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隠し部屋での出来事

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とても薄暗い場所。そこは隠し部屋のことでした。
そこにはわたくしと仲睦まじい男女がいました。
テーブルが真ん中にありわたくし達は向き合っています。

「君とは…もう婚約破棄をする」
「え?なんでですの?」
わたくしは密かにうろたえます。
先ほどまでわたくしの顔を仰いでいた扇子も落としてしまいました。
貴族としてはしなくてはいけない動作。そう言われて育ったわたくしがそれを破ってしまったのです。
とてもショックでした。
「何を言っている!このユルリッタ嬢を傷付けたのは其方ではないか!」
「わたくしは何もしておりません。何をおっしゃっているのかわかりませんわ」
レディオス様は感情の思いのままわたくしの頬を叩きます。
頬がとても痺れとても熱いです。
…なぜ…レディオス様はこんなに変わっておっしゃられるとは…
わたくしはレディオス様のことをお慕いしておりました。
優しい目にそしてとても漆黒の色のふわふわな髪。それが揺れるたび貴族であることの意味がわかったのです。
しかも私から求婚してやっと婚約ができました。
ですが…貴族のあり方をよく知っていないレディオス様は私への扱い方も雑でした。
わたくしはそれをよく貴族として、と、叱っていましたが、わたくしへの好感度は下がるばかり。
婚約なんてもう無理だろうと、思っていましたが案の定婚約破棄はされるようです。
確かに苦しい、悲しいというのはありますが顔に決して出してはいけません。貴族はしてはいけないのです。
ですが安心というのもありました。
わたくしと婚約するよりもユルリッタ様の方が穏やかですしお優しいですし婚約相手に最も相応しいでしょう。
ちらりとユルリッタ様を見るとニヤリと悪意丸出しな目でこちらを見ます。
わたくしはスッと目を伏せました。
…まぁ…お優しい訳ではなさそうですけど…。
「レディオス様!アンノージュ様は何もしていないですー」
「ユルリッタは優しいな。こんな悪女にも優しく接するとは」
そしてユルリッタ様はわたくしを軽蔑するように見ます。
「まぁ!お可哀想に…。こんな顔をして…」
わたくしに近づいてわたくしの頬をスッと撫でます。
…あまり貴族らしい振る舞いではないけれどまぁいいわ。
「わかりました。婚約破棄、しましょう」
「おや?あまり動揺しないのかい?悪女ならここで泣き叫ぶはずなのだが…」
わたくしを見ながらニヤリと笑います。
はっきり言ってこの二人やばいです。
「あら。わたくしは悪女ではありませんわ。ユルリッタ様を虐めてもないのに悪女と決めつけるのは嘆かわしくてよ」
「ふん。まぁいい。とりあえずこの紙にサインをするのだ。これでやっと婚約破棄ができる」
レディオス様は婚約破棄の紙を私の前に出します。
羽ペンを取り、素早くサインをして婚約破棄は完了です。
「とても嬉しいわ!これでやっと自由よ!二人一緒になりましょう」
ユルリッタ様は嬉しそうな顔でレディオス様を見ます。
レディオス様も嬉しそうに微笑みながらユルリッタ様を見ます。
…もう…優しい目はわたくしに向けることはないでしょう。
そう思いながら挨拶をした後自分の部屋に戻りました。
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