルに対して恋心を抱えていることは、彼もお見通しだったのだろう。ダニエルがディアナに対してどのような感情を持っているかは全く分からなかったが、ディアナはそれでも良かった。彼の隣にさえいられれば。成長した二人が外を駆け回ることは既になかったが、王宮にある図書館などで一緒の時間を過ごしたりしていた。
ある日、2人でいつものように王宮図書館で過ごしていると、そこへ第二王子のクラウスがやってきた。彼は常に陰気な雰囲気を纏っており、口から出る言葉は嫌味ばかり。ディアナもそんな彼を苦手としていた。
クラウスは蔑みを持った目でダニエルを見ると、片方の口角を吊り上げ嘲笑いながら言った。
「ダニエル、貴様ディアナが好きなのか?だが相手は所詮、伯爵令嬢。そんな相手を選ぶとは貴様の格も知れたものだな」
その言葉にダニエルは顔を真っ青にした。元々彼は繊細で傷つきやすい質で、さらに大きなコンプレックスを持っていた。
国の第一王子である兄は勤勉で剣術に優れ、尚且つ周囲を率いて行く力を持つ男だ。そして目の前に入る第二王子は陰気なものの、勉学においては他の追随を許さないほど優秀な男だった。
だが第三王子であるダニエルには、これと言って特別に誇れるものはなかった。強いて言えば芸術肌で、彼の書いた絵画は貴族たちに高く評価されていたが、王族としては何の意味も持たないものと言えた。剣術や勉学に優れている二人に比べぱっとせず、それが常にしこりとなっていたのだろう。
「兄上、僕は…………ディアナの事など好きではありません。仕方がないから相手をしてやっているのです」
「ふん、それならいい」
ダニエルのその言葉にディアナの心は凍りついた。常に優しく接してくれていた彼から、心ない言葉を聞くとは思いもよらなかったのだ。
(ダニエル様、どうしてそんなことをいうのですか!!)
悲しみと苦しさでいっぱいになった心は今にも崩れ落ちてしまいそうだった。だが貴族としての矜持のために、取り乱すことは許されない。
ディアナを否定する言葉を聞いて満足したクラウスは、優雅な足取りで図書館を出て行った。
二人の間を気まずい空気が包みこむ。
ダニエルは自分の失言に対し、なんと言っていいのか分からないようで目線をちらちらと彷徨わせていた。
(私が……どうにかしないと)
自らの傷付いた心より、彼がディアナを傷付ける言葉を吐いてしまった事に対し傷付いていないか。その方が心配でならなかった。
ディアナはそんな空気を破るように、なるべく底抜けに明るい様子で口を開いた。
「えっと!あはは、そうですよね。わ、私のような身分の女が勘違いしていて申し訳ないです!あはは……」
「……」
ディアナの空笑いが室内に響く。
彼女の言葉を聞いた途端、ダニエルは「何を言っているの」と信じられないものを見る目で見つめてきた。それでも、どうにかしてこの場の空気を取り持とうとするディアナは、必死に明るさを取り繕う。
そんな彼女をしばらくの間見つめていたダニエルの表情は、少しずつ抜け落ちていった。瞳の奥にはなんの感情も宿していなかった。
この日はこうして、お互いに気まずいまま別れた。
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