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EP13 【弾幕に伏す】(前編)
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避けて。それがネジの下した指示だった。だが、振り下ろされた大鉈はすでに眼前へと迫っている。
避けられるかって? 無理無理。絶対に間に合わない。
「ッッ……!」
俺はなんとか大鉈の斬撃を左腕で受け止めた。分厚い刃は簡単に外骨格を砕くだろう。
だが、それでいい。使い物にならなくなった腕を、俺は俺自身の意思で切り離す!
魔導人形(ドール)の身体には絶えず魔力が流れている。だから本来腕を取り外すには、腕部の魔力血管をバルブで閉めて無駄な魔力漏れを防がなきゃならないんだ。
〈ネジ! 左手に加速魔法(アクセル・マジック)!〉
〈ちょっ……何するつもり⁉〉
〈なーに、ちょっと無茶をするだけだ〉
取り外した腕の接合面に、ネジの加速魔法の魔法陣が展開された。再度振り上げられた大鉈は俺を刻むために急接近中だ。
だから、俺もバックスッテプを踏む。噴き出した魔力と〈アクセル・マジック〉の勢いを利用して、そのままデストロイヤーの間合いから脱出してみせた。
だが、ここは四方を金網に閉ざされたリング内。だから必然的に後ろへと飛ばされた俺はフェンスに衝突した。
〈スパナッ!〉
〈大丈夫だッ!〉
痛みはない。損傷は軽微。腕を失ったが、大鉈で潰されるのを防いだ。だが、次はどうする?
〈何やってんのよ! 腕をぶった切られた挙句、追い詰められちゃったじゃない〉
〈チッ……いちいち、ネガティブに考えるんじゃねぇ。腕一本で助かったて考えるんだ〉
〈そんな考え方してるから、いつも引き際を間違えて大負けするんでしょ!〉
うっ……耳が痛い。確かにギャンブルに置いて一番大切なのは引き際だ。いつも負けてばかりの俺は、どうやらそれを見分けるのが苦手らしい。
たしかに一発回避するのに、腕一本は高すぎる。けど、そうするしか凶撃を避ける方法を思い付けなかったんだ。
「へぇ……デストロイヤーの一撃をよく避けたもんじゃねぇか。嬢ちゃん」
「〈ドール〉の側の性能がいいからかしらね」
「さっきの意趣返しのつもりかよ……けど確かに、〈ドール〉自身が考えて動いてるみてぇだ。腕を捨てて回避だなんて命令、普通の〈ドール〉は実行出来ねぇぞ。一体どんなパーツを拾ってんだか」
「内緒」
うん、言えるわけねぇよな。
俺、元人間だもん。考えて動いてるもん。
「だけど、やっぱり惜しいぜ。嬢ちゃんは自分の〈ドール〉がかなりお気に入りとらしいが、ソイツの攻撃じゃ俺様のデストロイヤーには傷一つ付けられねぇ……いや、それ以前に、二撃目を繰り出す余裕すら与えねぇ!」
デストロイヤーの瞳が被った麻袋を透過して分かるほど、赤く煌めいた。すぐに反撃が来るッ!
「こんにゃろうッ!」
まずは大振りの一発! これは距離があったので避けられた。
次いで二撃目の袈裟斬り! これも紙一重で致命傷を避わすが、掠めた刃と俺の身体の間に火花が散った。
避けるだけじゃ、埒が開きそうにねぇ。俺は刃を搔い潜って、もう一度間合いに踏み込んだ。
「ネジ! もう一発、属性付与(エレメントアシスト)だ!!」
「分かった! ただし、これで決めなきゃ勝ちはないわよ!」
ネジの指摘通りだ。この拳で決めなきゃ、これ以上あの大鉈を避わし切れる気がしねぇ。
魔力を集中して放つんだけなんだ。だから上手くやれよ、俺。
「属性付与・雷(エレメントアシスト・サンダー)ッッ!!」
「属性使用・雷(エレメントユーズ・サンダー)ァァァ!!」
鈍足のデストロイヤーに攻撃を当てるだけならば簡単だ。グローブに展開された魔法陣からは派手なスパークがバチバチと輝き、観客達を湧かせるだろう。
「おいおい、言ったろ? 二撃目を打つ余裕も与えねぇって」
グレゴリーが被せるように魔法陣を展開した。陣の中央に矢印が展開されたその魔法が及ぼす影響は、
「方向魔法(ディレクション・マジック)!」
俺の身体はまるで、後方から深の腕につかまれたように弾かれてしまった。
クソ……なんて基本中の基本じゃねぇか! 訓練された者同士の魔法戦では敵の攻撃を〈ディレクション・マジック〉で逸らしたり、逆に逸らされた自分の攻撃を修正したりするのが一つのセオリーと化していた。
