異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~

本山葵

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王位継承編③ その戦いで得るものは

戦果

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 しんぼくかいが解散したあと、ゴルツさんだけがチェンバーズ家に残った。
 なんでも親睦会は両家の持ち回り制で、来年はミューレン家でおこなうらしいのだが。
 おれが三男に突き付けた『二度と出るな』という約束を守ると、歴史的なほど長く受け継がれてきた五対五の対戦形式が、次回でくずれてしまうそうだ。
 …………よかれと思ったことが、まさか連綿れんめんと受け継がれてきたことを崩すとは、考えていなかったな。


「ご長男に、お孫さんはいらっしゃらないのですか?」


 リルが二人へ問う。
 レイフさんは目をせて、静かに言葉をつむいだ。


あいにくながら、長男のよめが流産をかえしてしまい……。一番つらいのは本人たちです。親としては、ただ受け入れるしかない状況であります」

「同じ日に生まれた二人が、まさかこんなところまで似るとはな」


 どうやら両家の長男には子供がいないようだ。
 ねんれいてきには二人や三人いたっておかしくないと思っていたのだが、そういう事情をかかえていると親としても苦しいところなのだろう。


「では、次男さんは」


 今度は俺から問う。リルはった事情へ不用意にってしまったからか、少しシュンとしていた。


「両家共に、むすめがおります。私どもには十二さいと六歳の子が」

「うちは十一歳と七歳だ」

「あっ、それならお孫さんに五番目の勝負を――!」


 俺の提案に、初老の二人が目の色を変えて、ギロリとにらんできた。


「ハヤト様、私がまごむすめを危険な目にわせるとでも?」

「ワシのいとしいヨルムちゃんとグリムちゃんを傷つけるやからは、たとえ試合だろうとそつこく殺す」

「あ……はい……すみません…………」


 この国は現代日本に比べて男性と女性の役割がハッキリと分かれている。
 まあ日本だって百年もさかのぼれば男女は思いっきり区別されていたから、中世世界でそういうことがあっても違和感は得ない。

 しかし三人のむすめぐまれた後に生まれたのが、男の子一人と女の子二人――か。

 普通の貴族ならば、女性が家をぐことも許されているし、特にあとぎに困るわけではないが。
 武術を女性にむというのは、貴族以上の身分では御法度ごはっとと言っても良い。
 しゆくじよが好まれるから、けつこんの機会にめぐまれずあとぎ不足になる可能性すらあるわけだ。
 血の継承けいしようと技の継承を両立させなければならないことは、チェンバーズとミューレン、両家特有の事情だろう。


「仕方がないこともあるのです」

「ああ。自然にだけは逆らえぬ」


 二人が受け入れているように、このままでは俺がどうこうするまでもなく五対五の手合わせはいずれ不可能になっていたのだろう。
 そもそも今の状態だって……。


「――ゴルツさん。四人の対決を二対二で終えていれば、ヤーマンさんの不戦敗を合わせてミューレン家の勝利――。あれは本気で言っていたんですか?」


 不思議なことに、俺がさんなんぼうに勝ってからというもの、ゴルツさんの好感度がグイグイじようしようして一気に六割ほどにもなった。
 むすたたきのめされて好感度を上げるってのは、よほどの事情があるとうかがえる。


「仮に我々がそうして勝利を宣言したという話が世に出回ったとして、ミューレン家の名声が上がると思うのか?」

「思いません」

そくとうか――」


 ゴルツさんは「ふふっ」とふくわらいを見せてから、二の句を継いだ。


「子や孫を戦地へ送りたい人間など、一人もおらぬ。――ヤーマンには悪いことをしたが、ああして見世物にすれば、だれも戦地へおもむこうとなどしないだろう」

「……なるほど」

「同時に、貴族の仕事はあくまで王族へつかえること。それを忘れてはならぬという、いましめでもある。ヤーマンは……事情だけは理解するが、貴族の使命と家族を置き捨てたことに関しては、許せぬ。――――特に、幼きころからたがいにせつたくしてここまで生きながらえた老いぼれが酷くしずむ姿を見るというのは……な」

「ゴルツさん……」


 貴族には貴族のプライドがあり、ヤマさんはどんな理由があれど、それをおかした。
 家族を置いて戦地に出ていたことを知ったときは、俺だって『なんでそんな人が戦地の前線になんて』とくちびるんだわけだが、同じおもいをゴルツさんも、きっとレイフさんも、俺よりもずっと強くかかえていたのだろう。


「ほっほっほ。しずんだ老いぼれに負ける老いぼれというのは、見ていて胸が苦しくなるものがありますな」


 あれ。いきなりレイフさんがけんを売ったぞ。
 おーい。守りの型はどこに行きましたかー?


「ああん? そのまま苦しんで死んでも、かいしやくしねえぞ」

「歳を重ねれば武術の基本がなんたるかを知ると思いきや、若いころとなにも変わらずにまわすばかり」

「力こそパワーなんだよ。いちげきでねじ伏せれば勝ちだ」

「負け犬ほどよくえる」


 ああ、これ両家の仲が悪いというより、当代の仲が悪いのか……。


「来年こそゆかたたきつけてやるからな。それまで、生きておけよ」

「ええ。かえちにする日を毎年、心待ちにしていますよ」


 うーん。仲が悪いのか良いのか……。
 いや、幼少から互いの家名を背負って切磋琢磨してきたライバルなんて言うのは、もう、良いとか悪いとかで簡単に言い切れるような仲ではないのだろう。
 リルはくすりと笑って、マノンははてなマークをかべるような表情で二人の様子をながめていた。


「……あっ、そういえばゴルツさん、リルにあやまってください。散々なこと言っていましたよね?」

「それは……。うむぅ…………。ワシも王族に仕える身。リル様の心を折ることも仕事という立場だと、理解して頂けたら」


 リルの心を折る仕事?
 俺たちは特に立候補を隠そうとしていないから、そうなると――


「では、ミューレン家が仕える王族の中から、候補者が……?」

「ええ。ルート家の子息、リディア様です」


 はて。
 とりあえず五年もこの世界で生きているけれど、本当に貴族王族の事情に明るくないから、さっぱりだ。
 ルート家というのは、この国、今では中央区の宗教を司る王族だ。当代や家の人間と直接合う機会はなかったが、名前ぐらいなら俺でもよく知っている。
 けれどリディアという名前には、心当たりがない。
 ……だが俺のとなりでくすりと笑っていたはずのリルが、表情をくもらせた。


「リディア――。そう、あの子も……」


 名前の語感から察するに、女性だろうか?
 そしてリルが『あの子』と表現するのだからおそらく、同年代かそれ以下。


「ルート家のリディア様……。これは強敵ですぞ」


 次いでレイフさんも、あごに手を当てて深刻そうにつぶやいた。
 俺はまだ、王位けいしよう戦の本当の厳しさを、知らないのかもしれない。
 ゴルツさんはリルへあやまることなく胸を張って、正当性を主張する。


「チェンバーズ家が今の国王陛下へ仕えているように、ミューレン家も次の国王陛下へ仕えたいのだ」


 そのために仕事を果たすことこそが、名家めいかを背負う人間の務め――か。
 ググッと上がっていた好感度を利用してミューレン家の票を取り付けようと思っていたのだけれど、これでは難しそうだ。
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