『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯

文字の大きさ
9 / 40

第8話 帰りたい

しおりを挟む
 ──キーンコーン、カーンコーン

 昼休みが始まった。俺は授業で使ったノートを素早くたたみ、背伸びをして窓の外を見る。今日は快晴だった。

 ざわざわとする教室内は、どこでメシを食うだの、食堂に行こうだのという会話が絶え間なく聞こえてくる。俺は席から立ち上がらず、机に頬杖をつく。

「アダム殿。今日も昼食、宜しいですかな?」

 俺のことを『アダム』などと呼ぶ男子生徒が、前の席から振り向いて言った。太り気味の身体に、なぜかグラサンをつけた男。手には2段弁当を持っている。

雰囲気はオタクと厨二病を足して2で割った感じだ。

「おう」と俺は素気なく返答し、傍らに置いてあるカバンから弁当を取り出す。

目の前にいる『ルシファー』と昼食を取るためだ。

 ちなみに、俺たちは本名を言い合っていない。更には、コイツとは中学からの付き合いなのだが、そのグラサンの向こうにある目も見たことがない。

 これが友人と言えるのかと問われれば、間違いなく友人である。たしかに普通とは異なる人間関係ではあるが、俺にとっては丁度いい。

「アダム殿、身体の方は大丈夫であろうか? 拙者と同じ呪いを授かった仲だ。助け合ってこその友であろう?」

ルシファーは俺の顔色を窺うようにして聞いてくる。

「おう、ばっちし」グッと親指を立てて返答した。

 まぁ、コイツは俺アレルギーなど患っていないが、コイツの中では『呪いを喰らっている仲間』という設定になっているらしい。

俺はそんなどうでもいい話をしながら、弁当を机の上に置く。

「おや、アダム殿の弁当がいつもと違うような……。いや失敬、あまり言わない方がよろしいか」

 ルシファーは俺の弁当箱を覗き込んで、不思議そうにつぶやく。発言に気遣いが垣間見える男だ。厨二病だが、根はいいやつである。

「これか?」ルシファーに弁当を見せびらかす。

 ピンク色の箱で、どう見ても男のものではない。俺は更に追撃の意味も込めて、特大の爆弾を投下する。

「女子から貰った奴だぜ?」ニヤリと笑って、ルシファーの反応を観察する。

「ななっ! 禁断の呪いを患っていながら、恋愛ですと!? アダム殿! 何というお方だ!」ガタッと立ち上がるルシファー。

中々にいい反応。これだからコイツは面白い。

「はっはっは! 俺にも青春がやってきたのさ。 ほら、お前はどうよ?」ルシファーの方に話を振る。

 まぁコイツは青春なんて、十中八九経験していないだろうな。思った通り、ルシファーは首を横に振った。

「せっ、拙者はリアルに興味ないので! 2次元女子に恋をしている方が健全なんでございますよ!」

 早口で捲し立てるルシファーの必死さに、俺は思わず吹き出してしまった。コイツ、ギャルゲーでしか恋愛してないじゃんか!

「……ちなこれ、海野の手作り」周りに聞こえないように声を小さくして、俺は最後の一撃を決めた。

「あっ、アダム殿……」ルシファーは意外と動かない。

 ただ背筋を伸ばして立っている。あっ、グラサンの隙間から涙らしき雫が滴ってる。ルシファーのその姿はまるで、映画を見て感動している人だった。

ダンッ!

ルシファーが机を叩く。

ダンッ!

 またもや叩く。涙の量が尋常じゃない。ポタポタとコイツの制服にまで滴り落ちている。

 しかし、俺はそんなルシファーを無視して、弁当箱の蓋を開けた。中にはハート型の卵焼きが入っていた。

ダンッ!

