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狼と赤ずきん。

【閑話休題】不幸ヤンキー、”変態狼”を侮蔑する。《前編》

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 幸が悶絶した様子で俺を見つめている。
 …あぁ。やっぱり健気で、可愛くて、無垢で。…ちょっといじめてるだけなのに、そんな泣き出しそうな顔されたら…俺の息子も元気になっちゃうじゃん? 
 ―幸だけだよ。…こうして俺をよろこばせてくれるのは。
 そんな幸は泣き出しそうな表情を見せてから拙い言葉を発して俺の口に出したんだ。
 …やっぱりおしっこは飲むもんじゃないね。精液よりもしょっぱくて、えぐい味をしてて…まずいから。…でもこんなはずかしめを受ければ、もっと俺に尽くしてくれるよね。
 ―俺なんか幸の隠し撮り写真を見ないと抜けないカラダになっているんだから。…幸も同じ目に遭わせてもイイよね?
『…っ。はぁっ…はぁ…はぁ……』
 あれ、幸の身体が魚みたいにピクピクしてる。…ちょっとまずいことしたか…な? まぁこれにりて、そこまでエロくは無いけど女の子の写真も削除するだろう。
 ―とりあえずは、能力は解除しておくか!
 ―――トントントン…。
 立ち上がって3回足で床を叩いて能力を解除する。…でもその後の幸の顔は、とてつもないほどの怒りと悲しみに彩られた表情を見せていた。
「えっ…さち?」
 それに驚いて、だから俺はちゃんと謝ろうかと思ったんだけど…。
 ――――パァッッッン!!! ドゴッンンッ!!!
「ぐぇっ!??」
 ―――ガァァンン…!!!
 壁に激突するぐらいとんでもない強烈なビンタをされてしまった。もしかしたら俺の頬に跡が残るくらいの強さで。でもそんな俺に幸は泣き出しそうな表情をしてから、俺に言い放ったんだ。
『…哉太さんなんか、だいっきらい。…もう、こんなの嫌だから』
 薄れゆく意識の中で告げられた衝撃的な言葉に俺は自分がしでかしてしまったことさえもいる時間を与えてくれずに、数十分は気絶していた。あとで鏡を見たら、たんこぶは出来てるし、左頬に大きな赤い跡が出来ていてひりつかせていたんだ。

 哉太の回想に聞いていた2人はそれぞれの反応を見せていた。片方は額に手を当て深い息を吐き、もう片方はげらげらと笑っていたのだ。
「それはあなたが確実に悪いです。…怒りを通り越して呆れましたよ。僕は」
「はっはっはっ~! ド変態だな~、場磁石は~!!!」
 哉太の行動に麗永は呆れ果て、撫子は大いに笑っていた。だがこれで幸が出てこない理由も、心に話さなかったわけも分かる。…小学5年生相手にこんなみだらでドすけべな話をしたら、どちらも何も言えずに黙り込むに決まっている。それに当たり前だが羞恥しゅうちも伴うはずだ。
 だが哉太も子供っぽい理由とはいえ、独占欲がかなりあるというのも分かった。哉太がこんなにも人に対して執着をするのは初めてではないかと麗永はふと思うのだが…それよりもだ。このバカ狼が作ってしまった喧嘩をどうにかしたいというのは、面倒だからなのか、それとも友人として2人が仲直りして欲しいのかと問われれば、どちらでもあるだろうと麗永は勝手に解釈をする。そんな彼に哉太は不器用に貼られている湿布を触りながらも悲しげな顔をしていた。
「俺だって花ちゃんを傷付けるつもりは無かったよ。…でも、ただ、ムカついた…というか」
 そう言って情けない声を上げている。
「…あ~あ。どうしよう」
 肩を落としてしょぼくれている哉太に麗永はどうしたものかと考える。だが思いつかない。…なぜならば「自業自得だから」という言葉がふさわしいから。でもそれでも…和解はさせてあげたい。
 沈黙が支配する室内にて今度は撫子が笑いながら哉太に肩を叩いた。強い威力で叩かれたので文句を言おうとする哉太に撫子はにんまりと笑ってから助言する。
「こういう時は少し時間を待ってから、正直に話すべきだな! …まぁ、お前のその変態ぶりには引かれるだろうがな!!!」
 そして大げさに笑うがもっともなことを言い放つ撫子に哉太は大きく息を吐いた。
「…うるさい。撫子のくせに、もっともなこと言うなよ…。…でもそうだね。今回は撫子の意見を―」
 頼りに…と言いかければノックの音がした。心かと思って麗永が出てみると…なんということか。
「…花ちゃん? …なん…で?」
 寝間着を着ている幸が3人分の茶をお盆に乗せて持って来たのだ。
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