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死神を好きになってしまったみたいです
言ったじゃん、死神だって
しおりを挟む目が覚めるとそこは病院の中だった。まだはっきりとしない頭を振って上半身を起こすと、右腕は点滴に繋がれていて、それ以外には何もない無機質な病室にいることが分かる。
「あ、起きられましたか?」
声の方へ目を向けるとナース服の女性がいた。優し気な雰囲気の人で、ほっとすると同時に自分がどういう状況なのか分からず不安になる。
「あの、私どうしてここにいるんでしょうか」
「お店の前で倒れていたところを、通りかかった人が見つけたそうですよ」
「倒れた……あ、」
そうだ、店を閉めていたら変な女の子に声をかけられたんだ。それからの記憶がない。看護師さんは先生に伝えてきます、と病室を出て行って、ベッドの上に一人残された。
あのまま倒れたっていうことはきっとお店は開いたままだろう。何も盗まれていないといいけど……そんなことを考えていると扉がノックされた。さっきの看護師さんかお医者さんだろう、そう思って顔を向けた私は、そこに立っていた人を見て間抜けな声を上げてしまった。
「っ、あんたは」
「あんたって口悪いなあ。ちゃんとあなたが気にしていたお店閉めもしてあげたのに」
分からなかったからとりあえずシャッターだけ下ろしておいたよ。と彼女は笑った。その呑気な笑顔に、こうなったのはあんたのせいなのにと恨みを込めて睨み付けると、「怖い怖い」なんて思ってもいないであろうことを口にする。
「だってあんたが私に変なことするからこうなってるんでしょう?」
「そうとも言えるね。でも予告してあげたじゃん、もうすぐ死にますよって。今回のはその前触れみたいなものだよ」
「ふざけないでよ!」
思わず大声を出してしまって、慌てて口をふさぐ。そんな私を見て笑った彼女は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。伸ばされた腕から逃れることもできず、なされるがままに頬を撫でられる。
「やめっ、」
「ふふ、ほんと可愛い……」
私の制止の声など聞こえないとばかりに、彼女はうっとりとした表情を浮かべた。その瞳に宿るのは狂気だ。背筋がぞくりと震える。
「ちょっ……ちょっと待ってよ、あんたは本当に誰なの?」
「言ったじゃん、死神だって。正確には死神の一人、かな?」
「何それ……」
「そのままの意味だよ。私は死神なの。あなたの――唯奈の命を奪う存在」
息がかかるほどの距離まで顔を近づけられて、目を逸らすこともできずに彼女の瞳を見つめ返す。死神と名乗る彼女の顔に浮かぶのは笑みだったけれど、どこか寂し気にも見えて戸惑ってしまう。
黙って見つめ合っていると、病室にノックの音が響いて飛び上がった。驚いた私に対して彼女は冷静で、ちっと舌打ちをして離れていく。
「邪魔が入ったみたいだからまた会いに来るね」
「え?……いや、もう来なくていいって」
「じゃあまた」
「人の話聞いてる?」
抗議の声も虚しく、彼女はひらひらと手を振りながら、入ってきたお医者さんに会釈をして出て行った。釈然としないまま医師の話を聞くと、どうやら過労で倒れたということになっているらしい。ここのところ働き詰めだったから特段おかしいことでもないかもしれないけれど、あの子のことが頭に浮かんだせいでどうにも話に集中出来なくて、詳しいことは聞けずじまいだった。
「池田さん、親族の方とかは?」
「……っ、ああ、家族はいないので。誰に知らせたりとかも特にないです」
「分かりました。ではまた3日後に検査して、問題がなければ退院という方向で」
「はい、ありがとうございます」
何かあればナースコールを押してくださいね。そう言ってお医者さんは出て行った。面倒くさいことになっちゃったな。そう思ってため息をつくと、ふと枕元に気配を感じてぎょっと振り返る。
「な……っ、さっき出て行ったじゃん!」
「そうだけど。名前言い忘れたなあって思って」
「そんなのどうでもいいって言うか、どうやって戻ってきたの?」
「死神だって言ったでしょ、何回も言わせないでよ。私は人間じゃないの」
そんなことを何度言われたって信じられない。そもそも死神なんてファンタジーみたいなものが存在するはずないんだし、何より目の前の彼女は普通の人間にしか見えないんだから……瞬間移動する以外は。
「まあいいや。私のことは雪乃って呼んで」
「呼ぶわけないでしょ」
「呼ばないと死ぬよ」
「はあ?」
「冗談だよ。でも名前は知っておいてね」
彼女はそう言うと再び近づいてきて、今度はそっと手を握られた。振り払おうとしても力が強くて敵わない。
「……なに」
「昨日言ったでしょ。私は唯奈のことが好きなの。好きな子に名前呼んで欲しいっていうのは普通のことじゃない?」
「だから何で、」
「ね、名前呼んでよ。そうしたら帰るから」
そう言われてしまうと言い返せなくなって、渋々口を開く。
「……雪乃」
「うん」
「これで満足した?」
「ふふ、ありがと」
満足げに笑う雪乃に、ふと懐かしさを覚えて首を傾げる。知っている、この感じ。けれど具体的なものは何も思い出せなくて、考え込む私に彼女は微笑むだけだった。
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