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15.再会
しおりを挟む「来たか」
約束通り、ディアナは王城の第三王子の自室を訪れた。
手紙を送りつけてきた本人はと言うと、優雅にソファで寛いでいる。ディアナを見るダニエルの瞳からなんとも言えぬ企みを感じ取り、背中を震わせた。
(ダニエル様、こんな瞳をするような人だったかしら……)
改めて見るダニエルは、やはり金髪碧眼の美形であった。だが、それ以上に果てのない闇を背負っているように思えてならないのだ。
「なにをじろじろ見ている。迷惑甚だしい」
「すみません」
もはや謝る気も起きなかったが、穏便に事を進めたいディアナは一応形式だけはとった。
ダニエルの婚約者という立場であったときは、ある意味距離が近すぎて分からなかったのだろう。ディアナは今日、初めて気がついたのだ。
ーーこの男は普通ではないと。
伯爵令嬢という立場から、社交会で様々な人間を見てきた。己に劣等感を抱いているもの、自己主張の激しいもの、恋人に溺れていくもの。だが、そのいずれかの人間とはまったくもって性質が違うように感じた。それはディアナの理解の範疇を超えているものだ。
ダニエルの思考を読むことなど出来ないゆえ、どのような性質のものなのかは分からないのではあるが。
(早く要件を伝えて帰りたいわ)
心の中で呟くと一気に、体に重石が乗せられたかのように苦痛と煩わしさを覚えた。
「元気で過ごしてたか?…………ってディアナ。お前、婚約破棄されたんだもんな」
(自分が婚約破棄したのでしょ?)
男の表情から、ディアナをからかって遊びたいという思惑が明け透けに感じとられる。
そんなものには引っかかるまいと、無表情かつ無言で時が流れるのを待つ。
「それなら、泣いて過ごしていたに違いないか。あぁ、可哀想に」
「…………えぇ、おかげさまで」
ディアナの返答が嫌味混じりだったことに、ダニエルは気がつかない。
(……本当にいつまでも傲慢な人)
幼い頃に劣等感に苛まれ続けていた面影は、今やどこにも見当たらない。あるのはただの暴虐と傲慢。目の前の男は、幼い頃に親しかった幼馴染の成れの果てだ。
ディアナは煩わしさにこっそりと嘆息したが、早く自らの要件を伝えたいと、王子の要件を促した。
「それで、ダニエル様。本日はいったいどのような御用向きでしょうか?婚約破棄された私が城の門をくぐるなど、あまり良いことのようには思えないのですが」
さながら機械のように、淡々とした口調で事実を述べる。
実際本日、ディアナは王城の入り口にて門衛に不審な顔を向けられたのだ。王子に婚約破棄された令嬢が、10日を待たずして王城に出入りするだなんていかにも何かあると言わんばかりだ。
王子からの呼び出しだと理由を説明すれば建前上、納得したように見せていた。だが、あの言いようのない表情は侮蔑か、あるいは憐れみか。
正直、見知らぬ誰かにそんな視線を向けられることは居心地が悪い。
細かい気遣いの回らない目の前の男を一瞥する。
「そうだな。だが、それがどうかしたのか?もしや、門衛にでも何か言われたのか?」
ディアナはぐっと言葉を詰まらせる。
ダニエルに告げることはできない。門衛の視線に不快な気持ちを覚えたということを。
なぜなら、この目の前の男に言えばーーーー門衛を処刑してしまう可能性があるのだから。
ダニエルは、ディアナが他の何かに傷つけられたと分かると「それ」を簡単に切り捨ててしまうのだ。
小さい頃からダニエル自身が可愛がってきた動物は、ディアナに引っ掻き傷をつけた翌日から姿を見ることはなくなった。彼に理由を尋ねれば「お前が俺に、傷付けられた事を教えたのだろう。だから処分した。お前が殺したも同然だ」と言いのけた。
この時ほど後悔したことはない。
何故か目の前の男は、ディアナが身体的に傷つけられる事を酷く嫌った。
自分だって精神的に傷つけているはずなのにその事は棚に上げ、他のものがディアナを傷つけるということに敏感なのだ。支離滅裂にも思える行動に、ディアナは言いようのない不安を感じ取った。
「まあ、そんなことはどうでもいい…………喜べ」
ダニエルはまるで台詞を出し惜しむかのように、間を空ける。ディアナの双眸をまっすぐに見つめると、片方の口角を上げ、いかにも楽しそうに宣言した。
「婚約破棄の件、破棄とする」
「…………は、い?」
ディアナはあまりの突飛な宣言に、思わず呼吸が止まりそうになった。
(な、に…………言ってるの、この人。ありえない………………ありえないわ!!!)
初めは困惑を覚えていた心からは、次第に度し難い怒りが吹き出していく。さらに憤怒の感情で、徐々に頭の中は真っ赤に染まっていった。
ディアナは今後一切、ダニエルに関わるつもりはないのだ。手紙をもらった昨日、袂を分かつと決めていたのだから。
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