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第146話 リトルレディの最大の告白

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後日、斑鳩の地下から無残な死体で本物のジュリアン・斑鳩が見つかった。死亡推定時刻は大体1カ月前。涼達が魔界へ向かったあの日だ。
どうやら直前に本物のジュリアンは殺され、替え玉をあの偽物がまるでゲームをするみたいに好き放題していたんだろう。
斑鳩の反乱に加担したジルド教の残党達はみんな今度こそ捕らえられ更にはアイカに利用された各国の兵士達も皆洗脳が強く元に戻るにはだいぶ時間がかかる様だ。
ジュリアンの妹は兄の酷い姿を見てショックで立ち直れないらしく塞ぎ込んでしまい王室ご用達の治療院の隔離施設へ放り込またらしい。

全てが終わり涼達はアンジェラにて戦い散っていったレジスタンスや無残にも偽物に言いように使われ殺された人々をちゃんと弔う為に葬式が行われた。
偽物がゲーム感覚で見境なく多種族達を殺した事もあり、囚われていた沢山の多種族達も参列していた。

「勇敢なる戦士達と斑鳩に無残にも命を奪われた民に捧げよう剣!そして我らは消して貴方方勇敢なる人々を忘れる事なく生き語り継いでいこう!勇敢なる英雄達と大切な民達を永遠に!」

アンジェラ女王がそう言うと兵士達と涼達は剣を空にかかげる。散っていった人々への苦悩と悲しみを忘れず明日を生きていく為に読まれた弔事を胸に刻みながら。


葬儀が終わると涼達はアンジェラ女王に呼ばれ城へ足を運ぶ。
玉座には広い長テーブルが配置され涼達と生き残った王族達が座っている。

「この様な形でのおよびたてして誠に失礼をぞんじますわ」
「いえ、女王様。心遣い感謝いたしますわ!」

アリシアが席を立つとそう言ってお辞儀をすると再び座る。

「では、改めまして。ホウキュウジャーの皆さん此度の活躍誠に大義でありました。感謝しきれませんわ」
「俺たちは別に何もしてないぜ」
「涼!失礼でしょ!レジスタンスとは違うんだから!」
「うふふ。構いませんよアリシア姫。」

女王は扇を広げ口元へ持って行きくすくすと笑う。

「涼殿。此度の活躍は誠に感謝する。ガネットを二度も救ってくれたのだから」
「いや、俺達もあの偽物にまんまとはめられて追いやられて救出が遅れてしまってすまない」
「だから涼!失礼でしょ!!」
「あはは。構わないさアリシア」
「お父様ったら」
「此度の活躍を称してホウキュウジャー一同の生涯の権利を返却いたします。これで皆さんも自由ですよ。」

おーー!
仲間達は愛を助ける際に契約した生涯の権利を返却してもらいこれで自由になり人生を好きにされずに済んだのだ。

「さて、涼殿には爵位を授与して頂きますよ!」
「いや、だから要らないって」
「そうもいかないのよ!これだけの功績を得た以上は貰わないと駄目な訳よ!」
「ええ~面倒いな…」
「涼!!」

アリシアは声を上げた。

「涼さんの地位なら大公は如何でしょうか?」
「たいこう?太鼓なら間に合ってるぞ!」
「お馬鹿!大公よ!大公の地位よ!もっとも最高位の爵位よ!」
「えーー!余計いらねぇ!!」
「貰いなさい!」
「嫌だ!!」
「駄目!こればかりは絶対に!これは王女としての命令よ!涼、大公の地位を有り難く頂戴しなさい!」
「何で貰わなきゃいけないんだよ!そんな大そうなもん!」

大公って確か伯爵より上だったよな?
一国任される程の貴族じゃんかよ。冗談じゃないそんなもん見習いの俳優が受け取れるか!

「大公は王族との婚約が決まるものであります!涼さんには是非我が娘を娶って頂きたく!」
「アンジェラ女王。済まないが涼殿は既に相手はおるそうだ」
「あら?いつの間に?」
「いないわ!」

は?そんな話知らないぞ??何言ってんだ王様。

「涼殿。大公の地位を貰うと言う事は一国の国を任せるに至る、つまり与えた国の王族との婚約は必然なんです」

は?そんな話聞いた事ないんだが…

「お父様、まさか!!」
「うむ。婚約おめでとうアリシア!」
「え…」

「「「「「「「「えーーーーー!?」」」」」」」」」

一同が声を上げた。

「つまり涼さんと姫さまが結婚するんですか!?」
「凄いですな涼殿!!」
「先越されたか~」
「まあ、わかってはいたけどね」
「祝い酒用意しないとな~」
「ちょっとみんな勝手に決めんな!!ていうか何で俺が結婚しなきゃいけないんだよ!!」

アリシアはまだ13歳の子供だ。何より本人が嫌に決まってんだろ!!

