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20 睦言
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翌朝の目覚めは、悔しいことにかなり良かった。久しぶりに朝寝坊までしてぐっすり眠れたし、少し気怠いものの、頭がすっきりして体も軽い。
「やっぱり適度なセックスは必要だな」
そんなことを宣いながら機嫌良くキッチンに立つ五十嵐を、本田は冷めた目で見つめた。
「昨日のあれは卑怯だよ。Fair じゃない」
口ではそう言いながらも自分のためにランチを作ってくれている男の側にいるあたり、本田もそこまで怒っているわけではないのだろう。その証拠に、ノートパソコンで仕事をしながらも、きちんと会話に応じている。
ただ一つだけ。キッチンのカウンター越しに見える奥には、物置きを兼用した3畳ほどの家事室がある。そこから聞こえる『ごうん、ごうん』という音に、少し居た堪れない思いをしているだけだ。昨夜の行為で色々と汚れた部屋着や白衣やらが、泡にまみれて豪快に回っている。
「なかなか燃えるシチュエーションだっただろ。でも職場で本当にあんな事したら絶対に駄目だからな」
「しないってば! 圭吾ってば、変な Blue movie の見過ぎだよ!」
くだらない妄想は、もういい加減にしてほしい。
「はっは、分かった、分かった。ほら、飯にしよう。そっちのテーブルに運んで」
五十嵐に笑って促され、本田はすぐさま、けれど渋々の態で立ち上がった。実は結構お腹が空いていたのだ。昨夜色々と、本当に色々とあったので。
「わ、凄い。あんな短時間で、こんなちゃんとしたの作れたんだ?!」
「全部昨日の晩めしと同じ材料だけどな」
五十嵐は何でもないことのようにさらりと言うけれど。
昨日の余りのアボガドはスモークサーモンの乗ったちょっとお洒落なアボガドトーストに変わっていたし、トマトは ガスパチョに変身していた。あとはバーのシェフお手製のドレッシングが掛かった簡単なサラダと、ふわとろのスクランブルエッグが添えられている。
「美味しそう……」
このあと久しぶりに筋トレがしたいし、お昼は健康的にスパークリング ウォーターで。
「いただきます」
「いただきます」
同居するようになって、二人の口から自然と出るようになった感謝の言葉。同時に声を揃えた後、本田は意気揚々とカトラリーに手を伸ばした。
張りのある滑らかな肩に唇を押し付けて、程よく筋肉のついた薄い腹を背後から抱き込む。
「ん……」
少しくすぐったかったのか、腕の中の男が小さく身じろいだ。寝心地のいい体勢を探してモゾモゾと動いたかと思うと、寝返りを打って五十嵐の肩口に頬を寄せてくる。
しっかり空調管理された部屋なので、くっついて寝ると逆に触れ合う素肌が気持ち良かった。
幼い頃、僅かな温もりを求めて伸ばした手は、誰にも取ってもらえることがなかった。
自分の身の回りの世話を自分で出来るぐらい成長すると、次第に手を伸ばすことが怖くなった。どうせ誰にも握り返されることはないと、端から諦めていたからかもしれない。
そして自分の稼ぎで生活できるほど大人になると、今度は逆に、自分に向かって伸びてくる手を振り払うようになった。他人の手が欲望まみれにしか見えなくて、信用出来なくなっていたから。
なのになぜ、今になって自分はこの男に手を伸ばしてしまったのだろう?
