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第一部
31:無実の証明へ
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ローレルを被告人とした裁判が始まってしまうまであとたったの一日。助けに入るのさえ間に合わないと諦めかけたが、リエルの転移能力によってその問題は解決。
まだ夕方にさえなっていないので、今からならば色々と動くための時間を確保することができそうだ。
シノ、リエル、ファルマの三人は、街の南門近くにある路地へと転移してきていた。人前へいきなり転移したら騒ぎになることは間違いないので、リエルが調整してくれたのだろう。
「本当に一瞬で街に……!? リエルさんの力は凄いですね……」
周囲を確認して間違いなくリューンベルであることを知ったファルマはひどく感心していた。精霊の能力とはいえ、やはりこれは割とチートじみている感じがする。
大精霊以外はそこまで強力な設定をした気はないのだが、これが作者の手を離れた存在というやつだろうか。
これからの行動を考えようとしていると、シノの腕にリエルが倒れ掛かってきた。やはり能力の反動で疲れてしまったようで、少し肩で息をしているようだ。
「あ、ありがとう……御座います……」
「あなたのお陰なんだから気にしないで。ファルマさん、家まで案内してもらっても?」
「リエルさんはそこで休んで頂いたほうがよろしいでしょう。こちらです」
シノはリエルを背負って路地を出ると、ファルマの先導で彼女の自宅を目指す。夕方になっても相変わらず物凄い人数が行き交っているので、ぶつからないように注意しなければならない。
「さぁ、どうぞ中へ。空いている部屋が一つありますので、リエルさんをそちらに」
十分少々歩くとファルマの自宅へ着き、促されるままに二人は空いている部屋へ。一人暮らしとはいってもクラド村とはかなりの差があり、さすが都といった綺麗な内装だ。ベッドにリエルを寝かせると、シノはとりあえず一息ついた。
「それで、ローレルさんの疑いを晴らすための材料探しですが……どうするべきなんでしょうか」
「ひとまず病院へ戻ったほうがいいと思われます。状況を洗いなおす必要もあるので」
「わかりました。では、行きましょう! リエルはここで休んでてね」
こういう捜査の基本はまず原点に立返ることが重要だ。この場合は、ローレルが勤める病院がその場所になるだろう。
横になったままリエルが頷いたのを確認すると、シノとファルマは家を後にする。
それからしばらくの後、残された彼女は静かに寝息を立て始めたのだった。
◇
リューンベル中央医院に向かう道中、シノはファルマから事の経緯を詳しく聞いていた。ローレルに対して訴えを起こした人物であったり、当時の状況についてなど色々だ。
「ラウス・ノワルド……それが、今回の裁判を起こした人物なんですね」
リューンベル役所の役人にしてトップの地位にいる男、ラウス・ノワルド。
役所の人間ではあるがその悪名も高く、今の地位も金で手に入れたという噂だってあるらしい。まさにテンプレに沿ったような悪代官タイプだ。まさか実際にいるとは驚きである。
「わざわざお抱えの兵を連れて此処へやってきましたので……」
「うわぁ……まさに、目的のためなら手段を選ばなさそうな感じの人物ですね」
シノの頭には、役人が部下をけしかけてローレルを連行している様子が思い描かれていた。
そんな展開はドラマや映画の中だけで十分なのに、どうして現実で起こってしまうのか。思うところは色々あるが、今は現状を何とかするのが先決だ。
病院へとやってきた二人は、ローレルの仕事部屋から証拠材料を探し始めている。幸いにも何かを没収されているというわけではなく、物はそのまま残っていた。
「シノさん、こちらをご覧ください」
「この書類の数々は……研究資料ですか?」
「はい。以前シノさんがご訪問された時に見せて頂いた魔法を元に、先生が進められた研究資料です」
ファルマに呼ばれたシノが机の上を見ると、何十枚にも及ぶであろう資料が所せましと並べられていた。
シノは専門ではないのでよくわからないが、魔法の理論などについての記述があちこちに見える。たった一度見せただけなのにここまでまとめることが出来るとは、さすが腕利きの研究者だ。
