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第三章 内政チートで魔王の国を改革! 魔王からの好感度アップを目指します

11 職業選択の自由を提案してみます③

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「なるほど、確かにそれは効率がいいかもしれません。しかし、貴族が貴族として領地の経営ができるのは、やはり幼い頃からそれ相応の教育を受けているからです。同様に、商家の人間が商家を継げるのは、幼い頃から計算を学んでいるからでしょう。やはり、生まれ育った家柄次第で、その人物の適性も決まるのではないですか?」

 さすが、ヴィネ陛下を影で支える優秀な宰相である。
 セパルは、ほんの少し思案しただけで、私の提案を理解し、さらには私の案の綻びを指摘してきた。
 しかし、私もその点については、あらかじめ考えていたのだ。

「そうなのですよね。セパル様のおっしゃる通りです。ですから、貴族に限らず、農家の人間も商家の人間も、すべての人間が、最低限の学問を学べる場を作ってはどうかと思うのです。それこそ、人間に限らず、エルフもドワーフも獣人も、男も女も分け隔てなく、初歩的な読み書きと計算ぐらいは学べるような場を作ればいいのではないか、と」
「女も、ですか? でも、女は皆、嫁いでしまうでしょう? 子育てをしている間は働けませんから、それは無駄なことではありませんか?」

 子育てを女性だけが担うのか否か──
 確かに、これは前世の日本でも、まだきちんと解決されていなかった問題だ。「ワンオペ育児」なんて言葉もあったぐらいである。
 しかし、各人の適性を活かした職に就けるような国にするなら、この制度もいずれは必要になるはずだ。

「複数の子どもたちを預かって育てられる施設を、国がまず作ればよいのではないかと思うのです。保育所、という施設を。子どもを育てることが得意な者もいれば、苦手な者もいるでしょう。得意な者が引き受けることで、子どもの生存率も上がるのではないでしょうか? そして、子どもを預けた女たちは、それぞれ適性に合った仕事をすればいいと思うのです」

 中世的な世界で問題となるのは、やはり子どもの死亡率の高さだ。
 医学が進歩していないという問題以前に、子どもの人権が認められていない社会では、働き手となり得ない子どもを手厚く保護して命を繋ごうという意識がそもそも低い。そのため、貧しい家庭においては子どもや老人が、いとも簡単に口減らしの対象となる。
 人権が認められていないから、虐待の対象となることも日常茶飯事だ。
 だから、裕福な貴族は別として、庶民の間では子どもの生存率が低くなる。

 むやみやたらと富国強兵を行うだけでは、バッドエンドを避けられるとは思えない。
 アヴァロニア王国を、単なる軍事強国にしても意味がないだろう。
 それでは、おそらくヴィネ様の理想ともかけ離れた国家になってしまうはずだ。
 また、戦略シミュレーションゲームにおいても、内政をおろそかにしたまま、戦争の準備ばかりしていると、いずれ足元を掬われてしまう。国内で信用していた臣下に寝返られて、国が瓦解するという展開も、シミュレーションゲームではよくあることだ。
 富国強兵を進めると同時に、できるだけこの国の民のためになる政策を考えていかねばならない。そして、臣下や国民の信を集めていく必要がある。

 エルフや獣人、ドワーフを差別しないヴィネ様にならわかってもらえるだろう。子どもや老人、女性も、すべて等しく人権を持つ存在なのだ、と。
 国民は国の宝だ。この考え方は、国を富ませるために、必要な考えとなるはずだ。

「エレイン様のお話は、宰相としても一人の人間としても、いろいろと勉強になりますね。伺っていて、非常に興味深いご意見ばかりです。城に帰ったら、さっそく陛下に奏上することにいたしましょう」

「その必要はないぞ、セパル」
「えっ!! へ、へ、へ、……陛下!? ど、どうしてなの……?! どうして、ここに!?」
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