超ド級夢想兵器・エクステンド!

ユキトシ時雨

文字の大きさ
6 / 39

EP05 鋼機再誕

しおりを挟む
 プラモデルを中核に再構成された〈エクステンド〉には傷一つ付いていない。金属的な鈍い輝きを放つ全身は、それが砂塵で出来ていると思えない程であった。

「嘘だろ……〈エクステンド〉が蘇ったのか……」

 十悟はその光景に、理解が追いつかないという顔で絶句する。

 理解が追いついていないのは夕星も同様であった。ただ、それと同時に妙な納得感もあった。────まるで、こうなることが予め決められた確定事項のような気がしてならないのだ。

 そんなことを考えると同時に〈エクステンド〉の巨体が跪き、マニピュレーターの先を夕星へと差し出した。

 さらに頭部を覆う装甲が展開。大きく口を開くようにして、その内側を露わとする。

「まさか、お前……」

 そこに在ったのはちょうど人が一人収まりそうなシートと、一対の操縦桿だった。

 空の操縦席をさらけ出した〈エクステンド〉はただ鎮座して、己が主を静かに待ち望む。

「俺に『乗れ』って言いたいのか?」

 上等だ。

「あの怪獣を倒せるだけの力が欲しい」と願い、その願いが通じた結果が、このチャンスだというのなら、躊躇う理由もなかった。

「待て、夕星!」

 歩み出そうとする夕星の腕を、十悟が掴む。

「〈エクステンド〉はさっき負けたばかりじゃないか! それに陽真里ちゃんだって馬鹿じゃない。仮に学校に残っていたとしても、あの怪獣が来ることを知ればすぐに避難するはずだろ!」

 例え、困惑の中にあろうとも、十悟の主張は最後まで正論であった。

 夕星の周りの「頭のいい奴」は揃いも揃って、正論を振りかざす。それはきっと自分以上に周りが見えているからなのだろう。

 だが、今回ばかりは夕星も譲る気がなかった。陽真里を狙う怪獣は、これまでの怪獣と何もかもが違っているのだ。だから、どんな脅威が彼女に降りかかったとしても、おかしくはない。

「悪いな十悟。俺はヒバチが……いや、陽真里が傷付く可能性があるのなら、例えそれが一パーセントにも満たない確率であろうとも、それを許容することができないんだ」

「なんだよ、それ……確かに俺だって陽真里ちゃんのことは心配だ。幼馴染であるお前が、彼女に特別な想いを秘めてることだって知っている。ただ、さっきから聞いてれば、陽真里ちゃん、陽真里ちゃんって熱くなり過ぎなんだよッ!」

 十悟の猛禽のような瞳がキツく細められた。けれど、その瞳に込められた思いは、敵意や苛立ちではなく、自分へと向けられた不安と心配であった。

 彼は夕星の襟首を掴み上げ、強く揺する。まるでどこかおかしくなってしまった自分を正気へと戻そうとしているようでもある。

「悪い、十悟」

 だが、夕星はその腕を払い除けた。

「俺にとって陽真里はただの幼馴染じゃねぇんだ。増して、『好き』とか『嫌い』とか、そんなチープな言葉で表せるほど、俺の内心は安くねぇんだよ」

 ◇◇◇

 中学に上がって間もない頃、夕星の両親は揃って蒸発した。どうせ、しょうもない理由なのだから、二人が自分を捨てたワケなんて知らないし、知りたくもなかった。

 それでも当時は多感な時期だ。自分の中学生活が荒れ果てることもある種の必然であった。

 手当たり次第に、詰まらないことをしている連中を殴り倒して、憂さ晴らしに努める。いかにもガラの悪そうな上級生や、愚連隊まがいの高校生たちと正面を切って喧嘩をしたのだって一度や二度じゃない。