初めて会ったあの時から。混沌とした事故現場の中で、懸命に人助けをする清廉としたその姿から目が離せなかった。そのまま別れたくなくて、必死になって引き留めたのは無意識の直感だったのか。
彼を知れば知るほど、その人柄に惹かれていった。他人に利用されることはあっても、彼自身は決して私利私欲に走ったりしない。人にたかることも、自分の利益のために人を蹴落とすなんて以ての外で、五十嵐が今まで生きてきた世界とはかけ離れた次元の、清く美しい人だった。
今では絶対に、この掴んだ手を離せないと心から思っている。
「ショウも早く、俺の手をちゃんと握り返せばいいのに」
自分がその他大勢の中の一人ではないことは、ちゃんと自覚している。だが、自分がまだ、彼にとって唯一無二の存在ではないことも分かっていた。
「俺にはお前だけだから」
今日は一年に一度、願い事が叶う夜といわれている。無数に流れる星を掻き分けて、偶然見つけた奇跡のような人。
気持ちよさそうに眠る男をそっと抱き締めて、五十嵐は再び目を瞑った。
『最新のニュースです。本日午後3時ごろ、首都高速中央環状線○○付近で、逆走した乗用車と、大型トラックが衝突する大きな事故がありました。トラックの後方を走っていた高速バスと、複数の乗用車も巻き込まれて追突しており、その際に漏れ出たガソリンに引火した模様です。現在、現場では大きな火の手が上がっており、消防救急隊員による懸命な救助、消火活動が続けられています。詳しい被害は現時点では不明ですが、少なくとも双方の運転手を含め、高速バスに乗っていた乗客たちの中に多数の負傷者がいるとのことです。なおこの事故の影響により、〇〇区間は上り下り共に通行止め──』
今日は帰れない。
先程、そっけないテキストが本田から来ていたが、おそらくこれが原因だと五十嵐は察した。
今年の梅雨は入りが早く、しかも長い。気象庁は梅雨明けはもう少し先だろうと言うし、これから1週間は、太平洋側の湿った高気圧に刺激されて梅雨前線が非常に活発になり、大雨が続くと予想されている。その矢先の事故だ。
『当時、激しい雨の影響で大変視界が悪くなっており、乗用車の運転手が高速道路の入り口を見誤ったと警察はみています。なおこの事故で逆走した乗用車の運転手と、最初に衝突したトラックの運転手2名の死亡が既に確認されており、後続を走っていた成田空港発エアポートバスの乗員乗客43名と、乗用車3台に乗っていた8名、合計51名が現在、都内の病院に運ばれて治療を受けています』
夕方のニュースでは、おそらくドローンで撮影されたのであろう上空からの映像が、一斉に報道された。黒く広範囲に焦げた道路に、横転した高速バス。数台の車が後方でぶつかり合って、変な方向を向いて停まっている。
雨だったこともあって溢れ出たガソリンが水に浮いて広がり、かなりの火の手になったらしい。事故時の衝撃は凄まじかったらしく、逆走してトラックと正面衝突した軽自動車の前方は、ほぼペチャンコに潰れていた。
高速バスは事故を避けようとして急にハンドルを切ったためにスリップし、派手に横転。その衝撃で乗客の多くが空中に投げ出され、かなりの数の重体者、重傷者が発生したようだ。
「おかえり……って、おい?!」
本田は次の日の夜遅くに疲れた顔をして帰ってきて、部屋に入るなりソファに倒れ込んだ。ほぼ36時間、気を張り詰めて働き続けて、さすがの彼も電池が切れたらしい。
「ううっ、So tired……but I wanna take a shower……Keigo, please get me up」 (疲れた……でもシャワーが浴びたい。圭吾、起こしてぇ)
自分で転がっておきながら無茶を言う。だが医者としての習慣なのか、病院で色々な病原菌と接している以上、家でくつろぐ時にはまず身綺麗にしないと気持ちが落ち着かないらしい。いや、単に昨日、風呂に入る暇がなかったから、というのもあるかもしれないが。
五十嵐は小さくため息を吐くと、バスルームに行って普段は滅多に使わないバスタブに湯を張った。
「はあぁ……」
気持ちよさそうに本田の喉が鳴る。
「おい、こんなところで本格的に寝るなよ?」
「うん……」
力の入らない男の体を背後から抱いて、ぬるま湯を首筋にかけてやる。そのまま凝っているであろう肩や腕をほぐすように揉んでやると、本田は安心したかのように五十嵐に身を預けてきた。酔っ払いか、もしくは甘えたの飼い猫かと思うぐらいのグダグダ振りだ。
「 So nice 」
「はい、はい」
五十嵐自身、こんなにのんびりと湯に浸かったのは随分と久しぶりだった。
白石が設置時にこだわったこのバスタブは、シンプルな曲線が美しい置き型タイプだ。大の男が二人、縦に並んで座っても、ちゃんと足が伸ばせるぐらいに大きい。大柄な五十嵐が寝そべってリラックス出来るようにと選ばれたのだが、それがここにきて役に立った。
「なぜ日本人があんなに温泉が好きなのかあまり分からなかったけれど、確かにこれは、疲れた体に気持ちいいねぇ」
「そうだな。今度一緒に温泉にでも行くか?」
「いいねぇ。旅館? 美味しいものがいっぱい食べられるかな?」
「はっ、結局食い物かよ?」
「んふふ……」
「おい、寝るなって」
「寝てなぃよぅ?」
「寝てる寝てる。ほら、もう体洗ってやるから」
言うなり五十嵐は、バスタブの湯を抜きつつ、そのままの体勢で本田の体にボディソープを垂らした。柔らかいボディウォッシュで泡立てながら、撫でるようにして丹念に洗っていく。
