千花細見

よしの

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嘉乃ーかのー

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 あたしは、一年前に、この国へやってきた。

 人間たちの言う、遊郭や西洋の館が立ち並ぶ、小さな国だ。

 そこに住むのは、女がほとんどで、男は、彼女たちの世話係や楼主たちしかいない。



 あたしは遊女だ。

 もう二十歳だが、一番上の姐さんが、居場所がないところを拾ってくれた。

 姐さんは五人いる。

 人間たちの遊郭の中の決まりとは、違うところがたくさんあるから、そこは随分助かっている部分もある。


 一番上の姐さんの名は、愛那(めな)という。

 星の光のような金髪が緩やかに波打ち、目は青い夜空のような色。

 エルフの王女だったが、どういう訳か、この国で遊女をしている。


「あ、莢(さや)姐さん、おはよう」


 莢姐さんは、愛那姐さんの、次の姐さんだ。


「おはよう、嘉乃」

 
 銀髪に、緑の目の魔女。その重たげな瞼の中には、優しさが滲みでている。


「ねえ、三漉(みずき)はぁ?」


 階段を降りてきた、猫女の由阿(ゆあ)姐さん。赤みがかった桃色の髪に、同じ色の目は、大きくて、かわいらしい顔立ちだ。


「三漉姐さんなら、まだ寝てるんじゃないかな」


 あたしが答えると、障子が開き、顔が覗いた。


「起きてるよ。吸血鬼にはきついんだよ、朝から活動するなんて」


 薄い青の髪と目。由阿姐さんと三漉姐さんは、同期らしい。上から三番めの姐さんたちだ。


「さ、風呂屋に行くよ」


 愛那姐さんだ。いつも、五人揃って風呂に入りに行く。毎日の楽しみのひとつ。

 
 今日は誰が来てくれるのかな、と見世のことを考えながら、姐さんたちのあとに続いた。















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