『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯

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第31話 段違いの勘違い

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別荘と聞くと、ゆったりとしているイメージだった。
だが現状、厳かな空気を纏って、俺と十蔵さんは食卓にて向き合っている。
ゆったりとはとてもじゃないけど言えない。

いや、内装はゆったりとしているのだ。

ペンションに入るとすぐに視界は開け、靴を履いたまま室内へ。
吹き抜けになった天井と、ハシゴを伝ってゆくロフト。
暖かい木の壁、床。小洒落た観葉植物は部屋の壁際に。
大きなスクリーンみたいな窓は、庭へと繋がっており、自然な光を確保。
映画の世界に飛び込んだみたいで、浮き足立ってしまう。

そう、ここはものすごく良い場所なんだ。
状況が状況なだけに、胃がキリキリと痛いですが。

「紅茶でございます。
 ささ、お熱いうちにどーぞ」

「どうも、すみません」

十蔵さんから差し出されたカップを覗き込む。
うん、顔色悪いな、俺。
そのことを確認して、紅茶をチビっと一口。
味なんて分からなかったが、

「すごい。こんなに美味しい紅茶、初めて飲みました」

と、定型句だけ言っておいた。
なので、紅茶の話を広げられても困る。

「それにしても……」俺は珍しいものを見るように周りを見渡した。

「実家は和風なのに、ここは洋風なんですねー」

俺は平然を装って、世間話の流れをつくる。
目の前のお父さんには出来るだけ穏やかであっていただきたい。

「ほほほ。そうですねー」十蔵さんは紅茶を啜り、室内を見渡す。

「お金が有り余ると退屈なもので、
 たまには違う雰囲気を味わいたくなるんですよ」

「まぁ、パパよりも私の方が来る回数は多いけどねー」

「ほほほ。
 それはそうだね。一本取られた」

キッチンから黒咲、いや、明日香が大きな声で訂正した。
多少距離があるので仕方ない。
彼女は1人黙々と、料理をしているようだった。
制服のままだから、シワになるだろうなと考えていると遂に、

「それじゃあ、本題に入ろうか」

「と、言いますと?」

十蔵さんはそう言って、背筋を伸ばした。机上で腕をアーチ状にも組んだ。
要するに、対談体制ってことだ。
俺も同様に背筋を伸ばして、呼吸を整える。

「実はねぇ……。
 キミの身辺を調査した人物が、謎の病を患ってしまったんだ」

「……」声は出なかった。

十蔵さんはもう少し続けた。

「それもね、1人2人とかじゃあないんだ。
 私もまだ完全に把握していないんだが、聞いたところによると、
 最低でも10名ほどに症状が見られるらしい」

「……その件について、何故俺に?」

そう言えば、もう日が暮れていた。
さっきまで明るかったはずなのに、やはり夏に差し掛かるとこうなる。

四葉、涼音の件と、海野の件。
全てが上手くいったし、俺も調子に乗っていた。
だからだろうか。

俺は愚かにも、呪いの存在を忘れていた。

故に、尾行という最も避けなくてはならない事態に気づかなかった。
あまつさえ、その回数は2桁に上るらしい。

「この不可解な事象の共通項が、全てキミにあるんだ。
 だったらキミに聞くのが得策だろう?」

「ええ、勿論そうだと思います。
 非常に聡明かつ論理的ですね」

「安易な結論だと思うんだけどね。
 私としても、雇った責任というものがあるんです」

至極真っ当な人間。
俺から十蔵さんへの評価は、単純化していった。
だがそれは現実逃避でしかなく、もう少し探らなくてはいけない。
まだ、俺は冷静だった。

「十蔵さんの責任というのも理解したつもりです。
 でも正直なところ、俺もよく分かってないんですよ。
 そういう『何か』に付き纏われている感覚はあるんですが、実感がない。
 原因も分からないから、対抗策も何も無いんです」

「ほほほ。原因不明ですか」

俺の発言に、嘘は混じっていない。
実感なんてしたことがないし、原因も定かではない。
堕天使に聞かせられた説が有力ではあるが、まだ納得できない。
だからこそ厄介なのだ、俺アレルギーは。

