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ほのぼのとした生活と、東の
サラ④ 焼き払え!!
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庭の外周は一メートル程度の低い壁で隣家や道路との境目を作っていて、そこに夥しい量のツタが這っている状況。
そしてどうにも、このツタが強い。
ハサミでは切れないし、力尽くで取り払おうにも太くて固い。
「んー。これ、どうするんだ」
悩んでいるところで、庭にレイフさんがやってきた。
「ほっほっほ。お困りのようですな」
「助けてくださいよー」
泣きつきたい気分である。
「このツタは城下町特有のものですよ。強くて丈夫で、上手く使えば縄としても利用できます」
「丈夫すぎてどうしようもないんですけど……」
ガーデニングとか興味もなかったし、戦場で受け継ぐスキルにガーデニングなんてあるはずもない。あったらちょっと戸惑うだろう。
つまるところ、この場面において俺は無能である。
「切れないなら、燃やしてしまえば良いのですよ」
「物騒なことを言いますね……」
「いえいえ。ガス灯を使って火で炙るんです。そうすればツタがやわらかくなります」
ライターとして使う――ってことかな。
「火が燃え移ったりはしないんですか?」
「黒焦げになっても、燃えはしません。それがこのツタの特徴です」
なるほど。
ということは、マノンに炎の魔法でも使ってもらえば良いのかな?
いや、でもあいつの魔力では、どれだけの火炎が立ち上るかわかったものではない。
壁はレンガ造りだから高温に強いだろうけれど、家に飛び火したら洒落にならないし、最悪、爆発なんて可能性も……。
「火……か」
足下には、サラマンダーのサラ。
サラマンダーというのは本来、火の妖精とか、そんな感じだったと思う。
つまるところこいつは火属性のドラゴンだ。
「サラ。この壁を焼けるか?」
三頭身のサラはコクリと頷いて、スーッと息を吸うと――。
『ゴバァァァァァッ!!』
壁の表面だけに火炎放射。一気にツタは焦げてしまった。
これなら余裕である。
「よーし、サラ! このまま全部焼き払え!!」
一応、水を準備しておいて……、と。庭に蛇口があるのは便利だな。
まあいざとなればマノンに水魔法を――って、今度は洪水の危険が。あいつの魔法、思ったより役に立たなさそうだな。
よく考えてみると脅しと破壊とストーキング盗撮にしか使っていないし。たち悪っ!
「ほっほっほ。英雄様は豪快ですのう」
「サラも結構、役に立つんじゃないですか?」
「ええ。このツタには城下町はもちろん、王城ですら手を焼いているのです。こんな方法があるのなら、引っ張りだこでしょう」
「…………そう、ですか」
「はて。浮かない顔をしておりますが――」
サラは有用性さえ認められれば、この国で生きていけるのかもしれない。
ドラゴンなんて、手懐ければ攻防最強の存在。
統一したとは言え、長い未来を見据えれば、東西南北の半島が『やっぱり独立する!』と言い出す可能性もあるわけで。
圧倒的な力はその抑止にもなるだろう。
んで、エサは人が食べないきのこ。コスパがよすぎる。
「いえ。中ではリルとマノンが掃除をしているので……。サラも役に立っているし、俺もなにかしないと……って」
「はっはっは。庭というものは勝手に成長しますから、永遠に手入れができますよ。焦らずとも、できることは増えていきます」
「――――そうですね」
リルとマノンも、少しずつ変わってきている。
もしかすると二人とも置いていったって、どうにかなるのかな。
「レイフさん、王位継承選に新しい立候補者は出ていないですか?」
「私の知る限りでは、リディア様で最後です。まだ期間はありますが……、なにせ偉大な国王の後です。王族は皆、尻込みをしている状況ですよ。誰か野心のある人間が一旦継承をして、失脚させ、その次を狙うほうが民衆の支持は得やすいでしょうから」
「政治的な判断ですね……」
どうも王族ってのは、そういう小細工だけは上手いようだ。
名君と比較されては敵わないから、捨て駒を一人、挟む。これはまあ日本でも聞く話ではあったし、妥当な判断だろう。
「ハヤト様は『どちらか一人を』この世界へ残していくことが、不安なのですか?」
「いえっ、そんな。まだどっちかと帰るなんて決めたわけじゃ……!」
「他の誰かを選べば、二人を残すことになるだけでしょう。そんなことぐらい、老いぼれに指摘されずともわかっているはずです」
「……はい」
リルは王族でなくなってしまって、これからどうやって生きていくのかわからない。
一方のマノンはそもそも社会経験が極端に少なくて、精神的にも年齢以上に未熟で不安定。
「まだお若いのです。故郷と家族のことを考えると焦るかもしれませんが、せっかくですから、ここでの生活を楽しんでみては如何でしょうか?」
楽しむ――か。
まあ、楽しむという観点で考えると、この状況はかなり――。
「では、私は失礼致します」
レイフさん、良い人だな。
踵を返した後ろ手に、ガス灯が見えた。
そしてどうにも、このツタが強い。
ハサミでは切れないし、力尽くで取り払おうにも太くて固い。
「んー。これ、どうするんだ」
悩んでいるところで、庭にレイフさんがやってきた。
「ほっほっほ。お困りのようですな」
「助けてくださいよー」
泣きつきたい気分である。
「このツタは城下町特有のものですよ。強くて丈夫で、上手く使えば縄としても利用できます」
「丈夫すぎてどうしようもないんですけど……」
ガーデニングとか興味もなかったし、戦場で受け継ぐスキルにガーデニングなんてあるはずもない。あったらちょっと戸惑うだろう。
つまるところ、この場面において俺は無能である。
「切れないなら、燃やしてしまえば良いのですよ」
「物騒なことを言いますね……」
「いえいえ。ガス灯を使って火で炙るんです。そうすればツタがやわらかくなります」
ライターとして使う――ってことかな。
「火が燃え移ったりはしないんですか?」
「黒焦げになっても、燃えはしません。それがこのツタの特徴です」
なるほど。
ということは、マノンに炎の魔法でも使ってもらえば良いのかな?
