『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯

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第21話 昔懐かし、私の世界

朝日が眩しくて目覚める。
見慣れない牢獄で驚いたが、すぐに昨日の出来事を思い出して納得する。

「どう? よく眠れた?」

檻の向こう側で、四葉が微笑んでいた。
車椅子に座っている姿が非現実的に見えてしまう。

「……お前は、四葉なのか?」
「なに言ってるの? 私は私だよ?」

人形のように首を傾げる四葉。
俺が勝手に作り出した感覚だが、そういう風に見えてしまう。

だって、天使の言葉が本当なら、コイツは四葉じゃない。
あの日たまたま同じ事故に遭った、被害者の1人。

交差点、炎上するワゴン車。
俺が助けたのは、近くにいた少女。
四葉は轢かれて重症。

「いや、お前は四葉じゃない」

指を刺す。
まるで、探偵が犯人を追い詰めるように。
ただ、それ以上に失うものだってあるんだ。

「……私が、、私が四葉じゃなかったとして、優くんはどうするの?」

「どうしようもない。けど、少しだけ前に進める気がする」

「知らない方が幸せだよ? 私とアイツの関係も、私と優くんとの関係も。
……知ってしまったら、思い出が消える」

「消えない。
俺とお前が生きてるから、思い出は絶対に消えない。
ただ、少しだけ塗り替えられるだけだ」

四葉は震える。
怯えてる。きっと今のままでいたいんだ。
俺とコイツの綺麗な関係を、ずっとこのままで過ごしたいんだ。

「今の俺には時間がない。今日で、あの日から抜け出さないといけないんだ。
だからここから出せ、出してくれ。……四葉」

「……いやだ」

ふりふり、葛藤を振り払うように、嫌なことを忘れるように。
そうやって首を振る四葉。

「いやだ、いやだ……」


────────

私が目を覚ました日、最初は困惑した。
足が動かない。周りに知らない人が沢山いて、優くんはいなかった。
でも私は、狼狽える様子を表面に出さなかった。

あの空間に溶け込みたかった。

幸い私は頭が良かった。
知らない人との会話は、少し疲れるけど可能だった。
それにあの空間、前の地獄なんかと比べたらずっっと楽しい空間だった。

優くんは決まって1人でやってくる。
後で知ったけど、俺アレルギーっていう病気らしい。

「お前、明日退院なんだってな?」

優くんはリンゴを齧っている。
私の手元にも、ウサギさんの形に切られたリンゴ。
彼は意外と器用なことを知った。

「うん、みんなのおかげ……」
「ははっ、お前も変わったな。みんなのおかげ、か、いいセリフだ」

ドキッ

最近、『変わった』という言葉に敏感な気がする。

それもそう。

もし入れ替わりが何らかの拍子でバレてしまったら、また地獄へ引き摺り下ろされてしまう。

そんなのはイヤだ。

「……たしかに変わったかも。でもね、私は私だよ?」
「なんだそれ? やっぱり、お前らしくねぇな?」
「うん」

ちょうどその時、桜が満開だった。

だからかな?