「ん……そこはぁ……」
股の間に手をやると、そこは既に固く立ち上がっていた。
これが噂によく聞く、疲れ魔羅ってやつか……
五十嵐は感心してソコにも泡をたっぷりと擦りつけた。よりいっそう本田が五十嵐の胸に寄りかかってきて、小さく腰を揺らす。
「ふぁ……」
「気持ちいいか?」
耳朶を甘噛みながら聞くと、本田はガクガクと首を縦に振った。前方を可愛がる左手はそのままに、そっと後ろの窄まりにも指を伸ばしてみる。今日は意識が飛び過ぎているのか、逃げる様子はなかった。それどころか洗う素振りで円を描いてじっくりと揉み解し、石鹸の滑りを借りて慎重に中指を一本潜り込ませてみると、途端、本田は鼻から抜けるような甘い吐息を漏らした。
「んうっ……あっ、ああっ」
「これも気持ちいいよな?」
まるで洗脳するかのように、背後から耳に吹き込む。本田は未知の感覚に翻弄されているのか、しきりに乾いた唇を舐めては身をくねらせた。
「あっ、あっ」
男の性の弱点を隈なく攻められて、本田の息が上がる。五十嵐の腕の中で切なそうに身悶えながら、それでも逃げられずに、
「気持ち良い?」
「いいっ、いい」
男に聞かれるまま、夢中で答えた。
五十嵐の胸に深く背中を預けて、立てた膝が小刻みに震えている。すらりと伸びた足先、指にまで力が入って、その甲がギュッとしなっていた。
しばらく肛腔内を慣らすように弄っていると、次第に内部が収縮を繰り返して殊更きつく指を絞めだした。同時に、内腿が引き攣れたように大きく震え出したので、最後が近いのだと知る。
あまり長引かせずに、五十嵐は前方を扱くスピードをあげた。さらに反応の良かった内部のある一点を、鉤なりに曲げた指で何度も捏ね回すように強く引っ掻く。
「ひああ……」
本田の体が硬直し、途端、バスタブの床に勢いよく快楽の証を吐き出した。がくがくと何度も腰を震わせ、前屈みになったかと思うと、がくりと頭が垂れる。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「凄く気持ちよかったな。これでゆっくり眠れるぞ」
まるで睦言のように甘く、優しく。
五十嵐は疲れ切った彼をもう一度起こしてバスタブに寄り掛からせると、今度は簡単に髪を洗ってやり、最後に全ての泡を綺麗に流して小さなキスを贈った。
「やっぱり適度なセックスは必要だな」
そんなことを宣いながら機嫌良くキッチンに立つ五十嵐を、本田は冷めた目で見つめた。
「昨日のあれは卑怯だよ。Fair じゃない」
口ではそう言いながらも自分のためにランチを作ってくれている男の側にいるあたり、本田もそこまで怒っているわけではないのだろう。その証拠に、ノートパソコンで仕事をしながらも、きちんと会話に応じている。
ただ一つだけ。キッチンのカウンター越しに見える奥には、物置きを兼用した3畳ほどの家事室がある。そこから聞こえる『ごうん、ごうん』という音に、少し居た堪れない思いをしているだけだ。昨夜の行為で色々と汚れた部屋着や白衣やらが、泡にまみれて豪快に回っている。
「なかなか燃えるシチュエーションだっただろ。でも職場で本当にあんな事したら絶対に駄目だからな」
「しないってば! 圭吾ってば、変な Blue movie の見過ぎだよ!」
くだらない妄想は、もういい加減にしてほしい。
「はっは、分かった、分かった。ほら、飯にしよう。そっちのテーブルに運んで」
五十嵐に笑って促され、本田はすぐさま、けれど渋々の態で立ち上がった。実は結構お腹が空いていたのだ。昨夜色々と、本当に色々とあったので。
「わ、凄い。あんな短時間で、こんなちゃんとしたの作れたんだ?!」
「全部昨日の晩めしと同じ材料だけどな」
五十嵐は何でもないことのようにさらりと言うけれど。
昨日の余りのアボガドはスモークサーモンの乗ったちょっとお洒落なアボガドトーストに変わっていたし、トマトは ガスパチョに変身していた。あとはバーのシェフお手製のドレッシングが掛かった簡単なサラダと、ふわとろのスクランブルエッグが添えられている。
「美味しそう……」
このあと久しぶりに筋トレがしたいし、お昼は健康的にスパークリング ウォーターで。
「いただきます」
「いただきます」
同居するようになって、二人の口から自然と出るようになった感謝の言葉。同時に声を揃えた後、本田は意気揚々とカトラリーに手を伸ばした。
張りのある滑らかな肩に唇を押し付けて、程よく筋肉のついた薄い腹を背後から抱き込む。
「ん……」
少しくすぐったかったのか、腕の中の男が小さく身じろいだ。寝心地のいい体勢を探してモゾモゾと動いたかと思うと、寝返りを打って五十嵐の肩口に頬を寄せてくる。
しっかり空調管理された部屋なので、くっついて寝ると逆に触れ合う素肌が気持ち良かった。
幼い頃、僅かな温もりを求めて伸ばした手は、誰にも取ってもらえることがなかった。
自分の身の回りの世話を自分で出来るぐらい成長すると、次第に手を伸ばすことが怖くなった。どうせ誰にも握り返されることはないと、端から諦めていたからかもしれない。
そして自分の稼ぎで生活できるほど大人になると、今度は逆に、自分に向かって伸びてくる手を振り払うようになった。他人の手が欲望まみれにしか見えなくて、信用出来なくなっていたから。
なのになぜ、今になって自分はこの男に手を伸ばしてしまったのだろう?
