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19〈ギーギ・フーブ〉は偉くなりたい
しおりを挟む機械精の群れの中に一際目立つ者が居た。名をギーギ・フーブ。
機械精王グーグ・バググの側近の、機械精の中では数少ない魔法使いだ。一族の魔法使いのまとめ役と言っていい。そもそも機械精には魔法力を使えない者が多い為、物理的な力を持つこと|腕力こそが強さの指標であり価値基準であった。その為魔法使いのまとめ役、とは言えギーギ・フーブの発言力は弱かった。
機械精の一族は名前に含まれる濁点の数でその地位を知ることができる。王族はグーグ・バググのように濁点五つ、濁点が四つ含まれる名前は一族の中でも王に近い立場の証だ。戦士たちのまとめ役たるゴーゴ・バーブが四つの濁点を持った名を王から下賜されたのに対し、同じ立場の筈の自分が下賜されたギーギ・フーブと言う名には濁点が三つしか含まれていない。魔法使いが軽んじられる風潮がこんなところにも現れていた。
「ギーギ・ブーブだったら良かったのに」
いつもその事を考えずにはいられなかった。
異変が起こった。
何時ものように街中を巡り民家から面白そうな物をかすめ取ろうと思っていたのだが、ふと気が付くと一族ごと見知らぬ土地にいたのだ。何時もイタズラをしたり物を盗む街とはまるで違う大きな都市、見渡す限り機械に溢れている。
機械精たちは歓喜した。機械や作られた物が大好きな一族なのだ。片っ端から車を分解し、街灯を壊し、人々の髪を引っ張って回った。戦士階級の者たちは小さなナイフを振り回し街中の電線や人々の脚を切って回った。
機械精はとても小さい。普通の者は30㎝ほど、ゴーゴ・バーブやギーギ・フーブのような特別な者でも50㎝程度しかない。凶暴に人に飛びつき、噛みついて髪を引っ張るが力は人間にとても敵わない。ある者は蹴飛ばされ、ある者は手近な武器|電気スタンドやバールなどで人間に殴り飛ばされた。
ギーギ・フーブは人々の足元をコソコソ走り回り、人間に見られないようにしていた。
戦士階級の者でも簡単に人間に蹴飛ばされているのを見て、手を出すのは危険だと本能で感じたのだ。
路上に停められた運送便のトラックの下に潜り込み、周りの様子をじっと眺めていた。
弱いとは言え、機械精は怖いもの知らずで戦士でない者でも生まれつき鋭い爪を持っている。一族は500を超える大所帯だ。人間の幾人かは路上に倒され、馬乗りになった数体の機械精に顔を滅茶苦茶に切り刻まれている。
それを横目で見ながらもギーギ・フーブは潜り込んだトラックの部品を外すのに夢中になっていた。
やがて一本のパイプが外れて噴き出したオイルで真っ黒になった事にギーギ・フーブがブツブツと悪態をついていると、足元に一体の機械精が転がってきた。
ゴーゴ・バーブ、戦士たちの長だ。何かで殴られたのか歯が半分無くなり口元が血塗れになっている。自力で立ち上がれないようだ。
「フーブ」
こちらに気付いてゆっくり顔を向ける。
「回復魔法、しろ」
「フーブ、早くしろ」
いつもコイツはこうだった。自分の方が偉いとばかりに命令口調で頭ごなしに言ってくる。そもそも普通機械精の社会ではファーストネームで呼びあうのが通例なのにこいつはわざわざ濁点が少ない方を選んでフーブと呼んでくるのが頭にくる。
「フーブ、魔法しろ」
何なんだこいつは、ナイフを振り回すだけしか能がないクセに。戦士の長などと言ってもこんな物だ。ウサギやネズミを狩るのとは違う、人間に簡単にやられてしまう。
ギーギ・フーブはそっと優しくゴーゴの血塗れの口元に手を伸ばす。
口を塞ぐように手で覆い、そして
「爆ぜ球ッ」
ゴーゴの口中に爆発魔法を撃ち込んだ。
《バゴォン!!》と言う炸裂音と共にゴーゴの耳と鼻から脳みそが噴出する。
目玉は二つとも飛び出し、《ベチャッ》と音を立ててギーギが隠れているトラックの車体にへばりついた。眼球の入っていた二つの焦げた穴からは《シュウシュウ》と煙が立ち上がり、独特な異臭を放っている。ギーギ・フーブの足元には歯が一本《コロ……》と転がる。
「ギッ、ギーギと呼びやがれッ」
《ペタペタペタっ》と足を踏み鳴らして小躍りしたギーギ・フーブの心は快晴の日の空の青さの様にスカッと爽やかに澄み渡り、
「自己成長」
レベル9になった。
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