「魔法の実験に使う材料もいくつかありますね……費用も結構かかっているんじゃあ?」
「そうですね……役所からの定期支援金で、だいたい百万グランといったところでしょうか」
それは大層な金額だと、シノは素直に驚いていた。百万グランというと、普通の勤め人が大体四ヶ月ぐらいで稼ぐ金額に相当する。
いつの時代でもどこの世界でも、新しく物を生み出すのにはそれなりの費用がかかってしまうということだ。
「見た感じでは不審な感じは全然見受けられませんよね……おかしな材料を使っているわけでもないですし」
「それは当然です。正規の手順で仕入れた研究材料ですから、違法なはずもありません」
「でも、件のノワルド氏は有無を言わさずローレルさんを連行していった、と……」
となると、やはり自分のせいなんじゃないだろうかとシノは考えてしまう。
どこから湧いて出たかもわからない魔法の研究を始めてしまえば、不正とは言わずとも不穏には見えてしまうだろう。
また後ろ向きな考えをしてしまったシノだったが、ファルマは赤い瞳でじっとこちらを見据えると、
「シノさん。何度も申し上げますが、貴女のせいではありません。新たな研究の度に不審だの危険だの言われていては、それこそ研究者なんて既に途絶えていますよ」
もっともな事を言ってみせた。確かにそれもそうだ。新しい技術や技能に対していちいち突っかかっていては、世界はずっと石器時代のまま止まっていることだろう。
今優先すべきなのは、どうしてローレルがいわれのない疑いで罪に問われているのかについてだ。
「先生は皆のために医療魔法の研究を進めていたっていうのに、不審呼ばわりだなんて許せませんよ!」
「そうだそうだ! ノワルドの奴、役人のトップなのを良い事に何かでっちあげでもしてるに違いないさ!」
周りで二人のやり取りを聞いていた病院の従業員達もこぞって声をあげる。誰一人としてローレルに落ち度があると思っている人などおらず、彼の信頼度の高さが伺えた。
しかし、ここで声をあげていてもどうにもならないのもまた事実だ。たとえ自分達が証人になったとしても、真正面から突き返されて終わりになる可能性だってある。それならば、罪を晴らす決定的な証拠を探したほうがいい。
「何かあるとすれば、役所の方を探ってみるべきかもしれません」
「先生が告訴された原因……それを直接探すおつもりなのですね」
「悪評が多い役人のようですし、何か不審な物が残っている可能性もあるので。もしそれらが見つかれば、逆に訴えることだって出来ると思いますよ」
「最悪、先生の疑いが晴れれば私達はそれで充分です」
シノはラウス本人に会ったこともないのでなんとも言えないが、彼が典型的な悪人思考をしているのであれば何か証拠を残しているかもしれない。
もちろんそれはローレルが完全な潔白である前提での話になるのだが、可能性としては大いにある。
それと同時に、彼が今研究している魔法が決して危険なものではないという証明だってする必要があるだろう。これに関しては口で言って信じてもらえるものではないと思われるため、実際に見せなければならない。
「……よし、それじゃあやることは決まりましたね。ならさっそく役所に――――――」
裁判は明日の昼なので、今日のうちに出来る限りの行動は起こしておきたい。そう思ってすぐに踵を返そうとしたシノだったが、それを見たファルマは目を伏せると首を横に振った。
「……残念ながら、夕刻以降は一般人が役所に許可なく立ち入ることはできないのです」
ふと外に目をやると、既に陽が沈みかけていることに気付く。病院で色々やっているうちにまさかそんなに時間が経っていたとは。
しまったといわんばかりにシノは肩を落とした。となると、時間は明日の夜明けから正午までしか残されていないということだ。
「……すみません。私がもうちょっと迅速に行動できていたら」
「いえ、そんなことはありませんよ。シノさん達に来て頂いただけでも状況は好転したと思っていますので」
思わず謝ってしまったシノに対して、ファルマは柔らかく微笑んで答える。本当なら彼女もローレルのことが心配でならない筈なのに、シノに無用な心配をかけまいと振る舞っているのだろうか。
もしそうならば、助けにきた自分がしっかりしなければならない。やるべきことは決まったのだ。まずは落ち着かなければ。
(ローレルさんの疑いは絶対に晴らす! そしてラウス・ノワルド……彼にもし裏があるのなら、それも暴いてみせる!)