「私としても何処の馬の骨に奪われるくらいならです。今回の一件で良く判りました。アリシアの幸せには涼殿のこそが相応しく任せられるとふみました。」
「王様!俺は終わったら帰るんだぞ!!」

向こうでやり残した事がいっぱいあるんだからな。

「涼は…私じゃ嫌なの?」
「嫌も何もアリシアはまだ子供だろ?」

涼がこの一言を言った瞬間だった。

バチンッ!

「え?」

アリシアは目に一杯涙を浮かべ涼に平手をくらわせた。

「う…馬鹿…何よっ!!涼の馬鹿ッ!最低!アンタ何か願い下げよっ!!」

アリシアは泣き叫びながら机を立ち出て行ってしまった。

一気に空気が重くなり周りが涼に冷ややかな眼差しを向けている。

「涼…お前な…」
「涼さん…最低です…」
「君は…本当に馬鹿だろ…」
「涼殿!女性を泣かせるとわ!」
「涼。お前が絶対に悪い」
「「「同感」」」」 

「えーー!?」

涼は訳が分からないまま話し合いは終わりを迎えた。




「今宵は存分に楽しんでください。全て国が持ちますので。さあ、祝賀会を始めましょう!」
「我が英雄ホウキュウジャーに乾杯!」

乾杯!

ガネット国王の音頭で全てのグラスが掲げられた。

その夜、アンジェラ王国全体で祝賀会が執り行なわれた。
街全体がパーティーで大騒ぎだ。斑鳩から解放された人々達が皆酒を酌み交わして大騒ぎだ。
涼達は城で出された豪華な料理に目がいっている。
ガネットとはまた違ってイタリア料理みたいだ。

「美味しいであります~」
「こう言うのは滅多にお目にかかれないからな!しっかりレシピを盗まないとな」
「信道さん。ご家族の具合は?」
「ああ、王室御用達の治療院で治療はしてもらったからな。杏も幸い偽物にやられた記憶が何故か失っていたからとりあえず大丈夫だ。親父達も暫く休めばなんとかな」

そう、偽物に玩具にされていた信道のいとこの杏は余程にショックが大きかったからかその時の出来事を全て覚えないのだ。幸いだった。あんな地獄は忘れた方がいいからな。
信道の家族はひどい労働はされ過労で暫くは動けないが命に別状はなく一安心だ。

「そうですか!」
「よかったですね!」
「でも、師匠店が…」
「なーにまた一からやり直すさ。そん時は海斗。お前も正式に従業員として入ってもらうからな!」
「本当ですか!」
「食い物は、まだまだ出させないがな。お前はもっと修行だ!」
「はい!10年だって望む所です!!」

海斗は例え何十年かかろうと必ず料理を極めると決めたのだ。償いの為に自分が命を救われた料理で。

「よかったな海斗!」
「また一歩前進ですね!」
「しかし、お前らいつからあの偽物に取り入ってたんだよ!」
「見た感じ馬鹿そうと何か感じたんだよな。始めて会った時より何故か…」

和樹達が異世界へ戻って来た際に会ったジュリアンはどうも最初より賢く無さそうに感じた和樹は人質を助ける為にワザと取り入った。出来ると感じていたからだ。それを知って信道と宝石獣達はだんまりを決め込み協力していたのだ。

「だからアイツらも俺達に何も言わなかったのか」
「偽物を欺く為に!?」
「まあ、敵を騙すにはまずは味方からってね。あの偽物は中身がどうも馬鹿っぽく感じたからな。案の定」

和樹はそう言うとジュースを飲む。

「顔は変わっても中身は変わってなかったわけか」
「それにアイツ公開処刑がやたらと好きだったからな。お前たちと一悶着すれば必ず隙が出来ると踏んだわけだ」
「僕達をダシに使ったわけかい?のぶ?」
「下手すりゃ俺達くたばっていたんだぞ!!」
「何故我輩に話してくれなかったのですか?」
「だから敵を欺くには味方からだ。話したら意味ないだろ」

