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棘先の炎

自身の誓いを茨に誓う 5話

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一寝入りした後、フライは起き上がりクイラと共に帰宅しようとしていた時…一緒に支度をしていたバードに訪れる者が居た。その者は、部屋中に充満する匂いに顔を歪ませた後、すぐさま保健室の窓を開け放った。
「まーた吸ってるんですか?…あと、新しい仲間が居る前でも吸わないでくれます?…受動喫煙させて肺を真っ黒にさせたらバードさんのせいなんですからね。」
幹部の1人である栗鼠 瑠香(くりす るか)こと、コードネームであるマウスはバードに注意喚起をする。そんな彼女の様子にバードは通常運行だ。
「だからね~?…これはニコチンとか入ってないからね?ーいつも言ってるけど、これ、人体に害とか無いからね?」
「本当にそんな確証あります?…取り敢えず、一旦、バードさんの肺を調べないと…。ー肺がん検診の予約しておきますから。」
マウスなりのバードの心配をしている姿を見てフライは微笑み、クイラはマウスの心を読み取る。…嫌味は言っているものの、バードに対して尊敬の念のようなものを感じた。
突然現れた自分を見つめる2人に向き直り、マウスは小柄ながらも冷静に名乗る。
「フライさんはたまにご挨拶しますね?…そして、クイラさん。あなたも裁判でお会いしましたよね…?ー改めまして。マウスこと栗鼠 瑠香と言います。幹部ですがあなた達よりも年下ですから軽い感じで大丈夫ですよ?以後、お見知り置きを。」
そして深々と2人に礼をした。軽い感じとは言っておきながら堅苦しいマウスに2人は苦笑を浮かべる。そんな2人の心中を知らずにバードに向き直り、彼にとある資料を渡す。…それは、望月組と院長の帷の手下が吐いた情報と…ノイズの隠された秘密であった。文字の羅列を読み込みながらバードは深く考える。
「ふーん?まあ、ノイズ君は俺の処置に任せるとして…。ー手下達はどうなったのよ?」
バードの問い掛けにマウスは冷静に言い放つ。
「薔薇姫様の命令により、バードさんが過去に作った、あの薬品を使って警察に差し出したらしいですよ?…あの女もいやらしいったらありゃしない。」
手下の情報を掴んだはずではあるが、シープのやり口にマウスは吐き捨てる。そんな2人の様子にフライは問い掛ける。
「えっと…。その…?ノイズ君や他の人達は…どうなったんですか?」
フライの疑問にバードとマウスは目を合わせた後に…何故か笑う。その意味が分かっていないフライと、2人の心を読んだクイラ。読心術を持つクイラを表情を見てみると…彼女は青ざめている様子である為、フライは彼女に尋ねる事をやめる。そんな2人の様子にバードは微笑んだ。
「まあ、ノイズ君の事はまた今度話すから!…それより!早く帰んな。…俺とマウスちゃんも話終わったら帰るし!」
ぎこちなく笑うバードに溜息を吐くマウスの差に驚きつつもフライとクイラは帰る事にした。

帰り道。何かを考え込んでいるフライにクイラは彼の考えを言い当てる。
「…そんなに記憶が欲しいの?…自分の無くした記憶。」
彼女に言い当てられ驚きつつ、少し顔を背けたフライにクイラは笑う。
「私だって読みたくて読んでる訳じゃ無いっての。…まあ、読んじゃった代わりに、君の探している記憶についてのきっかけのヒントを教えてあげるよ?」
彼女の言葉にフライは立ち止まる。
「それ…?本当?それで分かるの?」
失われた記憶を取り戻そうとするフライの様子にクイラは、スネークからの言いつけを守りつつこのような返答をした。
「君の記憶に関係があるのは…。ー君のお姉さんだね。お姉さんについて何か分かる事ってある?」
クイラの疑問にフライは暗い表情を見せて言い放った。
「…姉さんは。…姉さんは、4年前の事故で、今は植物状態なんだ。…一度も目覚めてなくて。」
みるみると暗い顔をするフライに、クイラは手を取りそして笑った。
「じゃあさ!今度。私をお姉さんの元へ行かせてくれよ?…もしかしたら、私の力が使えるかもしれない。」
少し自信ありげな表情を見せて笑うクイラにフライはぎこちなく笑う。
「…ありがとう。」
そして2人は帰路へ着いた。
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