シノは心の中でそう決心すると、明日に向けての思いを固めた。役所に出向いてラウスの裏を探り、それも踏まえて午後の裁判にて決着をつける。
正直なところ、都の裁判という非常に大きな場で魔法を披露することに対してあまり気は進まないが、そうしないとローレルが進めている魔法の研究が不正で不審なものという疑いは消えない。
「ただ、こうなってしまうとシノさんに証人として出て頂かなければならなくなってしまいますが……」
「それは仕方がないですよ。そもそも、私が何か提示しないと疑いを晴らす事はできませんし」
「お手数をお掛けします、シノさん。どうかよろしくお願い致します」
思ってみるとラウスは、ローレルにとって証人となりえる人物が全く外部の存在であることに気付いた上で、ここまで早くに裁判を起こしたのだろうか? だとすれば、とんでもなく悪に長けた策士である。このままいけば証人が到着する前に裁判を終わらせてしまえるのだから。
しかし、結果として彼は重大なことを見落としていたようだ。
(リエルが居てくれなかったら本当に危なかったかもね……無事に終わったら、改めてお礼しなきゃ)
ふと周りを見ると、従業員達は明日の傍聴をどうするだのといった話をし始めていた。見守ることしか出来ないが、裁判の場に立つローレル本人にとっては心強い支えになってくれるだろう。こんなにも信頼してくれる人達がいるのだから、必ず勝ちで終わらせなければならない。
そうしてシノは彼ら彼女らにお辞儀をした後、改めて病院を後にする。
「シノさん、今日は私の家に泊まって頂いて構いません。私も仕事を終わらせたらすぐに戻りますので」
「ありがとう御座います、ファルマさん。それじゃあ、お言葉に甘えて」
家で休んでいるリエルのことも気になったので、シノは一足先に帰ることにした。ファルマの見送りを受けた彼女は、既に陽が沈んだリューンベルの街中を歩いてゆく。
明日への決意を胸に様々な思いを巡らせながら、シノの姿は夜の雑踏へと消えていくのであった。
まだ夕方にさえなっていないので、今からならば色々と動くための時間を確保することができそうだ。
シノ、リエル、ファルマの三人は、街の南門近くにある路地へと転移してきていた。人前へいきなり転移したら騒ぎになることは間違いないので、リエルが調整してくれたのだろう。
「本当に一瞬で街に……!? リエルさんの力は凄いですね……」
周囲を確認して間違いなくリューンベルであることを知ったファルマはひどく感心していた。精霊の能力とはいえ、やはりこれは割とチートじみている感じがする。
大精霊以外はそこまで強力な設定をした気はないのだが、これが作者の手を離れた存在というやつだろうか。
これからの行動を考えようとしていると、シノの腕にリエルが倒れ掛かってきた。やはり能力の反動で疲れてしまったようで、少し肩で息をしているようだ。
「あ、ありがとう……御座います……」
「あなたのお陰なんだから気にしないで。ファルマさん、家まで案内してもらっても?」
「リエルさんはそこで休んで頂いたほうがよろしいでしょう。こちらです」
シノはリエルを背負って路地を出ると、ファルマの先導で彼女の自宅を目指す。夕方になっても相変わらず物凄い人数が行き交っているので、ぶつからないように注意しなければならない。
「さぁ、どうぞ中へ。空いている部屋が一つありますので、リエルさんをそちらに」
十分少々歩くとファルマの自宅へ着き、促されるままに二人は空いている部屋へ。一人暮らしとはいってもクラド村とはかなりの差があり、さすが都といった綺麗な内装だ。ベッドにリエルを寝かせると、シノはとりあえず一息ついた。
「それで、ローレルさんの疑いを晴らすための材料探しですが……どうするべきなんでしょうか」
「ひとまず病院へ戻ったほうがいいと思われます。状況を洗いなおす必要もあるので」
「わかりました。では、行きましょう! リエルはここで休んでてね」
こういう捜査の基本はまず原点に立返ることが重要だ。この場合は、ローレルが勤める病院がその場所になるだろう。
横になったままリエルが頷いたのを確認すると、シノとファルマは家を後にする。
