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甘言
しおりを挟む「待ってくれ君達」
「……?」
診察室を出たところで、僕たちは見知らぬ白衣の男性に呼び止められた。
「な……なんでしょうか」
まだ涙を抑えきれていない君は、顔を伏せたまま、おどおどと振り返る。
「私はここの医師だ。その、立ち聞きするつもりではなかったのだけれど事情を聞いてしまってね。私が力になれるかもしれないよ」
「え?それは本当……ですか……!?」
「嘘、ですね。彼女 に……話しかけないで、下さい」
「……っ」
ハッと顔をあげた君の前に割り込み、僕は相手の男性を牽制した。
「貴方は白衣をきている、けれ ど、首にさげたそのIDは偽装です。そっくりですが……フォントの色が僅かに違う。それに、少し、滲みも見える」
「ハ……!ハハハ、そうか。古びて鈍くなったようでも流石だな。バレてしまったか」
僕に見透かされた男は、動揺するわけでも悪びれるわけでも無く、あっさりと嘘を認めた。
僕が人間だったら、この変わり身の早さにきっと呆れているのだろう。
男は声量を抑えて早口に喋り続ける。
「まぁ待て待て!確かに私は怪しいが君達の為を思っての話だ!せめて聞いてくれ!」
「信用できない」
「いいのか後悔するぞ?聞くが君たち……診察室で初期化を勧められたのではないかい?」
食い下がる男の相手をせず立ち去ろうとした僕に代わって
その言葉に反応したのは、君だった。
「それと何か関係が……!?」
「関係大アリだ!君たちは初期化で納得したのか?初期化だぞ?全て忘れてしまう。貴女と過ごした日々も記憶も、全て白紙に戻るんだ」
「でも……だって、その方法しか残っていないとお医者さまがおっしゃって」
「残っている、残っているとも。記憶を消さずにずっと一緒にいられる道があるのだよ」
座ってゆっくり話をしよう。そう言って君の肩に手を添えて歩き出した男。
制止しようと伸ばした僕の手は動きが遅く……君の背には、届かなかった。
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