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1 その名は
しおりを挟む殺害に有効な属性はどれか。
全てを破壊する炎か。
全てを呑み込む水か。
全てを巣喰い喰らう木か。
全てを照らし騙り壊す光か。
全てを堕とし滅する闇か。
否、否、否――。
それは、
*
一閃、それが自分の襟元を通っていき、すぐに不可視なる次の一閃へと成り代わる。男は刃を振るう骸の太刀筋を見定めるように、全ての型式をかわしていった。
右肩から、下からの斬り上げ、持ち手を変えてのフェイント、次々と業を繰り出す骸の光の軌道はそれは見事なものだったが、一向に男へは届かなかった。茶色のコートを着た男は、骸の剣技に既視感を覚えてきたところで降りかかってきた一閃を見切り、いつの間にか握られていた黒い小刀で空をきった骸の刀を、峰から叩き割った。それからナイフを片手で回転させ、そのまま骸に投擲する。そのナイフは一直線に迷いない軌跡を描いて目玉の入っていない頭蓋骨の穴へと突き刺さった。
奴は骨だ。だから、小型一本、どこを刺されようとも痛みはないし、死にもしない。彼はもう死んでいるのだ。頭蓋を完膚なきまでバラバラに叩き割るか、破壊を司る魔法で粉砕しない限り、とうの昔に失った生き血を浴びるため、永久に動き続ける。それが、アンデットに課された宿命。それを意識を失い本能で動いているその骸にはわかっていた。故に、カカカと音を鳴らしながら空っぽの顔で笑う。それに対し、男は興味もなさげにくるりと後ろを向いた。
骸は、憤慨した。名だたる剣士として馳せた生前の名誉が、今やもはや黄泉の国へと送られたプライドが、肉と魂のない骨格を奮闘させ、今にも男に切りかかろうとしたのだった。――しかし、動かない。動けない。
視界が屑のようにバラバラと落ちていく。頭蓋が、中から腐敗していっているのだ。頭を支えていた頭上から後頭部にかけてはすでに屑と化し、地へと還っている。どうにもならない体の崩壊に、骸は太刀を手放しすでに消滅した頭蓋骨を抱えた。喉もないから悲鳴を上げられない。目玉がないから涙を流せない。人ならざる者に、救済が与えられるはずもない。
骸は、地となった。数十年の間血を吸いつくしてきたかつての名刀は、主人が命を堕とした時より曰くのある妖刀へと姿を変えて、今ようやく主の残りかすと共に伏したかのように妖しい輝きを失い、ついには真っ二つに割れてその長い生涯を終えたのだった。
殺害に有効な属性はどれか。
――それは、毒。生者、死者を問わず、万物をも崩壊させる毒。余計な破壊はいらず、必要なものだけを侵し刈り取る。
全てを失った男は、旅を続けていた。全てを奪い、全てを不幸にするために。
その男の名は、悪魔と自ら名乗った。
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