それからしばらくの後、残された彼女は静かに寝息を立て始めたのだった。
◇
リューンベル中央医院に向かう道中、シノはファルマから事の経緯を詳しく聞いていた。ローレルに対して訴えを起こした人物であったり、当時の状況についてなど色々だ。
「ラウス・ノワルド……それが、今回の裁判を起こした人物なんですね」
リューンベル役所の役人にしてトップの地位にいる男、ラウス・ノワルド。
役所の人間ではあるがその悪名も高く、今の地位も金で手に入れたという噂だってあるらしい。まさにテンプレに沿ったような悪代官タイプだ。まさか実際にいるとは驚きである。
「わざわざお抱えの兵を連れて此処へやってきましたので……」
「うわぁ……まさに、目的のためなら手段を選ばなさそうな感じの人物ですね」
シノの頭には、役人が部下をけしかけてローレルを連行している様子が思い描かれていた。
そんな展開はドラマや映画の中だけで十分なのに、どうして現実で起こってしまうのか。思うところは色々あるが、今は現状を何とかするのが先決だ。
病院へとやってきた二人は、ローレルの仕事部屋から証拠材料を探し始めている。幸いにも何かを没収されているというわけではなく、物はそのまま残っていた。
「シノさん、こちらをご覧ください」
「この書類の数々は……研究資料ですか?」
「はい。以前シノさんがご訪問された時に見せて頂いた魔法を元に、先生が進められた研究資料です」
ファルマに呼ばれたシノが机の上を見ると、何十枚にも及ぶであろう資料が所せましと並べられていた。
シノは専門ではないのでよくわからないが、魔法の理論などについての記述があちこちに見える。たった一度見せただけなのにここまでまとめることが出来るとは、さすが腕利きの研究者だ。
「魔法の実験に使う材料もいくつかありますね……費用も結構かかっているんじゃあ?」
「そうですね……役所からの定期支援金で、だいたい百万グランといったところでしょうか」
それは大層な金額だと、シノは素直に驚いていた。百万グランというと、普通の勤め人が大体四ヶ月ぐらいで稼ぐ金額に相当する。
いつの時代でもどこの世界でも、新しく物を生み出すのにはそれなりの費用がかかってしまうということだ。
「見た感じでは不審な感じは全然見受けられませんよね……おかしな材料を使っているわけでもないですし」
「それは当然です。正規の手順で仕入れた研究材料ですから、違法なはずもありません」
「でも、件のノワルド氏は有無を言わさずローレルさんを連行していった、と……」
となると、やはり自分のせいなんじゃないだろうかとシノは考えてしまう。
どこから湧いて出たかもわからない魔法の研究を始めてしまえば、不正とは言わずとも不穏には見えてしまうだろう。
また後ろ向きな考えをしてしまったシノだったが、ファルマは赤い瞳でじっとこちらを見据えると、
「シノさん。何度も申し上げますが、貴女のせいではありません。新たな研究の度に不審だの危険だの言われていては、それこそ研究者なんて既に途絶えていますよ」
もっともな事を言ってみせた。確かにそれもそうだ。新しい技術や技能に対していちいち突っかかっていては、世界はずっと石器時代のまま止まっていることだろう。
今優先すべきなのは、どうしてローレルがいわれのない疑いで罪に問われているのかについてだ。
「先生は皆のために医療魔法の研究を進めていたっていうのに、不審呼ばわりだなんて許せませんよ!」
「そうだそうだ! ノワルドの奴、役人のトップなのを良い事に何かでっちあげでもしてるに違いないさ!」
周りで二人のやり取りを聞いていた病院の従業員達もこぞって声をあげる。誰一人としてローレルに落ち度があると思っている人などおらず、彼の信頼度の高さが伺えた。
しかし、ここで声をあげていてもどうにもならないのもまた事実だ。たとえ自分達が証人になったとしても、真正面から突き返されて終わりになる可能性だってある。それならば、罪を晴らす決定的な証拠を探したほうがいい。
「何かあるとすれば、役所の方を探ってみるべきかもしれません」
「先生が告訴された原因……それを直接探すおつもりなのですね」
