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6.一心同体。

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襲い掛かる巨大な石像に対し逃げることしか出来ないでいる豊はリィナの手を離さずにいた。しかし今度はリィナはは立ち止まって動かずにいる。強く引っ張ろうとしても動かず、ただ轟音を立てて迫り来る石像に恐怖を覚えながら豊はこの状況にも関わらず何も言わないリィナに声を掛ける。

「どうしたの?早くしないと君も押しつぶされ」

「…お前は私を試さないのか?私を置いてこのまま逃げれば…私だけは助からないけどお前は助かる。」

「…な。なに言って?」

豊が戸惑いと迫り来る恐怖からか口を震わせつつも問い掛ける豊にリィナは続けて話していく。

「私は書物だし”反魂の書”。踏み潰されてもまた生き返る。…だから私を置いて」

「それは嫌だ!!」

石像が前へと躍り出る。そんな中でも豊は彼女の前へと立ちはだかった。恐怖や畏怖はかなりある。…だがそれでも豊は自身の正義を屈したくない、頑固な人間だったのである。

「…なんで?どうしてだ!??」

疑問を問い掛けて叫ぶリィナに豊は彼女に言い放つ。

「俺はたとえ死んでも君を守りたい!…初めて会った時から思ってた。」

「…?なにを?」

リィナが疑問を浮かべる表情を見せてから彼は振り向いて笑った。

「君は妹の…小夜に似てるから…かな?…たった1日だったけど、本当にありがとう。…じゃあね。」

石像は豊を踏み潰そうと足を上げて振り下ろした…その瞬間であった。

「…われ思う故に我にあり。かのものに力を宿し、そして…示せ。」

振り下ろされた巨大な足と共に豊は殺された。…だが事態は急変する。
なんと死んだはずの豊は突如として石像の背後に現れ、石像の頭に蹴りを入れていたのだ。身体が勝手に動き蹴りを入れてから初めて宙返りをして、そして着陸する豊は自分でも今の状況に驚きを抱いている。

「えっ…?俺…死んだはずじゃ…?」

自分の手のひらをしっかりと見て生きていることを確かめる豊に迫り来る動く巨大な石像。しかし死んだと思っていたはずの自分が生きていたことにしか注目していない彼に構わず石像は右手を彼に大きく振りかぶった。

『伏せろっ!!!』

すると豊は自分の意思とは反して身体を伏せてからローリングをして再び態勢を元に戻し、意識を保たせた。豊には何が起こったのか自分でも分からずにいる。

「!??なんだ?って!体が…勝手に?」

『そんなことより、私は焼かれたくない!お前の身体を動かせるから、私の指示に従え!』

「…はい?何言って」

『来るぞ!!!』

どこにも居ないリィナの姿が何故自分の脳内に語りかけているのか分からないが、石像は豊に拳を向けている。喧嘩でさえもしたことのない平和主義な豊ではあったが、仰け反って走ることは出来た。追いかけられる中で呑気にシャボン玉に浮かんで見つめているレジーナに助けを求めるものの彼女は一切助けようとしない。

「ちょっとレジーナ!俺!殺されそうなんだけど!?助けてよ!」

「…それは無理ね。でも、アドバイスはしてあげる。」

「なんで!って…アドバイス?」

「そう。アドバイスよ?」

するとレジーナを乗せたシャボン玉は移動して彼に何かを渡した。渡された物はマッチ棒であった。何がしたいのか分からないでいる豊に彼女はそっと教える。

「…石像の何かでそれを利用して?そしたら分かるから。」

「分かるって…?そんな…。」

「じゃあ。またね~。」

そして消えてしまうレジーナと代わって追いかけてくる石像に豊は走り続けるが今度はリィナの声が頭に響いてくる。彼女には考えがあるようだ。

「…志郎。それを何かで擦って。摩擦熱を利用するの。…それで当たると思うから。」

「???わかった…よ。」

何処か切なげな声をするリィナが気掛かりであるが、今は自分の命が大切だ。だから豊は立ち止まって石像に突進し、石像の身体の一部をマッチ棒で擦り付けた。微かな火から大きな炎へと変貌し、石像は呻き声を上げて倒れ…ついには書物へとなってしまった。すると今度は何が解き放たれたかのような軽い感覚がしたかと思えば、リィナが隣に居たのだ。驚く豊ではあったが彼に構わずリィナは書物、"巨壁の書"を拾い上げて火を払った。

「待ちなよ!君が火傷して!」

止める豊ではあるがリィナは大丈夫だと言って火を払い、書物を抱き締める。憂いを帯びたその顔は妹である小夜とよく似ていた。
そんなことを思いながら空間の書で出来上がった空間は消失し、図書館へと躍り出る。すると今度はルークとアスカが待ち構えていたのだ。笑みを浮かべながらルークは2人に拍手をする。

「いや~見事だったね~。おめでとう。これで君も焚書士だよ。」

「…はい?」

訳も分からない言った様子の豊に今度はアスカが捕捉するように説明をする。

「あなたはその書物を焼却…焼きましたね?それに仮契約もした。…困難だと、難解だと言われていた反魂の書であるリィナさんと。」

リィナを見つめるアスカに彼女はそっぽを向くものの豊は気付いていない。そんな彼は疑問を発する。

「…それだけで俺は焚書士になるんですか?…納得がいきませんよ。そんなんじゃ。」

「納得が言ってもらわないと困るんだよね~?…だって僕たちの敵である"枢要すうようの罪"が狙っているのは…その子、リィナなんだから。」

「!??リィナ…が?なんで!?」

するとルークは真剣な顔をして言った。

「それはリィナが永遠を具現化してるから。いや、この子自身が枢要の罪によっては必要不可欠だから。…枢要って難しい言い方だけど、必要とかかなめって意味なんだよ。…まあ、あんまり使わない言葉だけどね~?」

そんな言葉を紡ぎながら豊に説明をしていくルークは彼にずるい言い方をしたのだ。

「そんで?キザな志郎君?…君はその傷だらけの女の子残して?しかも、仮契約までしておいて壺中の天に帰るつもり?それは君にとってのポリシーに反すると思うんだけど?」

「……それは。」

「まぁ仮契約だから契約コントラクトじゃないからね~?そしたらまたこの子を焼いて、記憶だけ消せば良いし?」

冷酷に笑うルークに怯えるリィナを見てしまった気取り屋で曲がったことが嫌いな豊は決めてしまった。…いや、宣言してしまったのだ。

「ああ!もう!分かりましたよ!…やりますよ焚書士!…出来るか分からないですけど。」

豊の人生を狂わせる宣言に対してもルークは軽く笑うのであった。
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