『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯

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第6話 普通になりたい

4月9日 火曜日 6時00分 とある一軒家にて

──チュンチュン

 スズメの鳴き声が、朝日の差し込む部屋へとやってくる。身体が重いし、なんかだるい。倦怠感というか、脱力感がある。

喉乾いた。飲み物でも……

「すぅ、すぅ……」俺の隣で寝息が聞こえた。

ああ、ようやく思い出した。そうだ、ここ、女子の家だ。



 ──世間一般では、この状況を『朝チュン』とでも言うのだろう。

 俺の両端で可愛い女の子たちが寝息を立てている。布団はフワフワで、女子特有のいい香りもする。

「……いや、まさか、ヤッてないよな」もし、手を出していたなら……

 布団の周辺を確認。よし、ティッシュやゴムは落ちていない。それに、俺も制服着てるし、海野だってあの時の格好。

「おおっと、危ない」海野の白いキャミソールが少しズレていて、俺は咄嗟に視線を逸らす。

 不可抗力と言えども、女性の蕾を覗く行為は犯罪だ。海野に通報されれば、俺は問答無用で犯罪者になるしな。

「あん? なんであそこに車椅子が……」で、そらした視線の先。

ベッドにくっつける様に置かれている車椅子。俺の両隣から聞こえる寝息。

なるほど……。

「ってことは、ここにいるのが──」掛け布団を捲った。

「ゆうくん……。ふにゃほにゃ……」四葉は気持ちよさそうに寝ている。

 いました。新種のストーカーです。しょーもない寝言をしているお陰で、口元によだれの線ができていた。しかし、この状況に安堵する。

「よかったぁ……。俺、四葉には興奮しねぇもんなぁ……」

 ここでほっと一息。過去の俺だって、四葉に欲情するはずがない。

──ブーン

 ベッドから少し離れたところ。そこには丸机が置いてあるのだが、そこから軽い振動音がした。言わずもがな、それは俺のスマホである。

──ブーン

ベッドの上から手を伸ばす。しかし、全くと言っていいほど届かない。

──ブーン、ブーン

 また震えるスマホ。先程よりも着信の間隔が短くなっている。俺は仕方なく四葉と海野を避けて、ベッドから立ち上がる。

──ブーン、ブーン

「へいへい、分かってますよ……」

 のそのそと歩いて、スマホを手に取る。もはや手癖になっている動作で、四桁の数字を入力する。

「10件も、四葉……なのか?」

 しかし謎の通知は、違う人からのメッセージだった。俺は不思議に思いながらも、とりあえず内容を見てみる。

『優、街の不良にバイオテロしたよね? 言ったでしょ? 次やったら、優の苗字を変えるって』

「やべぇ、バレてたのか。……お婿に貰われちゃうよ」

さらにメッセージは続いている。

『今、優の家に向かってる』

 そのメッセージが届いたのは3時00分。そしてその20分後くらい。

『どこ?』

『教えなさい』

『逃げないで』などと連絡が来ていた。

 差出人は分かっている。どこぞのストーカー政府から、俺を監視するように言われているあの人。

 背が高くて、凛としていて、胸も大きい。ハッキリとしたものの言い方がカッコ良く、昔は憧れていた女性。

そう、あの人は──



「……優くん、起こして」

 彼女はいつも通り、ベッドの上で仰向けのまま両手を広げている。もちろん、抱きしめて欲しいのではない。これは『私をトイレに連れてって』という合図。

「おい四葉、今日は起こすだけだからな。いつ何処で監視されてるか……」

「やだ! 朝は優くんに抱きつくのが日課なの!」

トイレは? いつもそっちが目的だったの?

「待て、トイレは行かないのか?」

「トイレは抱きつくついでに……。うぅ、でも、そう言われるとトイレにも行きたくなった」四葉は呑気にそんなことを言って、まだ両手を広げている。

「今日は一人で行きなさい。トイレの前までなら、連れてってやるから……」

俺がそう言った直後、四つ葉の向こうから人影が盛り上がった。

「ちょっと待ってアマミー。それ、なんかおかしくない?」

 海野が聞いてくる。目を擦っていて、寝起きなのだろう。俺たちの会話がヘンだと誤解している。

「別におかしくないぞ? トイレの前までだから、下の世話をしないだけ──」

「それがおかしいんだって。普通はそんなことしないよ?」

 海野は困惑している。同時に、俺も同じ顔をしているだろう。彼女の発言的に、俺がおかしいってことか?