「悪評が多い役人のようですし、何か不審な物が残っている可能性もあるので。もしそれらが見つかれば、逆に訴えることだって出来ると思いますよ」
「最悪、先生の疑いが晴れれば私達はそれで充分です」
シノはラウス本人に会ったこともないのでなんとも言えないが、彼が典型的な悪人思考をしているのであれば何か証拠を残しているかもしれない。
もちろんそれはローレルが完全な潔白である前提での話になるのだが、可能性としては大いにある。
それと同時に、彼が今研究している魔法が決して危険なものではないという証明だってする必要があるだろう。これに関しては口で言って信じてもらえるものではないと思われるため、実際に見せなければならない。
「……よし、それじゃあやることは決まりましたね。ならさっそく役所に――――――」
裁判は明日の昼なので、今日のうちに出来る限りの行動は起こしておきたい。そう思ってすぐに踵を返そうとしたシノだったが、それを見たファルマは目を伏せると首を横に振った。
「……残念ながら、夕刻以降は一般人が役所に許可なく立ち入ることはできないのです」
ふと外に目をやると、既に陽が沈みかけていることに気付く。病院で色々やっているうちにまさかそんなに時間が経っていたとは。
しまったといわんばかりにシノは肩を落とした。となると、時間は明日の夜明けから正午までしか残されていないということだ。
「……すみません。私がもうちょっと迅速に行動できていたら」
「いえ、そんなことはありませんよ。シノさん達に来て頂いただけでも状況は好転したと思っていますので」
思わず謝ってしまったシノに対して、ファルマは柔らかく微笑んで答える。本当なら彼女もローレルのことが心配でならない筈なのに、シノに無用な心配をかけまいと振る舞っているのだろうか。
もしそうならば、助けにきた自分がしっかりしなければならない。やるべきことは決まったのだ。まずは落ち着かなければ。
(ローレルさんの疑いは絶対に晴らす! そしてラウス・ノワルド……彼にもし裏があるのなら、それも暴いてみせる!)
シノは心の中でそう決心すると、明日に向けての思いを固めた。役所に出向いてラウスの裏を探り、それも踏まえて午後の裁判にて決着をつける。
正直なところ、都の裁判という非常に大きな場で魔法を披露することに対してあまり気は進まないが、そうしないとローレルが進めている魔法の研究が不正で不審なものという疑いは消えない。
「ただ、こうなってしまうとシノさんに証人として出て頂かなければならなくなってしまいますが……」
「それは仕方がないですよ。そもそも、私が何か提示しないと疑いを晴らす事はできませんし」
「お手数をお掛けします、シノさん。どうかよろしくお願い致します」
思ってみるとラウスは、ローレルにとって証人となりえる人物が全く外部の存在であることに気付いた上で、ここまで早くに裁判を起こしたのだろうか? だとすれば、とんでもなく悪に長けた策士である。このままいけば証人が到着する前に裁判を終わらせてしまえるのだから。
しかし、結果として彼は重大なことを見落としていたようだ。
(リエルが居てくれなかったら本当に危なかったかもね……無事に終わったら、改めてお礼しなきゃ)
ふと周りを見ると、従業員達は明日の傍聴をどうするだのといった話をし始めていた。見守ることしか出来ないが、裁判の場に立つローレル本人にとっては心強い支えになってくれるだろう。こんなにも信頼してくれる人達がいるのだから、必ず勝ちで終わらせなければならない。
そうしてシノは彼ら彼女らにお辞儀をした後、改めて病院を後にする。
「シノさん、今日は私の家に泊まって頂いて構いません。私も仕事を終わらせたらすぐに戻りますので」
「ありがとう御座います、ファルマさん。それじゃあ、お言葉に甘えて」
家で休んでいるリエルのことも気になったので、シノは一足先に帰ることにした。ファルマの見送りを受けた彼女は、既に陽が沈んだリューンベルの街中を歩いてゆく。
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