やけにその言葉を覚えてる気がする。

高校に入ってから、ようやく入れ替わった先を視界に入れた。
『四天王』というポジションに私と彼女が加わっていたからだ。

彼女の二つ名は『氷の魔女』

聞いたところによると、全ての人間を拒絶するらしい。
そして学校には、進級できるギリギリの出席日数で通っているだとか。

そんな彼女を視界に入れた。
そう、会って話すことはなかった。

私は本能的に察した。

──彼女に出会った時、入れ替わりの魔法は解けてしまう

────────

私が目を覚ました時、病室はものすごく静かだった。

だれもいない代わりに

隅に置いてある机の上には、過剰なまでにフルーツが置いてあった。
けど、全部腐っていた。

病室に鏡はない。
私が私じゃなくなったことに気づく原因は、雨宮に無視されてからだった。

トイレに向かっている途中、雨宮はリンゴの入ったポリ袋を持っていた。
私の横をすり抜け、知らない病室に入ってゆく。
トイレの手洗い場でようやく気づいた。

私は、私じゃない。

目を覚まして、少しリハビリをした。
検査の結果に異常がないと分かると、病院にリムジンが止まって、私をどこかに連れていった。

「お嬢様お願いです。この世界から足を洗ってください」

タワーマンションの最上階。
生活感のない、ハリボテみたいな広い部屋。
そういう意味では、ホテルのようにも思えた。

そんな場所で、執事と思われる人物が頭を下げる。

この世界とやらも、お嬢様であることも知らない。
だけど、逆に好都合かもしれないと、本心ではほくそ笑んでいた。

過保護な雨宮から解放され、変な演技をする必要もない。
そういう世界が手に入りそうだった。

「分かりました。少し不甲斐ないけど、貴方が言うなら仕方ないわ」

できるだけ、お嬢様らしい振る舞いと語彙を使った。

「あぁ、遂に折れてくださりますか。本当にありがとうございます」
「ええ、流石の私も完敗よ」

六十代くらいの男が、若い女に頭を下げる。
私の入れ替わり先の人物は、よほど稀有な人生をおくってきたのだろう。

「ではお約束通り、3億円の振込みと新居、学校の手配を……」
「そう、よね……約束通り」

耳を疑った。
私の抱えていた『これから』の不安を全て吹き飛ばす約束だった。
至れり尽くせりと言うか、人生イージーセットみたいなものだ。

桜が蕾をつけ始めた頃だった。
だからだろうか、異様にこの高揚感を覚えている。



雨宮のいない生活、それは私が待ち望んでいたものだ。

朝、彼を起こしに早起きしなくてもいい。
昼、彼がボッチ飯を食べているところを助けなくていい。
夜、彼のために食料を買い出さなくていい。

このルーティンがなくなるだけで、私の自由時間がかなり確保できた。
彼のために費やした時間は、私のことに当てよう、そう決心した。



……ある日の夜

寂しさは突然襲ってきた。
どうしようもない、ただ、誰かと一緒に寝たい。
安心感が欲しい、暖かさが欲しい、彼に……雨宮に頭を撫でて欲しい。

すると、ダムが決壊したように、他の欲求も流れ込んできた。

朝、雨宮を起こすついでに、彼の布団で二度寝したい。
昼、雨宮と昼食をとるついでに、笑い合いたい。
夜、食料を手渡すついでに、彼と漫画を読みたい。

自覚した。
私はいつの間にか、大きな物を失っていた。

思い出した。
本当の私は、彼との生活で幸せを感じていた。

後悔した。
私は私の幸せを、今まで手放していた。

決心した。

──木之下四葉を返してもらおう、と


────────

私の入れ替わり先が、優くんに近づいていることに勘づいた。

最初は小さな違和感からだった。
それが今では確信に変わっている。

初めはクマのぬいぐるみ。

────────

クマのぬいぐるみは失敗だった。
雨宮の成分をより補給できるように、カメラまで搭載してしまったからだ。

ただ、ストーカーという悪趣味なことはしていない。
私はただ、雨宮の生活を覗きたかっただけだ。

────────

私はクマのぬいぐるみ手にとって察した。
異様に重かったのだ。

すぐにぬいぐるみは燃やした。

案の定、中からカメラが出てきた。
車椅子で踏んづけておいた。

きっとアイツだ、私の優くんのナニを覗こうとしたのか……。

────────

次は、家に忍び込むことにした。
雨宮の母親が、鍵を茂みに隠していることは知っている。
ここにきて、幼馴染という立場のありがたさを自覚した。

彼の家には、盗聴器だけ設置した。
今回は欲張らず、成分を少しだけでも受け取ることに尽力した。
この盗聴器は今も残っている。

────────

変な女から脅された。
買い出しからの帰りだった。

「キミの中身は知ってるよ。優にバラされたくなかったら──」
「何言ってるんですか? 私は私ですよ?」
「あーあ、変な茶番癖ができちゃってる。これだからガキは……」

女はスマホをいじる。
道路を駆ける車のヘッドライトに照らされていた。

「……九条涼音、いいところのお嬢様でしょ?」

全身に血液が回る。
今すぐに逃げ出したいけど、手に力が入らない。

女は近づいてくる。
後ろに回り込んで、ハンドルを握った。
心臓を掴まれている感覚だった。

「私は海野雫。雨宮優を監視するプロジェクトの主任なんだ」
「……」

同い年に自己紹介をするみたいに言われても、警戒心は無くならない。
むしろ得体の知れなさで強固になった。

キュルキュル

車椅子は押される。
向かっている方向は、優くんの家じゃない。
反対方向……私の家。

「待って! やだ! 戻りたくない!」
「暴れても仕方ないよ? 協力するならする。
しないならしないで、私にも次の一手がある」
「分かった! 手伝う! 何でもするから!」

ピタッ、車椅子が停止する。
気がついたら、私の呼吸が荒くなっていた。

「なら、コレを優の家に置いて。できるだけ隠して、バレないようにね?」

手渡されたのは小さな機械。
レンズのようなものがあった。

「これ、小型カメラ。優の生活を差し出せば、キミは助かる」
「優くんの……生活? そんなの──」
「これは研究のためだよ? ……もしかして、エッチなこと考えてる?」
「そっ、そんなわけ!」

正直、あの人と出会ってよかったと思う。
あの人の役に立ち続ければ、私の生活は限りなく安全だったから。

────────

四葉の視線が、牢屋の錠を捉えた。
彼女の右手には鍵が握られている。

「……今までありがとう。優くんとの日常、楽しかったよ」
「よせよ、死ぬわけじゃねぇんだから」
「うん、そうだよね、えへへ。じゃあ鍵、開けるね?」
「ああ、頼む」

ガチャン

その音は、優しく響いた。
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