風の唄 森の声

坂井美月

文字の大きさ
38 / 49

引き裂かれた運命〜恭介の話②〜

しおりを挟む
するとタツは小さく微笑んで
「恭介さん、私が何者か分かっていますか?」
そう言うと、そっと俺の頬に触れて微笑んだ。
「はぁ?龍神だろう?」
呆れた顔で答えた俺に
「あなたの考えている事、思っている事は全て筒抜けなのですよ」
そう言われて、俺は穴があったら入りたいと思う程恥ずかしかった。
「それじゃあ…お前はずっと…」
そう言い掛けた言葉を、彼女の唇がそっと塞ぐ。
「恭介さん…、私はずっとあなたが好きでした。私をあなたの妻にしてはいただけませんか?」
そう言われて、俺は彼女の身体を強く抱き締めた。

「ならぬ!ならぬならぬ!」
俺達の結婚は、龍神の里では大騒ぎになった。
大龍神が現れ激怒した。
「人間なんぞに心を奪われおって!このバカ娘が!」
大龍神はそう叫ぶと
「人間は私利私欲の為にしか動かぬ!他の命を粗末に扱い、無駄に乱獲して森を荒らす!百害あって一理無しだ!」
怒り狂う大龍神に
「私はどんな罰でも受けます!私が、私がこの方を唆したのです」
「タツ!」
大龍神に頭を下げる彼女に
「そんな姿になりおって…情けない。そんなにその男が欲しかったのか?未来の大龍神となる者が、みっともない」
吐き捨てるように言うと
「人間の男よ。この美しい姿は、タツの本来の姿ではない。お前は本来の姿でも、タツを愛せると言えるのか?」
大龍神が小さく笑う。
俺は彼女を真っ直ぐに見つめ
「タツを愛したのは、容姿では無い。そもそも、こんな整った容姿では生きている感じがしないと言ってる。でも、彼女は本当の姿を見せてはくれないのだ。それでもお前が疑うのなら、仕方が無い」
俺が彼女を見つめてそう言うと、大龍神は小さく笑い顔を近付けると
「隠れんぼに勝ったら、お前の願いを叶えてやろう」
そう呟いた。
「隠れんぼ?」
俺がそう繰り返すと、大龍神は身体を起こして背中を向け
「タツの腹の中に居る子供に免じて、許してやる」
と言われた。
「え?」
驚いて大龍神の顔を見ると
「なんだ…人間は、そんな事も分からぬのか?」
呆れた顔をされて言われ、タツの顔を見た。
タツは頬を染めて
「まだ…安定期ではないので…。ぬか喜びさせても申し訳ないと思って…」
そう呟いた。
「タツ!そういう事は、早く言ってくれ!」
俺が彼女を抱き上げて喜ぶと
「此処ではしゃぐな!」
と、大龍神に一喝されてしまう。
そして大龍神はゆっくりと俺を見つめて
「人間の男よ。お前は2度と、元の世界に戻れない。それでも良いのか?」
大龍神にそう訊ねられ、俺は覚悟を決めて頷いた。
「もし…それを裏切って人間界へ戻れば、2度とタツや子供に会えないと思え」
大龍神の言葉に俺は再び頷いた。
俺とタツは、古い山小屋から春、夏、秋、冬とある龍神の里の中で、春の山に程近い人間界と龍神の里の結界近くに住まいを与えられた。
なんだかんだ言って娘が可愛いらしく、大龍神は立派な住まいを与えてくれた。
十月十日。
彼女のお腹に芽生えた命の誕生を、心待ちにしていた。
彼女と暮らす穏やかな日々。
俺はいつしか、自分が人間であった記憶さえも無くしていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...