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第四章

□魔力吸収

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 対峙しているシュラとの呼吸を計り、彼の繰り出す蹴りを躱し、続けざまに来た拳を左手で押し上げるように軌道を変える。

 肌が触れた一瞬、彼からするりと魔力を抜き取る。

「くっ」

 素早く離れる彼を追って間合いを詰めて、拳を繰り出す。打撃が入った瞬間に、再度魔力を抜き取る。

 魔力吸収ドレインと彼が呼ぶその魔法は、確かに私と相性のいい魔法だった。

 相手に近づき、魔力を吸収する。コツさえ掴めば魔力を相手から抜き取るのはそう難しいことではなく、問題はどうやって相手との距離を詰めるかということだった。
 だから、魔力吸収のやり方を覚えてからは、戦闘中にいかにして魔力を奪うかという特訓を重ねている。

「バルザクト様ってば、天才ですかっ。普通、こんな簡単に覚えたりしませんからっ」

 呼吸を乱し、休憩を求める彼に頷き、構えていた拳をおろした。

「お前に言われたくないな。それに、そう難しくはなかったぞ」

 いつも飢えているからだろうか。触れて吸い上げる、その行為は思った以上に容易に習得できた。
 そして、魔力を吸い取ると、体が楽になる。今まで、体が重いと思ったことはなかったが、常以上に魔力に満たされ、体に力がみなぎり、いつになく体調がいい。

「あー、今日はもうギブです。さすがに魔力がヤバイです」

 ギブは、確か無理とかそんな意味だったか、そしてヤバイは、問題があるとか大変とかだったか? 彼の言葉は時々よくわからないが、地べたに座り込んだ彼の様子を見れば、なんとなく言わんとすることがわかる。

「すまない、取り過ぎてしまったか。返した方がいいな?」

 彼の側に膝をつき、手を取ろうとする私に、彼は慌てて首を横に振って手を引っ込めた。

「こんなとこで魔力渡しなんかされたら、俺、大惨事ですよっ」
「ま、魔力渡しではなく、シュラが魔力吸収しろと言っているんだ、馬鹿者」

 魔力渡しが、恋人同士のねやでの行為だと知っているんだぞ。顔を赤くしないように、敢えてつっけんどんに答え、右手を彼に差し出す。

「冗談ですってば。じゃぁ、すこしだけもらいます」

 触れられた右手からするりと魔力が抜かれる。魔力が抜かれると、体温がさがり指先が冷える。それを知っているのか、魔力を抜くのをやめた彼の手が、私の指先を包んで熱を分けてから離れた。

「ありがとうございました。俺、取り過ぎてないですか?」
「ああ、大丈夫だ。すこし、手を貸してくれるか? なんだか、もう少しでコツを掴めそうなんだ」
「コツ、ですか?」

 自分の両手を見ながら魔力の流れを感じ、その感覚を覚えているうちに手を彼の手に近づけた。ああ感じる、彼の中に流れる魔力を。

 目を閉じてその感覚に意識を集中させながら、ゆっくりと手を離していく。感覚が薄くなり、途切れるというところで手を止め、目を開けた。

 私の手と彼の手は、拳ひとつ分ほどの距離しか開いていなかった。

「バルザクト様? どうしたんですか?」
「シュラが言ったのではないか。上達すれば、多少離れていても魔力吸収できるようになると。すこし、もらうぞ」

 僅かに感じる彼の魔力を、強引に吸い上げる。僅かに魔力を得た感触に、すぐに魔力を止めた。
 感じた手応えに、改善の余地はあれども、もっと能力を伸ばせそうな予感に胸が震える。

「できぬことはないが、これは、かなり力業になってしまうな。魔力で無理矢理引き上げる感じになってしまうが、もっと楽にできる方法がありそうだ」
「――魔力操作がダントツ上手い設定だったけど、マジかぁ……ガチ、天才」

 後ろ手に地面に手をついて、独りごちて空を仰ぐ彼のおでこを叩く。

「だから、お前に言われたくないと言ってるだろう。お前こそ天才だ、こんな短期間にここまで成長するとは思わなかった」
「俺のは――チートみたいなモンだから……。本当の実力じゃないんです」

 チート、というのがなんなのかわからずに聞いた私に、彼は「ずるってことです」と、苦々しく笑って言った。
 そのつらそうな顔を、両手で挟んでこちらを向かせる。

「どこが狡なんだ、お前がどれだけ努力しているのか、私が知らないとでも思っているのか? シュラ、自分を信じろ。それができないなら――お前を信じる、私を信じろ」

 逃げていた黒い瞳が私の視線を捕らえ、ゆっくりと頷かれた。ああ、私の従騎士は本当に可愛い。
 髪をかき混ぜるように頭を撫でて、抱きしめたくなるのを堪え、立ち上がる。

「さて、もうそろそろ朝食の時間だ、早く行くぞ」
「はいっ」

 服についた汚れを魔法で落として歩き出した私に、立ち上がった彼が、一歩うしろをついてくる。


 そうだ、これが私たちの立ち位置で、距離なんだ。私は彼の前を行かねばならない、それが、私の立つべき位置だから。
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