「さぁ! 解体ショーの時間だ」
俺が弾かれると同時に猛攻が始まる。
デストロイヤーが備えた大鉈は振り切った後の隙が大きく、連続攻撃にも向かない武器だと思われたが、〈ディレクション・マジック〉と併用するのなら話は別だ。
〈ディレクション・マジック〉によって、瞬時に太刀筋を修正。物理法則に反したデタラメな斬撃が俺を襲った。
「ネジ! 保護魔法(プロテクト・マジック)!」
「無理! アンタ、受け切れないでしょ、それより確実に避けることだけ考えなさい!」
ネジが発動したのは〈アクセル・マジック〉だった。俺はその勢いで、なんとかリング内を飛び回り、大鉈を避け続ける。
普通にコロシアムでこんな逃げ回るだけの試合を見せたら、きっとブーイングは免れないだろう。だが、バベル闘技場じゃ、その逆だった。観客達が楽しみにしているのは、グレゴリーとデストロイヤーによる破壊ショーであって、獲物である俺が必死に逃げ回る様が滑稽に映るのだろう。
人が必死に逃げ回ってるってのに、ゲラゲラ、ゲラゲラ笑いやがって。
あっ……なんかそれに気付くとイラついてきた。俺はフェンスにしがみつき、観客席に向かって吠えてやった。
「テメェらぁ! 高みの見物とはいい度胸じゃねぇか! こっちは死にかけてるってのにヨォ!」
「ちょっ⁉ スパナ何やってんの!」
「テメェらの薄ら笑い。どうせ、グレゴリー&デストロイヤーに賭けてるんだろ? なら、このスパナ様が、この試合に勝ってテメェら、全員大損させてやらぁ!」
ついでにグレゴリーは警察に突き出す。指名手配犯を捕まえたとなれば、報償金でガッポリだ。
んでもってネジ! お前のことも別に許してねぇからな。「お前のとこで金を借りると〈ドール〉にされた挙句、裏人形舞踊のデスマッチをさせられる」って噂を流してやるよ!
避けられるかって? 無理無理。絶対に間に合わない。
「ッッ……!」
俺はなんとか大鉈の斬撃を左腕で受け止めた。分厚い刃は簡単に外骨格を砕くだろう。
だが、それでいい。使い物にならなくなった腕を、俺は俺自身の意思で切り離す!
魔導人形(ドール)の身体には絶えず魔力が流れている。だから本来腕を取り外すには、腕部の魔力血管をバルブで閉めて無駄な魔力漏れを防がなきゃならないんだ。
〈ネジ! 左手に加速魔法(アクセル・マジック)!〉
〈ちょっ……何するつもり⁉〉
〈なーに、ちょっと無茶をするだけだ〉
取り外した腕の接合面に、ネジの加速魔法の魔法陣が展開された。再度振り上げられた大鉈は俺を刻むために急接近中だ。
だから、俺もバックスッテプを踏む。噴き出した魔力と〈アクセル・マジック〉の勢いを利用して、そのままデストロイヤーの間合いから脱出してみせた。
だが、ここは四方を金網に閉ざされたリング内。だから必然的に後ろへと飛ばされた俺はフェンスに衝突した。
〈スパナッ!〉
〈大丈夫だッ!〉
痛みはない。損傷は軽微。腕を失ったが、大鉈で潰されるのを防いだ。だが、次はどうする?
〈何やってんのよ! 腕をぶった切られた挙句、追い詰められちゃったじゃない〉
〈チッ……いちいち、ネガティブに考えるんじゃねぇ。腕一本で助かったて考えるんだ〉
〈そんな考え方してるから、いつも引き際を間違えて大負けするんでしょ!〉
うっ……耳が痛い。確かにギャンブルに置いて一番大切なのは引き際だ。いつも負けてばかりの俺は、どうやらそれを見分けるのが苦手らしい。
たしかに一発回避するのに、腕一本は高すぎる。けど、そうするしか凶撃を避ける方法を思い付けなかったんだ。
「へぇ……デストロイヤーの一撃をよく避けたもんじゃねぇか。嬢ちゃん」
「〈ドール〉の側の性能がいいからかしらね」
「さっきの意趣返しのつもりかよ……けど確かに、〈ドール〉自身が考えて動いてるみてぇだ。腕を捨てて回避だなんて命令、普通の〈ドール〉は実行出来ねぇぞ。一体どんなパーツを拾ってんだか」
「内緒」
うん、言えるわけねぇよな。
俺、元人間だもん。考えて動いてるもん。
「だけど、やっぱり惜しいぜ。嬢ちゃんは自分の〈ドール〉がかなりお気に入りとらしいが、ソイツの攻撃じゃ俺様のデストロイヤーには傷一つ付けられねぇ……いや、それ以前に、二撃目を繰り出す余裕すら与えねぇ!」
デストロイヤーの瞳が被った麻袋を透過して分かるほど、赤く煌めいた。すぐに反撃が来るッ!