 無論、そんな日々を送っていれば絆創膏や生傷と共に、自分へ向けられる冷ややかな視線と偏見ばかりが増えていく。

 いいや。

 あれは偏見などではなく、他者の認識する「神室夕星」という人物像そのものであったのであろう。


 だが、彼女だけは────陽真里だけは、しつこく付きまとうことを止めようとしなかった。


 何度拒絶しようとも、「幼馴染だから!」という詰まらない理由だけで、彼女は傷の手当てをしてくれたのだ。

 ロクに授業に出ようとしなかった自分に、勉強を教えてくれもした。

「夕星はもう少し日常を好きになった方が良いよ。世界はフィクションとノンフィクションに溢れてるんだから。辛いなら、フィクションに逃げたって良い」

「子供みたいに幼稚な願い事や幻想を抱いたって、目の前のノンフィクションに押しつぶされるよりはマシなんだから」と。

 
 そんな風なお説教を、何度も食らったことを覚えている。


 そして、また少しずつ時間が過ぎていって。中学を卒業するくらいの頃には、喧嘩の傷が顔から綺麗に消えていた。

 どこで道を間違えたのかオタク趣味に目覚め、お金の使い道について叱られることも増えたが、それで良かったと思う。

 少なくとも今の自分は何処にでもあるような日常を、心の底から楽しむことができたのだから。

 ◇◇◇

「きっと陽真里がいなくちゃ、俺は両親以上に無責任な大人になってたと思うんだ。だから、寸でのところで俺を引き止めてくれたアイツには、返しきれないくらいの恩がある」

 だから、彼女を助けたいのだ。

「泥沼の底にいた自分を彼女が救ってくれたように、今度は自分が彼女を救わなければならない」という、ただそれだけのシンプルな理由が、夕星の手足を動かす原動力となり得た。

 トルクを上げたエンジンのように火照ってゆく気持ちも、鋼のように固い覚悟もすべては彼女を想うからだ。

「……陽真里ちゃんがお前に求めている想いは、そんな呪縛みたいな恩義じゃなくて、もっと単純明快なものだと思うんだけどな」

 夕星には、その言葉に込められた真意を読み解くことが出来なかった。

 ただ、十悟もこれ以上、自分を止めようとしない。その代わりに、握った拳を差し出してきた。

「分かった、お前の好きにすれば良いさ。〈エクステンド〉に乗って、あの怪獣を殴り倒すのも、陽真里ちゃんを助けるのも、好きにすれば良い。────ただ、一つ条件を付けさせてくれ」

「……条件?」

「ちゃんと、勝って戻ってくるんだ。格ゲーの決着ついてないだろ?」

 そういえば、お互い一ラウンドを取ったまま決着がついていなかった。

「あのなぁ……お前なぁ……」

 それを言うのは今じゃないだろうに。本当にこの悪友は……

 ただ、おかげで張り詰めていた気持ちもほぐれた。

「いや、そうだな。俺の操る〈エクステンド〉が怪獣なんかに負けやしねぇよ!」

 夕星も同じようにして拳を差し出す。そこで交わしたフィストバンプからは、小気味の良い音が鳴った。

 ◇◇◇

 ゆっくりと装甲が降りてきて、夕星を収めたコックピットは静かに閉ざされる。

 ほんの一瞬、視界が闇に包まれるも、すぐにシート背部から顔の半分を覆うようなヘッドセットが現れ、額へと装着された。

 これを介して、外の光景を伺い知るのであろう。

「ロボットものでよくある網膜投影とか、視神経のリンクみたいな奴なんだろうな」

 夕星の視界に映し出されるのは、外の景色だけじゃない。機体の電圧や油圧など、様々な数値を示すパラメータが投影された。

 複雑な数値の羅列ばかりが視界を埋め尽くしていく。

 だが、夕星にはなぜだかその意味が理解できるのだ。

「まさか……戦い方を教えてくれてるのか?」

 操縦桿をどのように倒して、足元のペダルをどう蹴れば、機体がどのような挙動をするかに至るまでの必要な情報の全てが、ヘッドセットを通して脳内に流れ込んでくる。

 それどころか、すこし懐かしい感じまで……

「電圧チェック。油圧チェック。」

 コックピットに備えられたスイッチを一つ、また一つと入れていく。その動作に一切の逡巡はない。

「エンジン回転数・ノーマル。関節機構ロック解除。現実固定(メルマー)値センサーをアクティブモードへと移行────さぁ、いこうぜ〈エクステンド〉ッ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~

水無月礼人
ミステリー
 子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。  故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。  嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。  不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。 ※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。  【アルファポリス】でも公開しています。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...