「……拙者、気分が、悪くなったので、早退しようと思う」悲しみで震える声。鼻水と、涙で汚された顔。「異論はないであろう?」

 ルシファーはそう絞り出すように言った後、静かに手で涙を拭いて、教室をあとにした。途中、クラスメイトからドン引かれていたのは言うまでもない。

──ごめんな

ルシファーの悲しき背中を見ながら、そう心の中で謝って、箸を手に取る。

 すると、ルシファーが去るのを待っていたかのように、俺の前の席に座る者現れた。

もちろん、この弁当の製作者である。

「アマミーどう? ウチの弁当、美味しい?」

海野は机の上で両手枕のようにして組み、顔をそこに乗っけている。

 不安そうに、恐る恐る質問をする海野。手には絆創膏が複数貼ってあり、この弁当に対する努力が見えたような気がした。

卵焼きをひとつ箸でつまみ、口に放り込む。

 うん、普通に美味いな。それに、俺の好物とかも結構入ってて、ラッキーな日の弁当って感じがする。

「……んぐっ。うん、メチャウマ」左手の親指をグッと立てる。

 俺の感想を聞いて、海野の肩から力が抜ける。海野は笑顔で座り直した。彼女も弁当を持っており、俺のと同じような色と形だった。

「よかったぁ……」ホッと胸を撫で下ろした海野は、彼女自身の弁当も開ける。

「えへへ、いただきまーす!」

 当然だけど、中身は一緒なのか。別に俺の好物に合わせたってわけでもないっぽいな。たまたま味覚が似てるってだけなのね。

「ねっ、アマミー。ウチ、頑張ったよ?」

 ふと海野が話しかけてきて、俺は箸を止める。彼女の表情は、褒められたいという気持ちが前面に現れていた。

「弁当ありがとな」海野の目を見て礼を言う。

 しかし、彼女は違うと言いたげだった。そして海野は俺の側まで移動すると、頭をコチラに擦り寄せてきた。

「報酬はこちらからお願いしまーす」

 ウリウリと、まるで小動物のように俺の腹に頭を擦り付ける海野。上目遣いで俺を見つめてくる。なんとなく希望を察して、そんなことで良いのかと思った。

「あぁ、ありがとな」

 海野のサラサラとした頭を優しく撫でる。出来るだけ、髪型を崩さないように気を遣って、最低限の力で撫でる。

「……アマミーもっと強く。力足んない」

 海野さんはご不満らしい。声の調子が不服を表している。しかし、周りの目ながあるし、これ以上目立ってしまうと危ない。

「ごめん、今はこんくらいが限界だな。目立つと俺アレルギーが発症する」

「えー?」海野が不満そうな顔で俺を見上げる。「ウチの弁当は、そんなナデナデくらいの価値しかないんですかー?」そう言って、頬を膨らませていた。

 そんなこと言われても、そんな顔で見つめられても、俺の心は変わらない。無理なことは無理。俺アレルギー優先。

「まぁまぁ。あとで埋め合わせするからさ、今はこんくらいで勘弁してくれ」

 俺の提案に、海野は少し間を開けて返事をした。その間にいろいろと考えたのだろう。妥協案を添えられた。


「……いいけどウチ、利息大きいからね。ぜっったい今日中だからね」

「分かった、今日中な」

 まだ少し不満そうだが、海野は観念して前の席に座ってくれた。俺は埋め合わせのことを考えながら、ゆっくりと弁当を平らげた。

 その間、案外クラスの人間の目は穏やかだった。特に男子からの視線があったというわけでもなく。

ダンッ!

と、たまに机を叩く音だけが響く、静かな教室であった。






 俺は今、海野と近くのスーパーに寄っている。彼女はウキウキで俺の手を握り、反対の手でカゴを持っている。

 海野いわく、『スーパーのカップルって、同棲してるみたいでいいよね』ということらしい。

「お豆腐とー、ニラとー、鶏肉ー。さて、なにを作るのかアマミーにわかるかなー?」海野は食材を選びながら、そんなクイズを出してきた。

 機嫌は良く、変なプレッシャーも放っていない。逆に海野が、普通の可愛い女の子をしているため、周りから聞こえるクシャミや咳の回数が多くなったくらいだ。

「麻婆豆腐だな。どうだ? 当たってるか?」

「せいかーい! 正解したアマミーには、葵ちゃんから特別賞!」

 なんだか、和やかでいる時間が愛おしい。最近はゲームの周回と勉強漬けで、こういう時間がなかったような気がする。出来るだけ楽しんでおこう。

 海野に手を引かれながら、そんなことを考えていた。すると、なんだか不思議とモヤモヤしてくる。

「なぁ、海野。ここって、食べ物は売ってないよな?」周りを見渡して、少し違和感を覚えた。

「うん、売ってないよー。だって特別賞だもん」

 海野は日用品売り場に俺を連れて行く。そして、1番立ち止まったらいけない所で立ち止まってしまう。

「アマミーの大きさって普通くらい?」彼女はしゃがんで、とある箱の並びをを目で追う。

この一角は、派手な色で満ちていた。

「……」

「1箱で足りるかなぁ? アマミーどう? 足りそう?」しゃがんでいる海野は俺を見上げる。

「……帰るぞー」俺は無視してその場を離れる。

 ったく、避妊具売り場をスーパーに設けるなって。……こういう頭がピンクな奴が大量発生するから。

「アマミー待ってよー!」

後ろから聞こえてくる海野の声に振り返ることはなかった。

──何が特別賞だバカ野郎
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

処理中です...