「こんにゃろうッ!」
まずは大振りの一発! これは距離があったので避けられた。
次いで二撃目の袈裟斬り! これも紙一重で致命傷を避わすが、掠めた刃と俺の身体の間に火花が散った。
避けるだけじゃ、埒が開きそうにねぇ。俺は刃を搔い潜って、もう一度間合いに踏み込んだ。
「ネジ! もう一発、属性付与(エレメントアシスト)だ!!」
「分かった! ただし、これで決めなきゃ勝ちはないわよ!」
ネジの指摘通りだ。この拳で決めなきゃ、これ以上あの大鉈を避わし切れる気がしねぇ。
魔力を集中して放つんだけなんだ。だから上手くやれよ、俺。
「属性付与・雷(エレメントアシスト・サンダー)ッッ!!」
「属性使用・雷(エレメントユーズ・サンダー)ァァァ!!」
鈍足のデストロイヤーに攻撃を当てるだけならば簡単だ。グローブに展開された魔法陣からは派手なスパークがバチバチと輝き、観客達を湧かせるだろう。
「おいおい、言ったろ? 二撃目を打つ余裕も与えねぇって」
グレゴリーが被せるように魔法陣を展開した。陣の中央に矢印が展開されたその魔法が及ぼす影響は、
「方向魔法(ディレクション・マジック)!」
俺の身体はまるで、後方から深の腕につかまれたように弾かれてしまった。
クソ……なんて基本中の基本じゃねぇか! 訓練された者同士の魔法戦では敵の攻撃を〈ディレクション・マジック〉で逸らしたり、逆に逸らされた自分の攻撃を修正したりするのが一つのセオリーと化していた。
「さぁ! 解体ショーの時間だ」
俺が弾かれると同時に猛攻が始まる。
デストロイヤーが備えた大鉈は振り切った後の隙が大きく、連続攻撃にも向かない武器だと思われたが、〈ディレクション・マジック〉と併用するのなら話は別だ。
〈ディレクション・マジック〉によって、瞬時に太刀筋を修正。物理法則に反したデタラメな斬撃が俺を襲った。
「ネジ! 保護魔法(プロテクト・マジック)!」
「無理! アンタ、受け切れないでしょ、それより確実に避けることだけ考えなさい!」
ネジが発動したのは〈アクセル・マジック〉だった。俺はその勢いで、なんとかリング内を飛び回り、大鉈を避け続ける。
普通にコロシアムでこんな逃げ回るだけの試合を見せたら、きっとブーイングは免れないだろう。だが、バベル闘技場じゃ、その逆だった。観客達が楽しみにしているのは、グレゴリーとデストロイヤーによる破壊ショーであって、獲物である俺が必死に逃げ回る様が滑稽に映るのだろう。
人が必死に逃げ回ってるってのに、ゲラゲラ、ゲラゲラ笑いやがって。
あっ……なんかそれに気付くとイラついてきた。俺はフェンスにしがみつき、観客席に向かって吠えてやった。
「テメェらぁ! 高みの見物とはいい度胸じゃねぇか! こっちは死にかけてるってのにヨォ!」
「ちょっ⁉ スパナ何やってんの!」
「テメェらの薄ら笑い。どうせ、グレゴリー&デストロイヤーに賭けてるんだろ? なら、このスパナ様が、この試合に勝ってテメェら、全員大損させてやらぁ!」
ついでにグレゴリーは警察に突き出す。指名手配犯を捕まえたとなれば、報償金でガッポリだ。
んでもってネジ! お前のことも別に許してねぇからな。「お前のとこで金を借りると〈ドール〉にされた挙句、裏人形舞踊のデスマッチをさせられる」って噂を流してやるよ!
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