「でもね、キミ自身は知らなくとも、答えは存在しているんですよ
 今問題なのは、キミに『答えを探す意思がないこと』だと思うんです」

「意思?
 探してますよ、毎日。」

「ほほほ。ご冗談を。
 意思があるのなら、もうとっくに見つかってますよ」

「なんで言い切れるんですか?」

「答えなんて、探せばすぐに見つかるんです。
 よく覚えとくといいですよ、先輩からの助言だと思って」

少し心が揺らいだ。
だって、この人が答えを知っているような気がしたから。
しかしその揺らぎはすぐに収まり、んなわけないと一蹴される。
諦め半分、呆れ半分。

「ほほほ。
 また、諦めましたね?」

ははっ、どこまで見えてんだよアンタ。
驚き半分、恐怖半分。
たしかに、今俺は無意識的に諦めることを選択していた。

その事実に今気づいたことに、俺は腹が立った。
自分で気付いたならまだしも、相手に指摘されて初めて気づいた。
ならば自覚せねばならない。俺の諦め癖を。

「俺は諦めませんよ、絶対に」

宣誓に近い形で、十蔵さんに言い放つ。
彼の目をまっすぐ見て、まるで、娘を貰いにきた彼氏の如く。

「ほほほ」

十蔵さんの表情ってのは、いつも変わらない。
今もこうやってニコニコと笑っているだけ。
鉄仮面と表現すれば、心に落ち着くだろう。

「それなら、この件は保留にしておきます。
 そしてキミが答えを見つけた時、再度教えてもらいましょう。
 どうですか? お金持ちは寛大でしょう?」

「ええ、おっしゃる通りで」

会話がひと段落すると、喉の渇きに気づくものだ。
俺は、冷めた紅茶を一気に流し込んだ。
そして視界の端、明日香は料理を運んできている。

「はい2人ともお待たせー。
 てかアンタって、アレルギーとかないわよね?」

一瞬、十蔵さんからの鋭い視線を感じた。
俺は気のせいだと振り切り、笑顔で受け応えたが。

「うん、ないよ」

「よかった」

ゴトリ、ゴトリと机上に華やかな料理が立ち並ぶ。
カルパッチョとパスタ、見事なイタリアンだった。

「メインはもうちょっとかかるから、先に食べちゃいましょ」

「ほほほ。
 どれもこれも美味しそうです。
 将来が楽しみですよ」

「ふふん、当然よね?」

そう言って、明日香は俺の隣に座る。
それだけでは飽き足らず、視線まで送ってきた。
父親の前で答えづらい質問ではあったが、お嬢様の機嫌を損ねぬよう、

「そうだね」

とだけ言っておいた。
それからは雑談を交えて、食器の音をチャカチャカと奏でる、
実に楽しい晩餐会だった。



同日、時間は遡り、太陽が傾き始める頃。

海野家には3名の女子高生。
葵の部屋、小さな丸テーブルを3人で囲い、その中心にはスマホが1台。
部屋は明るい。コックリさんとか、そういう儀式ではなかった。

ただ、スマホの画面には地図と赤い点。
それを眺める3人という構図であった。

「由々しき事態であります……」

神妙な面持ちで、涼音のお口が開く。
彼女は今回の会議の発端である。
バンッとテーブルを叩いた。

「これを見てください!」

涼音はスマホの画面を指差す。
それを上から覗き込む、葵と四葉。

「……雨宮が、山にいる。……あっ、なるほど」

四葉はなんとなく察した様子。
手をぽんと叩き、涼音と共に葵を見る。

「うん、山にいるね。それで?」

葵の鈍感さに2人は、やはりか、といった様子でため息をつく。
そして、涼音が通ぶった口調で説明を付け足す。

「葵ちゃんは分かってないねぇ。いい?
 優くんが山に連れていたれたってことは──」

「雨宮、山に埋められてるかも」

「ええっ!? そんなぁ!?」

口に手を当てて、驚くのは葵。
こういうのには疎いので、一般的な反応になる。

「あー! それ私のセリフー!」

台詞を取られ、ブーブーと口を尖らせる涼音を尻目に、
四葉は冷静な口調で話す。

「雨宮が全然動いてない。
 しかも、この山は私有地。……生き埋めにしてもバレにくい」

「それじゃあ、アマミーはもう……」

葵は純粋だ。だから、こういう冗談めいた話にも疑わない。
逆に涼音も四葉も茶番気質なので、葵との相性が良い。
とどのつまり、3人は親友である。

「助けに行こう!」

涼音が拳を天に掲げる。
どういうモチベーションなのか、
などと野暮なツッコミを入れる差し込む者はいない。

「……おー」小さく、四葉も拳を天に掲げた。

「おー!」葵は1人立ち上がって、大きく拳を天に掲げる。

ただ一つ言えるのは、彼女だけが唯一、
本当に雨宮の命を救おうとしているということだ。
何度も言いますが、彼女は純粋なのだ。

それからすぐに、雫へと話が回ることとなる。
車を運転してもらうためだ。
目的の山までそこそこ遠い。それに、保護者の存在はあったほうが良い。
そんなこんなで話はトントン拍子。

10分もすれば、全員が車に乗り込んでいた。

「みんな何しに行くの?」

エンジンをかけて、雫が問う。
後部座席には涼音と四葉の姿が確認できる。
そして、隣には妹、葵の姿も。

「「宝探しです!」」涼音と四葉の声は重なった。

「アマミーの救出!」葵の声は浮いた。

彼女は助手席にて、大きなスコップを大事に握りしめる。

「アマミー、待っててね」

やはり、まだ勘違いしているようだ。
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