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棘先の炎

閑話休題 レイトとレイラ

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車のワゴンが孤児院に停まる。すると麗斗は笑みを浮かべてから車内へと入り込んだ。そして乗り込んだ後、彼は自分の主人に連絡する。
「申し訳ないです。今回はやられました…。…はい。でも、院長の帷は俺の手で下したので、あの薔薇姫の思い通りにはならないかと。ーあとは細工をしておいたので。…それでは。」
着信を切り窓を見つめる麗斗。彼は孤児院にとある仕掛けをしておいた。…それは時限式爆弾。あと10分もすれば孤児院諸共火の海であろう。
(それまでに麗良は逃げ切れるかって感じだけどね…。)
体格や身長は違うが自分と瓜二つの妹であるクイラ…いや、麗良の事を思いながら車の窓を覗く。すると、緑頭の青年が慌ただしく指揮を取る姿が見えた。恐らく爆弾に気が付いたのであろう。子供達を優先的に避難させている姿を自分が昔、麗良の事を思って庇っていた自分の姿と重なった。舌打ちをする麗斗ではあったものの運転席にいる部下に車を走らせるように命じた。

主人…いや、首領の所へいけば嫌味の一つや二つは言われるはずだ。そんな予感がして麗斗は溜息を吐く。ーだが、それだけでは無かった。
(あの場所で麗良には会いたくなかったな…。ー俺を地獄へ堕とした実の妹…。俺の両親と同じくらい許せないはずなのに…。それでも俺を救おうとしてくれている。…助けようとしている。)
冷酷な麗斗の心を動かしたのは先程の麗良の真剣な言葉であった。
『私は!…私は兄さんを諦めない!!!…絶対に元の優しい兄さんに戻させる!!!…だから、私にそんな冷たい殺意で見ないでよ…。』
泣きそうな表情を見せた麗良は、まるで自分が親のせいで売り飛ばされた時の顔と同じであったから。…本当は麗良が売られるはずであったのにもかかわらず。両親は女で端正な顔立ちをしている幼い麗良を組に売ろうとしてしていたのだから。…それを止めたのは自分自身であった。
(あれから5年…。俺と瓜二つの顔しているけどさ。ーやっぱり人形みたいな綺麗な顔立ちしてたな~。)
あんなに心も汚い父母から、どうやって自分達のような人形みたいな顔をして産まれさせたのかは知らない。…恐らくは実の父母では無い可能性の方が高いが、それでも自分達はあの父母の元で育った。…あの卑しい人間達に。後部座席の背中に身体を預け、麗斗はふと思う。自分と瓜二つの、鏡のように似ている麗良に。…だが自分の姿は真っ赤に染まった猟犬であった。だから麗斗は会いたくなかったのだ。己の汚く愚かな心を自分の妹に見せたくなかったのだから。深く息をしてから麗斗は考える。
(俺を突き落とした妹が俺を助けるね…。そんなの矛盾してるじゃん?…何考えてんの?あいつ。)
そして麗斗は乾いた笑いをしていると、サイレンを鳴らした消防車とパトカーがワゴンの隣を走り抜ける。その様子を見て麗斗は呟くのだ。
「俺に会いたかったら生きていろ。…そんで今度はお前を地獄に堕としてやるよ。」
実の妹に向けた狂愛に満ち足りた言葉を麗斗は紡いだ。
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