それはそうだ。
現に奴は涼を公開処刑しようとしたからな。
そこに目が行き監獄島が手薄になると思い作戦を立てはしたが予想だにしなかった敵の勢力も全滅なんてやってのけたからもんだから驚いた。

「これはお前達だから信じてやれた作戦だったからな。悪かったと思ってるし何よりずっと信じてたからな」
「のぶ…お前綺麗に纏めようとしてないか?」
「何の話だカイエン?」

絶対に綺麗に纏めようとしたな。のぶのやつ。

「この度はみなさんに本当にご迷惑をかけました」
「僕達も芝居とは言え…皆さんを裏切るのは辛かったです」
「まんまと騙されましたぞ!」
「いつ稽古したんだ…水臭いなぁ本当に」
「まあ、こうして皆んなまた集まれましたし。斑鳩も妥当したんです。いいじゃないですか!私は皆さんを信じてましたし!」

確かにリアだけはずっと信道達を信じていたのは事実だ。
ほかのみんなはまんまとハマり怒り狂っていたからな。
 
「我輩も信じていましたからな!」
「お前の場合は状況が飲み込めなかっただけだろ!」
「そ、そんなことは…」
「君ならあり得るよルーガル…」
「酷いですぞお二人とも!!」

ルーガルがそう言うと皆笑う。

「さあ、祝賀会は始まったばかりだ今日は食べて飲むとするか!」
「そうですね!」
「でありますよ!んぐんぐ!」
「お前のその両手の肉はなんだ…ベル?」

カイエンはガキだなと思ってしまう。

「気味の悪い食い方しないでありますね首なし」
「もう首なしじゃないわ!普通に食えんだよ!!」

そう死神になったカイエンはもう首は外れない為に普通に物を食べられる様になったのだ。もう首もとの穴から流し込む光景は見なくて済む訳だ。

「あれ?先生は??」
「そういや居ないな?」
「ああ、涼さんなら姫様んとこ行ったでありますよ!」
「姫ん所?ご機嫌とりに行ったな」
「であります。姫様怒っていたでありますから」

アリシアはあれから塞ぎ込み閉じ篭ってしまったのだ。
涼はパーティーを抜けアリシアの元へ向かって行ったのだ。

「まあ、アイツが悪いからな」
「土下座でもありゃ許さないだろうな」
「涼殿は引き下がらないでしょうな!」
「そんな人なら私達も仲間になってないですよ!」
「まあ、姫様はアレで気が強いじゃじゃ馬だからな。ガキ扱いされたのが我慢出来なかったんだろうな」
「姫様はリトルレディですがやはりレディに変わりはありませんからな」
「先生は余りデリカシーないですからね」
「まあ、涼だしな…」

仲間達も同感だった。
涼は鈍感で特撮馬鹿で乙女心はまず判らないだろ。

「仲直りして貰わないと困るでありますよ!戦いはまだ終わってないんでありますから!」
「大丈夫だよベルちゃん。姫様は賢い方ですから大丈夫ですよ!」
「涼は馬鹿だがな…」


うんうんその通りだ。それが一番心配だ。



城の客間のベッドに顔を埋めずっと泣いているアリシア。
涙を出し尽くしたのか涙袋が腫れて真っ赤になっている。

「何よ…涼のお馬鹿…おたんちん…大っ嫌い…」

アリシアはそう言うとまた泣き出す。

トントン

「アリシア?」

涼が扉越しに声を掛けてくる。

アリシアは涙を拭うと扉の前まで行くが中には入れようとはしない。

「何よ?」

アリシアはドア越しで答えた。

「その何だ、ガキ扱いして悪かったよ。」
「五月蝿いわね…どっか行きなさいよ…」
「なあ、機嫌なおして皆んなとパーティーに行こうぜ。な?」
「五月蝿いわよお馬鹿。顔も見たくないわ!どっかへ行って!!」

ドア越しに怒鳴りあげるアリシア。

「何だよ!ガキをガキ扱いして何が悪いんだよ大体?お前まだ子供だろ?」
「何もわかってないわよ!アンタはいつもそうじゃない!お馬鹿だしおたんちんだし乙女心を全く理解すらしない!最低のおたんちんよアンタは!!」

アリシアはそう言うと扉を開け怒鳴り。涼を突き飛ばした。

「俺が何したってんだよ!?お前はまだ子供で大人の俺が守ってやらなきゃって思ってたんだぞ!!」

「じゃあ何であの偽物に捕まった時私を無理やりでも連れて行こうとしなかったのよ!!」

「お前が意地はったからだろ!!」

「私はアンタに連れ出して欲しかったわよっ!!私がどんだけ怖い思いしたか。ジルド教の時もアンタはいつも遅くて…いつも…いつも…かっこよくて…私の王子様で…でも…アンタは私を子供としか見ないじゃない!!」

はあ?アリシアは何を訴えてんだよ!?
貶してんだか褒めてるんだか全く解らない。ていうかそれと子供扱いと何の関係があるんだよ??