「普通って、どんなんだよ?」俺は四葉を抱え上げて、車椅子に座らせた。

「普通は普通だよ。その、なんと言うか……」

「優くん、頭……」と四葉は話に参加していない。頭を俺の方に擦り寄せる。

「えっと、うーん……」海野は1人ベッドの上、可愛らしく腕を組んでいた。

「な? 分かんないだろ? そういうことだよ」俺は四葉の頭を撫でて、車椅子のハンドルを握った。

「それ! それが普通じゃない!」海野はベッドの上をハイハイで移動して、俺の方に頭を寄せた。

「なんだ? どこが普通じゃないんだ?」反射的に海野の頭も撫でる。

 彼女の金髪はサラサラしていて、触り心地がいい。まるでシルクでできているのかと疑うほどだった。

海野は目を細めている。

「……それ、今の。女の子の頭なんて撫でないよ」かなり落ち着いた声だった。

 さっきまでの興奮している海野とは違って、おとなしい猫みたいだった。その声だけでよく分かった。

「あぁ、髪型とか崩れるもんな。四葉も朝以外は嫌がるし……」俺は手を離す。

 海野から「あっ」と名残惜しそうな声が漏れた。しかし、俺は車椅子を押して、部屋の入り口まで進む。

「海野ー、トイレって二階にある?」

「出て左。突き当たりにある……」

部屋を出る直前に振り返ると、海野はベッドの上で体育座りをしていた。

それも、壁のほうを向いて。

「……おう、サンキューな」俺はそう言って部屋を出た。






4月10日 火曜日 16時30分 

「連絡はここまで、今日は解散!」

 初老の男性教師の声を聞き流す。俺はガヤついて、開放感にあふれた教室内を見渡す。

海野と目があった。

彼女は1番後ろの席。だが、俺とは最も離れた、出入り口側の席だった。

(今日も泊まってく?)彼女の口の動きだけでそう聞き取る。

 俺はコクリとうなづいて、何事も無かったように窓の外を見た。傾いた太陽はオレンジ色になって、校舎を照らしている。



しばらくして、教室は海野と俺だけになった。

「いいのか? 帰り、友達に誘われてたろ?」近づいてくる海野に声をかける。

「うん。ウチはアマミーと同じ部活に入るから」

海野の発言は、昨日まで遡るとよく分かる。

 昨日の朝。政府のあの人から、俺のラーインに連絡があった。恐る恐る確認してみると、そこには……

『優の学校に、園芸部ってある?もしあったら、その部活に入りなさい。理由は後。いい?分かった?』と綴られていた。

あとは、四葉に関して。

 アイツ、俺が押し倒されてる画像を見て、親に送ってもらったそう。で、アイツが到着した時点で俺が気絶してたもんだから、二人で寝ちゃおうとか言う結論に至ったらしい。

なんで気絶したかは覚えてない。

 窓の外を眺めてみる。夕焼けがあるから、明日は晴れだな。よし、今日も頑張った。
 
「ちょっとアマミー! ウチのシュシュ知らなーい?」海野はカバンを漁っていた。

「それ、手首に巻いてんのは違うのか?」彼女の手首を指差す。

「違うよー、これは二軍のやつ。一軍のやつがないのー!」

 まぁ、なんとなく。友達は増えたような気がする。海野はいい奴だし、俺アレルギーもなぜか発動しないし。

……胸も大きいし

 窓の外から見える山に、太陽が沈んでゆく。オレンジ色の絵の具を撒いた空は、昨日の雨が嘘だったかのように澄んでいた。

「あっ! 見つけたー!」海野はとびきりの笑顔で、シュシュを俺に見せびらかす。「アマミー見てー!あったよー!」

「いいじゃん、可愛いね」

 つい率直に、思ったことを口に出してしまう。それはまるで、目の前のコイツのように。

「なっ、反則だよ……」海野の頬が、夕焼けみたいに染まった。
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