魔王はマリオネットを奪う。

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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第8話 トランスシス兄妹【1】

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 …なんだろう。身体が軽い気がする。どうしてなんだろう? 
 ―そうだ…、ハイドだ!
「は…いど…、ハイ…ド…、ハイド! …ハイドは!??」
 目を覚ました2体ではあるが先に動き出したのは少女のランジアである。彼女は飛び起きては、隣に居る青年のハイドを揺すり起こした。すると彼は水色の瞳を瞬いては記憶という名の”記録”を辿るのだが…彼は戦闘中の記録がまだ復活していないようだ。そんな彼にランジアは声を掛け続ける。
「ハイド…大丈夫? 怪我無い?」
「ら…んじ…ア、ランジア…か?」
「良かった…ちゃんと動ける?」
 すると彼は起き上がっては自分の服装や冷たい手を見つめる。別にどこも異常は無く、逆に危険な森に潜入した…という記録は残ってはいるのだが、その割には新品同様の感覚を得た。
 …誰かに修理メンテナンスをされたのか?
 その考えに至るのだが…その割には同じく人造人間サイボーグである妹のランジアはひどく心配をするのだ。
 ―ランジアも新品同様に見えた気がしたのに。だからハイドは記録を修復させる為に泣き出しそうな妹に説明を求めた。
「ランジア、俺達は修理メンテナンスをされただけなのに、どうしてそんなに心配をするんだ?」
「…覚えてないの?」
「覚えるもなにもって…ここはどこだ?」
 ハイドの言葉にランジアも呼応するように視界を巡らせると…そこには生みの親が自分達に命じた難問中の最難関とされていた人との対面であった。
「えっと…あなた達が、アークがここまで来させた子達…かしら?」
 見目麗しい女性のルルが自分の背後に慌てて隠れている…が細身の彼女が隠せるほどの巨体を隠せるはずなどないのに隠れるソエゴンを誤魔化す為、彼らに声を掛ける。…自分が怖がられないかという緊張が伝わるソエゴンの可愛さにルルは呆れと微笑を浮かべた。
 …ソエゴンも魔術で自分を隠せばいいのに。こういう所は魔王らしくないのよね。おかしい~。
「お…お嬢様、お嬢様? どうして笑って下さって―」
「あぁ、気にしないで。あなた達を助けた人がおかしくて…ふふっ!」
 そしてケラケラと笑う彼女の…ルルの姿にハイドは顔を紅潮させ見惚れてしまったようだ。
 …う、美しい。こんなに麗しくて上品で…しかもその微笑みはまるで聖女のように可憐で…こんなに見目麗しい女性だったのか…。
 ―――ガツンッ!
「いっだぁっ!??」
 急所である左胸を肘で強く突かれたので視線を向けると、ランジアがとんでもないほど冷酷な視線が自身に向けられていたのだ。
 ―その射抜くような、背筋を凍らせるような視線で記録が蘇る。
 …そうだ。俺は魔王ソエゴンに倒されて…じゃあ魔王はどこに…。いや、その前にお嬢様を安全な場所へ…の前に。
 するとハイドの動きは速かった。ルルに見惚れていている妹などおいて、恭しく立膝を立ててはルルの手を取り軽く自己紹介をするのだ。
「お嬢様、俺…じゃなくてわたくし達はアーク様に造られた人造人間サイボーグの、ハイドと申します」
 整った顔立ちではあるが、久しぶりに受けたキザッたらしい挨拶をされルルは背筋を凍らせた。そして彼女の背後に隠れているソエゴンは少し羨ましそうに見つめている。
 …いいな~、僕もあんなイケメンだったら…。
 そんな2人など気にせずにハイドはイケメンオーラ剥き出しで今度は隣に居るふて腐れた少女を紹介する。
「そしてこの幼い彼女はお嬢様を模倣してアーク様が造った…わたくしの妹、ランジアと申します。…ほらランジア、ご挨拶を」
「…コンニチハ、おじょーさま」
 明らかにルルに対して嫉妬心を抱いているランジアにハイドは無礼になっている妹を叱りつけた。
「こらランジア、お嬢様に対してどういう口の利き方を聞いているんだ!」
「うるさいな~。ハイドが気持ち悪いぐらいヘラヘラしているからでしょ~?」
 ふて腐れた様子のランジアにハイドはさらに叱りつける。
「そんな汚い言葉を使うんじゃない! アーク様がお前を模倣して造ったのがこの上品で美しい女性のルルシエ・ヴァイスバードお嬢様で―」
「だっておじょーさまがなんて飼うわけないよ。…ハイドの目がおかしいんだよ」
「なんだと…!? ランジア、お前はまたなにを言って…え、?」
「居るじゃん。おじょーさまの後ろに大きいクマが」
 ―ランジアの発言に一瞬、時が止まったかのように思えた。
「く……クマっ!??」
 ハイドは顔を青ざめてルルの手を振りほどき、それに満足をしたランジアはにやりと笑っていた。すると2体のそれぞれの反応を見たルルはおかしそうにケラケラと笑い出したのだ。
「あっははははっっ~…おもしろ~いわ!!! ふふっ!!!」
 先ほどの上品な笑い方をしないルルにハイドは呆気に取られるが、背後に隠れていたクマの正体が判明したのである。
「ふふっ。ほら出てきなさいよ、クマさんじゃなくて…?」
「ソエゴン…って」
「もしかして…」
 さらに顔を青ざめたハイドと彼よりも青ざめたランジアがルルの背後を見ると…そこには人を食べてしまいそうな魔王ソエゴンがそこに居たのだ。
 ―”恐怖”という感情を持ち合わせている彼らがなにをしたのか。…それは単純明快である。
「「ギャァァァーーーーーーーーーー!???」」
 ルルから即座に離れる2体にソエゴンは肩を落とし、ルルは楽しそうに微笑んだ。
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