初めて会ったあの時から。混沌とした事故現場の中で、懸命に人助けをする清廉としたその姿から目が離せなかった。そのまま別れたくなくて、必死になって引き留めたのは無意識の直感だったのか。
彼を知れば知るほど、その人柄に惹かれていった。他人に利用されることはあっても、彼自身は決して私利私欲に走ったりしない。人にたかることも、自分の利益のために人を蹴落とすなんて以ての外で、五十嵐が今まで生きてきた世界とはかけ離れた次元の、清く美しい人だった。
今では絶対に、この掴んだ手を離せないと心から思っている。
「ショウも早く、俺の手をちゃんと握り返せばいいのに」
自分がその他大勢の中の一人ではないことは、ちゃんと自覚している。だが、自分がまだ、彼にとって唯一無二の存在ではないことも分かっていた。
「俺にはお前だけだから」
今日は一年に一度、願い事が叶う夜といわれている。無数に流れる星を掻き分けて、偶然見つけた奇跡のような人。
気持ちよさそうに眠る男をそっと抱き締めて、五十嵐は再び目を瞑った。
『最新のニュースです。本日午後3時ごろ、首都高速中央環状線○○付近で、逆走した乗用車と、大型トラックが衝突する大きな事故がありました。トラックの後方を走っていた高速バスと、複数の乗用車も巻き込まれて追突しており、その際に漏れ出たガソリンに引火した模様です。現在、現場では大きな火の手が上がっており、消防救急隊員による懸命な救助、消火活動が続けられています。詳しい被害は現時点では不明ですが、少なくとも双方の運転手を含め、高速バスに乗っていた乗客たちの中に多数の負傷者がいるとのことです。なおこの事故の影響により、〇〇区間は上り下り共に通行止め──』
今日は帰れない。
先程、そっけないテキストが本田から来ていたが、おそらくこれが原因だと五十嵐は察した。
今年の梅雨は入りが早く、しかも長い。気象庁は梅雨明けはもう少し先だろうと言うし、これから1週間は、太平洋側の湿った高気圧に刺激されて梅雨前線が非常に活発になり、大雨が続くと予想されている。その矢先の事故だ。
『当時、激しい雨の影響で大変視界が悪くなっており、乗用車の運転手が高速道路の入り口を見誤ったと警察はみています。なおこの事故で逆走した乗用車の運転手と、最初に衝突したトラックの運転手2名の死亡が既に確認されており、後続を走っていた成田空港発エアポートバスの乗員乗客43名と、乗用車3台に乗っていた8名、合計51名が現在、都内の病院に運ばれて治療を受けています』
夕方のニュースでは、おそらくドローンで撮影されたのであろう上空からの映像が、一斉に報道された。黒く広範囲に焦げた道路に、横転した高速バス。数台の車が後方でぶつかり合って、変な方向を向いて停まっている。
雨だったこともあって溢れ出たガソリンが水に浮いて広がり、かなりの火の手になったらしい。事故時の衝撃は凄まじかったらしく、逆走してトラックと正面衝突した軽自動車の前方は、ほぼペチャンコに潰れていた。
高速バスは事故を避けようとして急にハンドルを切ったためにスリップし、派手に横転。その衝撃で乗客の多くが空中に投げ出され、かなりの数の重体者、重傷者が発生したようだ。
「おかえり……って、おい?!」
本田は次の日の夜遅くに疲れた顔をして帰ってきて、部屋に入るなりソファに倒れ込んだ。ほぼ36時間、気を張り詰めて働き続けて、さすがの彼も電池が切れたらしい。
「ううっ、So tired……but I wanna take a shower……Keigo, please get me up」 (疲れた……でもシャワーが浴びたい。圭吾、起こしてぇ)
自分で転がっておきながら無茶を言う。だが医者としての習慣なのか、病院で色々な病原菌と接している以上、家でくつろぐ時にはまず身綺麗にしないと気持ちが落ち着かないらしい。いや、単に昨日、風呂に入る暇がなかったから、というのもあるかもしれないが。
