『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯

文字の大きさ
29 / 40

第28話 泣きたいなら泣けばいい

しおりを挟む
海野は他人を信じていない。
彼女にとって、被害妄想をすることが唯一の自己防衛だったからだ。

そりゃあそう。

海野の世界では、全員が悪人なんだ。
いつ裏切られるかもわからない。
だから他人を信じない。
至極単純で、合理的で、安全度が高い。

まぁ、人間としては0点だが。

ベッドの上。海野を見下ろす。
両腕を掴んでいるから、抵抗される心配もない。
だが、これから俺は何もしない。

「アマミー?」海野は首を傾げる。「その、ウチ初めてだから……」恥ずかしそうに視線を外した。

黙って彼女を見つめる。
何もしない。動かない。俺が何もしないから、海野は何もできない。
これでいい。これがベストだ。

しばらく、たっぷり5分くらい。体感的には1時間。
俺は何もしなかった。まるで時間が停止したかの如く動かなかった。

海野はその間、表情をクルクルと変えた。

顔を赤く染めたり、急に涙目になったり。
強引に動こうとしたり、目を閉じたり。

とにかく必死に、答えを探していた。
答えなんてないのに、そこに何もないのに。
たった5分でも、海野は俺のことを信じきれなかったわけだ。

俺はそのまま1時間、同じように何もしなかった。



「なぁ海野。……俺の気持ち、分かったか?」

1時間後、呟くように聞く。
海野は突然のことに全身が跳ねていた。
その後に少し黙り込んで、一言。

「……わかんない」
「だろうな」
「なら、教えてよ。正解」
「そんなもんねぇよ。俺は最初から、何も考えてなかった」

そう、正解なんて無かった。それが正解。

パッと両腕を手放す。
海野の手首に、赤い手形が残っていた。
ドサっと海野の横に寝転がる。天井が見えた。
落ち着いた赤色。いったい、何組のカップルが眺めたのだろうか。

「他人の感情に、正解なんてないんだ。
 誰も証明できないし、知る術もない。
 でもお前は、それを無理に知ろうとする」

「……だって、怖いから」

震えていて、泣きそうな声。
キュッと服の裾が摘まれた。
弱い、弱い、細い、細い。だが、蜘蛛の糸のように切れない。

「俺は怖いか? 雫さんは? 
 俺と雫さんと、お前の昔の友達。全員おんなじ人間だぜ?」

「違う、違うよ。
 アマミーもお姉ちゃんも、私を想ってくれてるの。
 ……馬鹿にしないで」

今度は力強い否定。
やはり、自分の意見がある時は強い。

「馬鹿にしてるのはどっちかなぁ?」

「茶化さないでよ」

結局は、都合の良し悪しで被害妄想の内容を決めている。
俺や雫さんは海野にとって、良い行いをしたに違いない。
逆に、昔の友達とやらは……。

「世の中、みーんな海野のことが好き、ってわけじゃないんだよ。
 お前のことを嫌いな奴もいる。そりゃ当然」

一度、寝返りをうつ。
海野と目が合う。目元が赤く腫れている。
海野は泣いていた。

「やっぱり……。ウチって、いないほうがいいのかな?」

「まぁ、海野のことが嫌いな奴はそう思ってるよな、多分。
 でも──」

「うん、そうだよね……ぅぅ」

あらら、本格的に泣いちゃった。
言いたいことはこれからなのに。

「泣きたいなら泣け。
 言いたいことがあるなら言え。
 今、海野の目の前にいる奴は、絶対に海野を嫌いにならない奴だからな」

「でもアマミーは、ウチと村雨が一緒だったら、ウチのこと嫌いになるでしょ?
 だから──」

「だから、変装までして会ったのか?
 んな事しなくても大丈夫だって。俺を信じろって」

「信じてる……。
 信じてるから、信頼してるから、嫌われるのが怖かったの」

海野は目と鼻の先で、泣いている。
自分の主張を理解してもらえない子供のようだった。
わがままに泣きじゃくる、目頭を拭う。
その所作一つ一つに、幼さを感じた。

卵が先か、鶏が先か。

信頼している人を失うことに恐怖するか。
もしくは、信頼している人物だからこそ恐怖がなくなるか。
海野の葛藤から導き出された答えは、後者だったわけだ。

なるほど、正しい行いだな。

「そうか、そうだよな。
 お前は、失った経験があるもんな?」

「……うん」海野は小さくうなづいた。

海野の行動が保身的になるのは、一度失ったから。
その経験はさっき聞いた。十中八九独り言なんだろうけど、ちゃんと聞いた。
案外、海野の癖も、保身的が故の行動なのかもしれない。

皮肉かな、これは。

「でも、俺は絶対に失わない。
 絶対にな? 分かるか、絶対だぞ?」

「……絶対?」

しっかりとうなづく。
迷わず、真っ直ぐに海野を見る。
そういう所作でも不安にさせない。

「だから、俺の前では好きなように生きろ」

「……」

何かが、開いた。
そういう音も聞こえた。
俺の言葉がトリガーになったのは言うまでもないだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

処理中です...