いや、でもあいつの魔力では、どれだけの火炎が立ち上るかわかったものではない。
壁はレンガ造りだから高温に強いだろうけれど、家に飛び火したら洒落にならないし、最悪、爆発なんて可能性も……。
「火……か」
足下には、サラマンダーのサラ。
サラマンダーというのは本来、火の妖精とか、そんな感じだったと思う。
つまるところこいつは火属性のドラゴンだ。
「サラ。この壁を焼けるか?」
三頭身のサラはコクリと頷いて、スーッと息を吸うと――。
『ゴバァァァァァッ!!』
壁の表面だけに火炎放射。一気にツタは焦げてしまった。
これなら余裕である。
「よーし、サラ! このまま全部焼き払え!!」
一応、水を準備しておいて……、と。庭に蛇口があるのは便利だな。
まあいざとなればマノンに水魔法を――って、今度は洪水の危険が。あいつの魔法、思ったより役に立たなさそうだな。
よく考えてみると脅しと破壊とストーキング盗撮にしか使っていないし。たち悪っ!
「ほっほっほ。英雄様は豪快ですのう」
「サラも結構、役に立つんじゃないですか?」
「ええ。このツタには城下町はもちろん、王城ですら手を焼いているのです。こんな方法があるのなら、引っ張りだこでしょう」
「…………そう、ですか」
「はて。浮かない顔をしておりますが――」
サラは有用性さえ認められれば、この国で生きていけるのかもしれない。
ドラゴンなんて、手懐ければ攻防最強の存在。
統一したとは言え、長い未来を見据えれば、東西南北の半島が『やっぱり独立する!』と言い出す可能性もあるわけで。
圧倒的な力はその抑止にもなるだろう。
んで、エサは人が食べないきのこ。コスパがよすぎる。
「いえ。中ではリルとマノンが掃除をしているので……。サラも役に立っているし、俺もなにかしないと……って」
「はっはっは。庭というものは勝手に成長しますから、永遠に手入れができますよ。焦らずとも、できることは増えていきます」
「――――そうですね」
リルとマノンも、少しずつ変わってきている。
もしかすると二人とも置いていったって、どうにかなるのかな。
「レイフさん、王位継承選に新しい立候補者は出ていないですか?」
「私の知る限りでは、リディア様で最後です。まだ期間はありますが……、なにせ偉大な国王の後です。王族は皆、尻込みをしている状況ですよ。誰か野心のある人間が一旦継承をして、失脚させ、その次を狙うほうが民衆の支持は得やすいでしょうから」
「政治的な判断ですね……」
どうも王族ってのは、そういう小細工だけは上手いようだ。
名君と比較されては敵わないから、捨て駒を一人、挟む。これはまあ日本でも聞く話ではあったし、妥当な判断だろう。
「ハヤト様は『どちらか一人を』この世界へ残していくことが、不安なのですか?」
「いえっ、そんな。まだどっちかと帰るなんて決めたわけじゃ……!」
「他の誰かを選べば、二人を残すことになるだけでしょう。そんなことぐらい、老いぼれに指摘されずともわかっているはずです」
「……はい」
リルは王族でなくなってしまって、これからどうやって生きていくのかわからない。
一方のマノンはそもそも社会経験が極端に少なくて、精神的にも年齢以上に未熟で不安定。
「まだお若いのです。故郷と家族のことを考えると焦るかもしれませんが、せっかくですから、ここでの生活を楽しんでみては如何でしょうか?」
楽しむ――か。
まあ、楽しむという観点で考えると、この状況はかなり――。
「では、私は失礼致します」
レイフさん、良い人だな。
踵を返した後ろ手に、ガス灯が見えた。
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