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49.革命の終焉と始動。

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 それは大いなる”革命”という序章に過ぎませんでした。叶わぬ夢ともくされていたはずの”書物”と”人間”が手を取って歩む為に奔走した、青年の物語だったのです。

「これにて、”意志”または”心”を宿したが故に騒動を起こした”書物”に対して、そして彼らを利用しようと目論む人間に対しての処罰に関して新たな政策をここに記します。…焚書士兼司書官、ジェシー・クラウス」

 ―――パチパチパチッ!!!

 ルークの名を捨て本名に戻したジェシーに多くの”書物”と”人間”が拍手を送る。皆の歓声に深く礼をし、舞台袖から離れれば…彼の相棒パートナーであるレジーナ”拘泥”の書と…彼とよく似た男性がにこやかに手を振っては駆け寄って優しく頭を撫でる。…もうその両腕は冷たい骨では無く、温かさが宿った透き通った手だった。

「頑張りましたね~ジェシー。相変わらず良い子ですね~」

 褒められて嬉しい反面、その姿をレジーナに見られて少々羞恥を覚えたジェシーは彼に苦言を呈す。

「…やめて下さいよ、せんせい…じゃなくて、さん。…子供じゃないんだから」

 ディルこと枢要の罪で”強欲”の罪のアリディルはそれでも彼の頭を撫でている。封印されたはずの彼が復活をしたのはなぜか? 答えは明白である。
 ―新たな”指数”が生まれたからだ。…枢要の罪や他の”書物”へ温かい”心”と”意志”を宿らせて。その”指数”は今はどこへやら。
 そんなお構いなしでディルは目を細めて笑った。

「僕にとってあなたは子供のような存在ですよ。ちゃんとレジーナさん達として頑張りますから…ね?」

「それとこれとは関係が無いような気が―」

「まぁまぁ。あんな大きな舞台で疲れたでしょう。…今は甘えても良いんですから」

「…調子が良いんだから」

 だが、どこかしら嬉しそうな表情を見せているルークことジェシーに、レジーナは微笑んでは胸にそっと手を当てた。
 ―とても温かく、優しくなれたような。でも、どこか”嫉妬”という名の燃え上がるようなモノを感じるのは…どうしてだろう?
 
 …これが”心”。まったく、も変なことを”書物”に入れたのね?

 でも嫌な気分では無いのはどうしてなのかは今のレジーナには分からない。


「あ~…山のように書類がある…。はぁ…”憂鬱”。今日中に片付けられんのかよ~?」

 浴衣の青年が積んである書類にサインをして印鑑を押していけば、白髪で2つに結った少女が”鏡”を通してある人物達へ届けては通信をする。…それは因縁の相手だった1人に。
 
『アドさん、ちゃ~んとやって下さいね! 今、”書物”の暴走騒ぎで人手不足なんですから。…マリーちゃんは偉いですね~。アドさんみたいに暗くなっちゃダメですよ~?』

「うん。ありがと、アスカ」

 ピンクローズの長い髪色をした女性…アスカがマリーだけを褒めていれば、アドは嫌味を言い放った。

「…アスカさんは良いだろ。”書物”のカッコイイさんが居てよ~?」

「なっ!??」

 顔を赤らめるアスカにアドは言葉を重ねる。

「…まっ、今はあのムカつく”傲慢”の罪と、ライと一緒に暴れている”書物”とかの対応に追われてるだろうけど~。良いよな~、”憂鬱”じゃねぇ奴はさ~」

 あからさまなイジリにアスカは顔を真っ赤にしてから冷たい声で応対したのだ。

『アドさんも人を馬鹿に出来るぐらい元気なら…追加で仕事を増やせますね』

「えっ」

『マリーちゃん、これも追加でアドさんに渡してくださいね~。では!』

 すると通信が切れては鏡の中から大量に書類が舞い込んだ。…書類に埋もれるアドにマリーは目を通してから、彼の頭を優しく撫でるのであった。


 …黒髪の青年は大きく伸びをしてから武器であるを元の姿に戻した。今日の仕事が終わったわけでは無いが一休みだ。…それは彼女だって同じである。

「あ~…疲れた~。眠い……」

 人間の姿に戻った少女…リィナも同じく伸びをしてから、大きな欠伸をする。やはり”指数”でもあるから体力も通常より奪われるらしい。だがそれでも1人と1冊は”正義”を貫く為に前線へ入るのもしばしばであった。

