OverKill:LifeMeter

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#16 不明瞭な不安

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 エイラは椅子に座っている白夜の前まで歩き出て、そのまま見下ろした。それから視線を隣に座る雪音にちらりと走らせ、歯を噛みしめる。

「ま、またお二人でぇ……お、オレを殴りにきたってか!?」
「違う。今回は話を聞きにきた」

 冷静な白夜の返答にエイラは唾を飲み込んだ。

「ひひっ……そ、その話ってのはあの"クスリ"の話ってか……! 誰がお前らなんかに……!」

 敵対心を露わにして拒否するエイラ。白夜はじっと彼を見る。

 拒否されることはあらかじめ予想できていた。先に手を出したのはエイラ率いる黒い日輪ダーク・サンライズであるとはいえ、一波乱あった仲だ。そう素直に話してくれないのは当たり前である。

 しかし話してくれなければ金剛寺の件は進まない。"短命"の呪いを受けている白夜はこんなところでゆっくりしたくなかった。

 それに急ぎたいのは白夜だけではないだろう。隣で座る雪音を目の端で見る。彼女の姉の異能が金剛寺に奪われ、さらに彼女は昏睡状態み陥っている。いつ姉の身に何が起こるか分からない。

 故に雪音もできる限りこんなところでゆっくりしていたくないはずだ。

 やはり"こういう役"は白夜の役目か、と右手に"重力"の異能を纏い、立ち上が――。

「話してもらいます。

 白夜が立ち上がる必要はなかった。

「っ!?」

 ギョっとした畏怖が喧騒に変わって広がっていた。白夜もギョっとして先に立ち上がった雪音を見る。その拍子に右手に纏わせていた重力が霧散した。

「こ、これは……!?」

 雪音は立ち上がり、その右手をエイラの額付近に伸ばしていた。そしてその指に刺されたエイラの表情は

 ピキピキとエイラの足元が凍り付き、それは瞬く間に首元まで到達していた。白い冷気がエイラの周囲に漂う。

黒い日輪ダーク・サンライズ……って名前でしたっけ。その下らない日輪ごと凍らせますよ?」

 雪音の瞳は可憐な相貌が霞むほど、背筋が凍るようじゃ冷たさをしていた。エイラやその取り巻きはともかく、白夜ですらその瞳に恐怖を感じた。

 エイラは恐怖と凍結、二重に震えた唇でぼやく。

「お、お前も……オレと同じ……!」

 雪音の異能"凍結"を目にして、それが自分の持つ異能と類似していると直感したのだろう。エイラが異能を持っているように、雪音もそれを持っている、と。

 そこまで思考してエイラはハッとした表情で目を見開く。半分凍った首を何とか曲げて、白夜の方を見た。

「まさか……お前ら……!」

 その対象には雪音だけじゃなく白夜も含まれている。エイラは雪音と関連付けて、ようやく白夜も自分と同じだと――正確には異なる存在だが――気づいたようだ。

「……まあな」

 こうなったら誤魔化す必要もない。白夜は素直に肯定した。

 そもそも数時間前の戦闘では白夜は異能をエイラに見せなかった。なので当時は白夜が異能力者ミュートであることに気付かなかったのだろう。――まあ白夜はエイラを超人的な拳で殴り飛ばしたために、普通ではないとは思っていたであろうが。

「そ、それなら、オレと一緒だっていうなら、お、オレがこれからどうなるのか分かるのか!?」
「……?」

 必死な表情でエイラは二人に聞いた。今までの敵対心はどこへやら、力強くすがるような態度に雪音も白夜も顔を見合わせた。

 エイラはそんなことなど気にせず、まくし立てるように続けた。

「さ、さすがのオレでも……ひ、ひひひ……怖ぇえんだよ……! あの能力……! 筋肉がついたわけでもねえのに、拳一つでコンクリートにはヒビが入った……! その"力"はど、どこから来るってんだ……! お、オレはんなモン持ってねえ……! オレの体は一体どうしちまったんだ!?」

「お、おい落ち着けよ……」

 白夜と対峙した時とは打って変わって、エイラは錯乱した様子で白夜に詰め寄った。

「お、オレだって"わきまえ"をし、知ってる……! こんな強い力に代償代価が無ぇわけねえだろ! オレは、オレはこの力を使った代償にどんな仕打ちを受けなきゃいけねぇんだよ!?」

 それは悲鳴だった。突発的に手に入れてしまった未知の異能ちから――エイラはそれを持て余していた。

 サングラス男曰く、エイラはODオーバードース、いわゆる過剰服薬をよくしていたようだが、今の状況はODによる幻覚作用が現実となっているようなものだ。

 その不気味さは情緒を崩す。ODでさえ寿命を縮める行為だ。エイラが度胸試しと称して服用した異能覚醒薬チューニングはODで現れる幻の類を異能という形で現実にした。OD以上の効果を持っていたのだ。ならば、OD以上のデメリットがあるに違いないとエイラは踏んだのだろう。

 ODでさえ死のリスクがある。それ以上となると、何が待っているというのだろうか。逃げられない確定的な"死"なのか、それともそれ以上の惨状なのか。

「教えてくれよ……!」

 膝を震わせ、そう小さく吐き出した言葉は細く消えていった。目の前にいるのは半グレ達をまとめる人物か。否、白夜にはそうは見えなかった。ただ闇雲に未知なる暗がりを怖がる臆病者にしか見えなかった。

「……雪音さん……」

 白夜はエイラを見かねて雪音へと視線を向ける。

 エイラ相手にこんな思いをする時がくるとは思わなかった。しかし、不覚ながら白夜は彼に同情してしまった。"死へのあやふやな恐怖"――エイラが今この瞬間に感じているそれを、白夜はこの二年間ずっと感じていた。

 同じだったのだ。エイラの恐怖は白夜の恐怖だった。

「……はぁ」

 白夜の同情が込められた力のない視線を受けて、雪音は深くため息をこぼす。

「教えてあげますよ。ですが、教えたら貴方が飲んだ"クスリ"について、全て話してもらいます」

「! ……ほ、本当か?」

「えぇ。至極簡単な答えを私は持っています」

 エイラの揺らぐ瞳に光が差した気がした。白夜は何となく彼から目を離す。

 雪音はなんの躊躇も溜めもなく、ただ淡々と告げた。

「貴方が飲んだ"クスリ"――"異能覚醒薬《チューニング》"と呼ばれるものに、貴方が心配しているようなデメリットはありません」
「……へ?」

 目を丸くしてエイラは一歩前進する。それからその場で膝をつくと、もう一度雪音に聞いた。

「それは、本当か?」
「本当です」

 瞳を細め、顔色を全く変えずに雪音はそう答えた。エイラは聞き直したその言葉を聞いて、その場で崩れ落ちる。

「……そうか、そうか……!」

 エイラは口の中でモゴモゴと言葉を咀嚼していた。周囲の半グレ達からも安堵のため息が所々から聞こえてくる。

 しばらくその状態で安堵に浸っていたエイアだったが、ゆらゆらと立ち上がった。それから白夜と雪音を見ると、半グレ達へ言う。

「ち、茶ァ、持って来い。あとイス!」

 その言葉を聞いた数人の半グレ達が廃病院の奥へ消えていき、サングラス男が壁に立てかけてあったパイプ椅子持ってきた。彼がそれをその場で組み立てると、エイラはどすんと座る。

 そしてもう一度、白夜と雪音を真っ黒な瞳で見据えた。

「……何が知りたい。協力してやるよ」

 薄ら笑いを浮かべ、あのエイラがそう言ったのだった。
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