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23.壊してあげよう。

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辺り一面が眩い光に包まれ豊は1人、データフォースを構えつつ息を切らす。息を切らしていたのは、リィナの力だけでは不安定な為、豊も意思疎通リンクをさせた状態で意識を集中していたからもあるが、それ以上に彼の両腕両手、そして訓練による疲労によるものもあるだろう。そんな中で豊はデータフォースになっているリィナとリンクして会話をする。

『一応…これで、ライグンは倒せたの…かな?それに警報も鳴っているし、たとえ倒せられなくても、嫌だけど。ルークさんに来てもらうのを願うしか…ないよね?』

息切れしながらリィナと対話をする彼に彼女は”心配”という情報データに駆られつつも質問に答える。

『あんな攻撃で、初心者にられるほど、枢要の罪は甘くはない。とりあえず今は逃げて助けを呼ぶんだ。…走れるか?』

『あはっ。リィナに心配されるくらい、俺、結構、酷い状態なんだ~。…声に出せないくらいだもんね。…うん。平気。明日はぶっ倒れるの承知で、全力で走るから。…だから、応援してて?』

『…死んでも助けないからな。』

『はいはい。』

つっけんどんな態度ではあるものの、ツンデレなリィナとの対話を微笑ましく思いつつ、豊は息を整えてからゆっくりと、徐々にスピードを上げて走り出す。警報アラートは鳴りっぱなしだからじきに助けは来るであろう。そんなことを思って、希望を持って走りだしていたからなのか…現実は残酷であるというのにも気が付けずにいる自分が居た。なぜならば、走るたびに身体が次第に重くなり、ついには速度を落として立ち止まってしまうのだ。

…どうなってる?…リィナは、データフォースはまったく重くないのに?…なんで、身体…が?重くて、動けないんだ?

「どう?身体がジリジリと重くなって、動かなくなる恐怖は?…結構、僕的には好きなやり方なんだけどね~?…君が苦しんでる顔を見るのをこうやって見るのも、悪くはないね。」

「…!??ライ…グン???なんで?攻撃は…直撃したはずなの…に?」

いつの間にか目の前に居たライグンは苦しむ豊の姿を見ては愉快に笑っていた。恐ろしいほどの楽しげに侮蔑すように、見下す彼は傷も何も無い。むしろ先ほどよりもかなり元気になっていた。

…なんでこいつ、傷一つ付いてないんだよ???怪我もしていないし。…攻撃は、本当に、当たっていたの…か?

声を出せぬほど身体が重くなりデータフォースを支えにして立ち上がろうとする豊の姿にライグンはケラケラと声に出して笑いながら罵る。

「君がリィナをおかしくさせた罰だよ!…あっはは!おもしろ~い!…君みたいな新米焚書士風情ふぜいに?書物の国宝級で、最強の存在である枢要の罪に勝てると本気で思ってたの?マジウケる~!」

「…っ。うっ…せぇ。」

「ははっ!声も出ないくらい辛いんだ~。そりゃあそうか~!…だって僕の、”暴食”の能力を使ったんだもん。当たり前だよね~!あ~!!!やっぱり、だいっきらいな相手をいたぶるのは最高に愉快だよ~!!!」

そんな言葉を言いながらライグンはひとしきり大笑いをする。男の見た目の癖に妙に甲高い声は今の豊にとっては雑音なんかじゃ収まらない。…騒音に近いのである。なぜこんなにも身体の体力が奪われていくような感覚がするのだと疑問に思えば、データフォースから人間の姿になったリィナが顕現する。するとライグンは先ほどの豊に対する侮蔑などととは打って変わりとてつもない明るい笑みを見せたのだ。

「やぁ!リィナ!…君の書物の姿は見たことがないけれど…さっき、こいつが使ってた槍よりも素敵な姿なんだろね~!…僕はそっちの君の方が好きだけど!」

爛々と目を輝かせているライグンにリィナは弱っている豊を一瞥してから彼とリンクさせる。

『志郎。私は時間稼ぎをする。そしてなんでお前だけが苦しんでるのかを聞き出すから…それまでは絶対に喋るな。良いな?』

伝えたものの豊は応答が出来ずに意識を手放してしまった。豊とのリンクが切れたことにリィナは驚き不安を抱くものの、彼女は自分の果たすべき任務を遂行する。

「そんなことはどうだっていい。…なんで私が動けていて、相棒パートナーは、志郎がこんなに衰弱している?…聞かせてくれ。」

「え~!!?…本当はゆっくり話したいけど~?…でも、そしたら他の焚書士が来ちゃうもんね~?…だったら条件!君にだけは僕の本当の力を教えてあげるよ?…その代わり。」

「…その代わり?」

するとライグンは意識を失っている豊を何度も踏みつけたのだ。まるで憎悪を抱いているような、そんな感情を持ち合わせているようにリィナは自身の知識で肌身感じ、恐れを抱く。リィナが怖がっているような顔をしていたからなのだろう。ライグンは一通り踏みつけてから、再び笑みを見せて交換条件を述べた。

こいつとの契約コントラクトを破棄することを約束して、果たしてくれたら…教えてあげる。…っね?いいでしょ~?これでリィナは救われる!…僕とリィナはず~っと一緒!だよ?」

残酷な微笑みと残忍な要求にリィナは声が出なかった。


”憂鬱”の罪ことチオロサアドと出くわしたアスカを含めた焚書士達は彼を焼き払い、書物に戻す為に戦闘態勢に入る。そんな彼らを一通り見てから溜息を吐いたチオロサアドこと、アドはポツリと呟くのだ。

「俺はただの時間稼ぎだしな~?それに、枢要の罪にこんな4、5人しかいない焚書士に焼かれるほど…俺は堕ちたもんじゃん無いんだけど?」

アドの軽い挑発に1人の男性焚書士が書物を使用して能力を発動しようとする。しかしその行為が仇となった。分かり切っていたアドは軽く飛来をしてから焚書士にドロップキックをお見舞いする。崩れ落ちる男性焚書士にアスカ以外の焚書士が立ち向かうものの…能力を発動したとしてもアドの身軽で強烈な足技に焚書士達は殲滅せんめつしてしまうのだ。しかしそんな中で、サラを小型銃に変えていたアスカはアドに狙いを定めて撃ち込んでいくのだが、ひらりと宙に舞ってはひるがえされてしまい、何度射撃を試みるも当たることはない。
苦戦を強いられるアスカではあるがそんな彼女の姿を見てアドはふと思う。

…あともう少し。…これが決まれば、呪術が使える。

そんな彼の企みにアスカは気が付かずに戦闘をおこなっていた。
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