「リィナお疲れ~。眠いなら”書物”に戻れば? そうしたら良く眠れるし!」

 だが彼女…リィナ”反魂”の書に大きく変わったことがある。それは、以前は痛くて辛くて堪らなかった傷の痛みが無くなったのだ。…しかし、代わりに。

「…っは。甘いな志郎。…私が”書物”に戻っている時だけと闘わざるを得ないんだろ?」

 すると豊の背中が魚のように跳ね上がった。…どうやら図星のようである。

「え……知ってたんだ」

契約コントラクトしていれば分かるもんだ。ふぁ~…だから、私はこの姿でいる。…これでお前の気が紛れるのなら、それで構わないからな」

 そう。リィナの背中の傷は豊へと移ったのだ。
 ―あの時、あの瞬間。リィナが魂解放の情報ソウルリベレーションデータによって放たれた術は、書物に”心”と”意志”を宿らせ、枢要の罪でさえも復活させることも出来たのだが…力が暴走してリィナ自身を苦しめたのだ。
 そして代償として、本来であれば元の世界へ戻るはずだった豊が、リィナの背中の傷を背負って保たせたのである。
 ―つまり、”指数”がという結果になったのだ。そして1人と1冊のおかげで書物は”意志”を持つことができ、人間に近い感覚を得たのだ。そのおかげで困難や難題は続出してしまったが…誰も彼らを責めることは無かった。…なぜなら、彼らは”書物”へ思いやりという優しい”心”も宿らせたのだから。

「なぁ志郎、聞いて良いか?」

「なに、改まって。俺は自分の世界には戻りたいけど、この世界が平和になるまでは戻るつもりは無いからね?」

「…本当に馬鹿だな。志郎は」

「もう~少しは褒めてよ~。そんでなに? 聞きたいことって」

 するとリィナは深く息を吐いてから、今まで聞きたかったが聞けずにいた質問をする。…それは今、”心”と”意志”が備わっているからこそ、理解が出来るのかと思ったから。

「…なんでお前は、いつも私を想ってくれたんだ。庇ってくれたんだ。…どうして私を”書物”として見ず…”人間”のように見てくれたんだ?」

「え~…まぁ、そうだな~…」

 少し唸ってから思いついたように豊は軽く笑った。

「リィナに…したからかな?」

「…はぁ?」

 あからさまに気味が悪そうな、理解が出来ないというような彼女の表情。そんな彼女に豊は少々残念がってから、気取ったように言い放つ。

「なにその反応~! 結構ロマンチックでしょ?」

 開いた口が塞がらない。そんな想いの為に今まで死ぬかもしれないという思いでやってきたのだと考えると…やはりだが。

「志郎って本当にアホだな」

「なっ!??」

「まぁ良い。私は寝るからな…すぅ…すぅ……」

 豊を侮蔑してから傍らで眠る少女のリィナ。そんな彼女の手を豊はそっと握る。…その手は温かい。”書物”だった頃とは雲泥の差だ。健やかに眠る彼女を傍目に彼は思う。

 …たとえおかしくても、それが俺の原動力だったんだよ。この世界で生きていく為の。…ねぇリィナ?

「リィナは小夜と同じで、”アスター”っていう花は好きかな。…”変化”を意味していて、君と瞳と同じ紫色の花で…その綺麗な瞳に…俺は惚れた―」

 ―なんて言ったら、また馬鹿にされちゃうかな?

「はぁ~…まぁ頑張るか! 俺の正義を貫くために…さ」

 そして彼は揺らいでいた正義に信念という意地を燃やす。その想いが叶うまで青年は戦い続けるつもりだ。
 ―だってそれが彼の正義の”革命”なのだから。

 ~FIN~
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