ブラッド・ファイヤーフォース 鮮血の消防士団

ユキトシ時雨

文字の大きさ
7 / 39
第13特務消防師団と吸血鬼たち

第7話 蒼の胎動

しおりを挟む
 紅血を用いた物質形成のコツは、何を作りたいかを明確にイメージすることだ。材質や重量といった、具体的なイメージできればいいと火垂はアドバンスをくれた。

「イメージを明確に……イメージを明確に……」

 息を大きく吸って、ゆっくりと吐き出す。

 そして、力強く双眸を見開いた。

「『第十四特務消防師団』……か、明松周哉、行きますッ!」

 周哉の指先からも紅い血が滴る。それは大きく逆巻き、形を成す……かに思われたが、空中で血液同士の凝固が解かれ、ボタボタと落ちてしまった。

「「「……」」」

 しばしの沈黙。三人の間には、気まずい空気が流れた。

「えーと、周哉さんは竜巻をイメージしたんですよね! 初めてでこれほどの完成度を誇るとは!」

「……いえ、火垂さんみたいにカッコよく刀を作れたらいいなぁ、と」

 周哉の足元にできた血溜まりは、刀身の形成さえままならない。辛うじて手元には柄らしき部分が残っていたが、そこから伸びる刃は酷く頼りない、へなへなのナマクラであった。

「はは……やっぱり僕みたいな低学歴の高校生には、この程度が限界なんでしょうか……」

「そ、そんなことはありませんよッ! 周哉さんも日本刀の歴史や製法を学び、イメージトレーニングを欠かさなければッ!」

 火垂は必死に取り繕うも、それがフォローになっていないことを肝心な本人が気づいていない。

 自分で作り出した刀身と同じように、周哉はヘナヘナと膝をついてしまった。

「まっ、初めての血液操作なんてこんなもんだよ。それに見たところ、周哉くんの血液にもきちんとアークパイアの特性が宿っていた。なら次に君が試すべきは────」

 周哉にとって目標は、誤って蒼炎の力を暴発させてしまっても、紅血を用いて始末をつけれるようになることだ。

 ならば次に試すべきは、アークパイアの力を用いて、自らの蒼炎を鎮火できるか否かであった。

「まずはコンビニの時くらいの火力でいい。小さな火を灯して、それを自分で消してみたまえ。なーに、心配するな。ここなら誰の迷惑にもならないし、ミスっても私と火垂ちゃんがフォローするから」

 彼女は敢えてお気楽な態度を気取ってくれたのだろう。こちらの緊張を解きほぐすために。

「わっ……分かりましたッ!」

 周哉も立ち上がり、火傷の広がる左腕を構えた。

「大丈夫、落ち着け……小さな火でいいんだ。あとは、それを消すだけで」

 自分に言い聞かせながらに、なるべく小さな火力のイメージを迸らせる。

 ケーキの上に乗った蝋燭の火くらいがちょうどいいだろうか? いや万が一を考えるなら、もっと小さくだ。

 マッチを灯る火。赤リンに擦りつけることによって燃焼する硫黄の小さな火花程度なら。

「マッチの火花……マッチの火花……マッチの火花ッ!!」

 周哉の指先から、小さな蒼炎が噴き出した。

 しかし、それは火花に在らず。極限にまで引き絞られることで、一点に集約された熱線(レーザー)であった。

「まずい────火垂副団長ッ!」

「分かっていますッ! 七番・血鋼壁(けっこうへき)ッ!」

 紅い血は分厚い大盾を形作り、鋭利な先端部を足元に突き立てた。靴裏にも血のアイゼンスパイクを形成し、全身を固定する。

 だが蒼白く瞬いた閃光は、それを容易く崩してみせた。

「なっ……⁉」

 アークパイアの特異性が火力を抑え、盾の曲面に反射することでレーザーは歪曲しながらも天井のコンクリートを穿つ。

 せっかく形成したスパイクはすっぽ抜けて。その場に尻餅をついた火垂は恐る恐る、自らの形成した大盾を見やった。

「……なんです、……今の火力は」

 理論上、対戦車ライフルの弾丸さえも受け止めてみせる火垂の盾は融解を始めていた。ドロドロに溶けた着弾点に至っては、穴が開く寸前にまで抉り抜かれている。

 あと一センチでも薄い盾をイメージしていたら……そう考えただけでも掌には嫌な汗がにじんだ。

「大丈夫か! 副団長ッ!」

「わ、私は大丈夫です……けど、周哉さんは……」

 二人は、この火力を吐き出した周哉の方を見遣った。

「…………」

 彼はそのままの姿で静止していた。かと、思えば足元をフラつかせ、その場に倒れ込む。

「……なるほどね。周哉くんの潜在的な能力をちょっーと舐めすぎてたかも」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...