星の降る夜に

ベガ

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私の葛藤

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学校に着くなり机に顔を突っ伏した。昨日からいろいろありすぎて何が何だか分からない。
いっそこのまま全ての記憶を消し去ってしまいたい。本気でそう思い始めてしまった。そんな出来もしない事を考えながら朝のホームルームを迎える。


私の表情を見て菫が何かを察したらしい。
「岬さん、何かあったの?」
私は彼女に全てを話した。
少し楽になったかもしれない。
そんな感じがした時だった。
「みなさーん!聞いてくださーい!」
大人の女の人の声が響く。担任の声だ。
「急遽決まったことがあります。
残念ながら相手側の学校の都合により交換留学は今月いっぱいとなりました。」





「え。もういやだ。これ以上なにも起こらないでよ。」

もうパンク寸前だった。
菫ちゃん達本州から来た高校生も知らなかったようで驚きを隠せずにいる。遅かれ早かれお別れすることには変わりなかったのだがここまで早いとやはり気持ちの準備ができていなかった。
いなくなるということは、彼への謎も分からないままになってしまうのか。


いやだ。そんなの。全然スッキリしない。


「決めた。今日、彼とちゃんと話しをしよう。」


朝のホームルームが終わり私はドアを乱暴にあけ
隣のクラスへ駆け込む。


彼の席は教室の一番後ろの奥の方にある。
私は机と机の間をすり抜けながら彼の前に立つ。
彼は文庫本片手に持ち集中しているようだった。
彼が読んでいる本は、

「昭和の人の心得」


なんじゃそりゃ。これじゃあ噂が立つわけだ。
しかもニヤニヤしながら読んでるし。
だめだめ。そんな事を気にしている場合じゃない。


「新一さん、今夜時間ありますか?」

「あー、大丈夫ですよ。」

「じゃあ、今日の夜10時に、星岬のベンチで」

相手の返事も聞かないまままた机と机の間をすり抜け教室を後にした。





心臓の高鳴りが抑えきれず胸に手をやり鼓動を聞く。確かに鼓動を感じる。でも彼、新一さんの
鼓動は余命という形で限られた時間しか動かない。
今夜全てがわかるなんて思うと、知っていいものなのかどうかという葛藤にかられながらも、
聞くチャンスは今しかない。
決意を決め聞く事とする。











今夜この出来事が私の家族の本当の秘密を知ることになるとは当然知る由もなかった。
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