五十嵐は小さくため息を吐くと、バスルームに行って普段は滅多に使わないバスタブに湯を張った。
「はあぁ……」
気持ちよさそうに本田の喉が鳴る。
「おい、こんなところで本格的に寝るなよ?」
「うん……」
力の入らない男の体を背後から抱いて、ぬるま湯を首筋にかけてやる。そのまま凝っているであろう肩や腕をほぐすように揉んでやると、本田は安心したかのように五十嵐に身を預けてきた。酔っ払いか、もしくは甘えたの飼い猫かと思うぐらいのグダグダ振りだ。
「 So nice 」
「はい、はい」
五十嵐自身、こんなにのんびりと湯に浸かったのは随分と久しぶりだった。
白石が設置時にこだわったこのバスタブは、シンプルな曲線が美しい置き型タイプだ。大の男が二人、縦に並んで座っても、ちゃんと足が伸ばせるぐらいに大きい。大柄な五十嵐が寝そべってリラックス出来るようにと選ばれたのだが、それがここにきて役に立った。
「なぜ日本人があんなに温泉が好きなのかあまり分からなかったけれど、確かにこれは、疲れた体に気持ちいいねぇ」
「そうだな。今度一緒に温泉にでも行くか?」
「いいねぇ。旅館? 美味しいものがいっぱい食べられるかな?」
「はっ、結局食い物かよ?」
「んふふ……」
「おい、寝るなって」
「寝てなぃよぅ?」
「寝てる寝てる。ほら、もう体洗ってやるから」
言うなり五十嵐は、バスタブの湯を抜きつつ、そのままの体勢で本田の体にボディソープを垂らした。柔らかいボディウォッシュで泡立てながら、撫でるようにして丹念に洗っていく。
「ん……そこはぁ……」
股の間に手をやると、そこは既に固く立ち上がっていた。
これが噂によく聞く、疲れ魔羅ってやつか……
五十嵐は感心してソコにも泡をたっぷりと擦りつけた。よりいっそう本田が五十嵐の胸に寄りかかってきて、小さく腰を揺らす。
「ふぁ……」
「気持ちいいか?」
耳朶を甘噛みながら聞くと、本田はガクガクと首を縦に振った。前方を可愛がる左手はそのままに、そっと後ろの窄まりにも指を伸ばしてみる。今日は意識が飛び過ぎているのか、逃げる様子はなかった。それどころか洗う素振りで円を描いてじっくりと揉み解し、石鹸の滑りを借りて慎重に中指を一本潜り込ませてみると、途端、本田は鼻から抜けるような甘い吐息を漏らした。
「んうっ……あっ、ああっ」
「これも気持ちいいよな?」
まるで洗脳するかのように、背後から耳に吹き込む。本田は未知の感覚に翻弄されているのか、しきりに乾いた唇を舐めては身をくねらせた。
「あっ、あっ」
男の性の弱点を隈なく攻められて、本田の息が上がる。五十嵐の腕の中で切なそうに身悶えながら、それでも逃げられずに、
「気持ち良い?」
「いいっ、いい」
男に聞かれるまま、夢中で答えた。
五十嵐の胸に深く背中を預けて、立てた膝が小刻みに震えている。すらりと伸びた足先、指にまで力が入って、その甲がギュッとしなっていた。
しばらく肛腔内を慣らすように弄っていると、次第に内部が収縮を繰り返して殊更きつく指を絞めだした。同時に、内腿が引き攣れたように大きく震え出したので、最後が近いのだと知る。
あまり長引かせずに、五十嵐は前方を扱くスピードをあげた。さらに反応の良かった内部のある一点を、鉤なりに曲げた指で何度も捏ね回すように強く引っ掻く。
「ひああ……」
本田の体が硬直し、途端、バスタブの床に勢いよく快楽の証を吐き出した。がくがくと何度も腰を震わせ、前屈みになったかと思うと、がくりと頭が垂れる。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「凄く気持ちよかったな。これでゆっくり眠れるぞ」
まるで睦言のように甘く、優しく。
五十嵐は疲れ切った彼をもう一度起こしてバスタブに寄り掛からせると、今度は簡単に髪を洗ってやり、最後に全ての泡を綺麗に流して小さなキスを贈った。
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