「な、何だよ…ハッキリ言いたい事ありゃ言えばいいだろ!」
「ええ…行ってやるわよこのお馬鹿!鈍感!おたんちん!すけこまし!スケベ!」
「最後は断じて違う!」
「違わないわよ!私のスカートの中見たじゃない!」
「お前かそんな格好で蹴りいれたからだろ!」
「乙女の恥じらいを貞操を貶したクセに責任も取らないわけ!」

だから何を言ってるんだアリシアは!?

「つまり何だ!?」
「もう!察しなさいよ馬鹿っ!!私をお嫁に貰いなさいって言ってんのよっ!!」

アリシアは声を上げとんでもない事を口にした。

「え…?」

涼はフリーズした。

「お馬鹿…女の子から言わせるなんて!」
「ちょ、待て!冗談だよな?」
「冗談でこんな事言わないわよ!!」

アリシアは真っ赤になる。

「まさか大公にやたらとこだわった理由って言うのは…」
「そうよ!悪い?大公になればアンタは私の婚約者に決まる。だからよ!!」
「いや、あの…これまさか告白か?」
「まだ解らない?」

アリシアはすっごい怖い顔する。

「いや、わかったけど。俺は一回りも年上だぞ!」
「だから?」
「俺はガキとそんな関係は結べない!」
「まだ言うわけ!?14.5で結婚か婚約なんて当たり前じゃない!知らないわけ?」
「知らんわ!」

いつの時代だよ?全くこの異世界の結婚年齢基準が全くわからない。ずっとロリコンかと思っていたぞ俺は。

「アリシア。気持ちは嬉しいよ。でもな、俺はいつかこの世界を出て帰らないといけないんだ」
「好きな人いるわけ?」
「いや、夢があるんだ。俳優になるって夢が。それを叶えなきゃならないんだ」
「涼は本当に帰ってしまうの?」
「ああ。だから気持ちには答えられない…」

涼にとってはそれが今の精一杯の彼女に対しての答えである。一国のお姫様と売れない俳優がまず釣り合うわけない。
そんな事は涼もわかってる。未来ある女の子の将来を一回りも上の男が奪っていいわけはない。

「涼、貴方の世界は何歳なら結婚出来る訳?」
「え?まあ法律が変わらないなら確か女の子は16歳だったはずだけど…」
「つまり涼は私が子供だから結婚出来ないのね!」
「は?」
「いいわ!涼!」

アリシアは涼に指を指す。

「決めたわ!貴方の世界のルールに合わせてあげるわ!16歳になったら貴方は私と結婚するのよ!」
「はあ?だから言ったろ!気持ちには答えられないって!」
「そんなの権力でねじ伏せるわ!」
「ねじ伏せられないから!」
「とにかく、大公の地位を貴方に与えたからには貴方は私の婚約者なの!今はまだリトルレディだけど、必ず魔王を倒すまでに貴方から結婚しようと言わせてあげるわ!」

アリシア…なんかキャラ変わってないか??

「ううん。必ず好きって言わせるわ!」
「いや、だからな」
「話は終わりよ。皆んなに私達の婚約を伝えに行かなきゃ!」

アリシアはそう言うと部屋から出て行く。

あっけに取られた涼。

「女の子って訳分からん…」

て、行かせていいのか?
…いや良くない!!

「こらー!アリシア止めろ!!」
「バーカ!無理に決まってんでしょ!」
「アリシア~!!」
「あははは!」

アリシアは笑顔いっぱいで走ると急に振り返り、涼のほっぺにちゅーをした。

「な!?」
「絶対に好きって言わせるから覚悟しなさいよ!」
「大人をからかうな!」
「あははは!」

アリシアはスッキリした顔で祝賀会へ向かう。
こうしてリトルレディの人生最大の告白は強引に押し倒したとさ…いいのかこれ?
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