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一章〈代えは利かず、後には戻れず〉
第31話 泣いた吸血鬼⑥
しおりを挟む「……なあ、アイリ」
「なんですか、ナオさん」
「早急にミィのトラウマを何とかしてやりたいって意気込んでいた俺らが、どうしてオシャレ~な茶屋で団子食ってんだ」
「……どうしてでしょうね?」
「お前が案内したんだろアイリ……!!」
さて、ミィのトラウマを払しょくすると言って、この旅館の主である龍に宣戦布告した俺だったが、どういうわけか城下町の茶屋で団子を食べていた。
原因として挙げられるのは、あれだけの罵詈雑言をもってして龍を非難した俺についてきたアイリがあげられるだろう。
こいつの、『とりあえず作戦会議です! いいお店知ってるのでそこで話しましょう!』という提案から始まった珍道中。
そんなわけで茶屋に入ったはいいが、出された団子に舌鼓をうつばかりで、一向に話は進まなかった。
どうもこうも、この団子がうますぎるのが悪い。
「……ナオさん、今、お団子おいしいって思いましたね」
「何のセンサーだよ、それ」
「そんなことは重要ではないんですよ!」
電波でも受信したのか、俺の味覚でも受信したのか……相変わらずな幼馴染の態度にため息をつきながら、もう一つ団子をパクリ。
「おいしいですよね」
「まあ、うまいな」
「それですよ! おいしいものを共有する。これ以上に幸せなことはありません……で す の で、ミィちゃんもおいしいもので絆すことができれば――」
「論点が違うでしょ、それ」
「……ですよねぇ……」
どうやら、アイリなりに解決策を提示してくれたようだが、美味いものを一緒に食べるというものは、人間関係改善の解決法の類いだろう。
故人に対する依存の解決策にはなりえないんじゃないか?
「というわけで、あっしから啓示をしてやろう悩める若人よ」
「なんだよ、そのあからさまな態度」
「いいからほら、聞いてみろよ――」
◇~~~◇
「……ミィ、いるか?」
「……」
茶屋のひと時から一時間。俺はミィの部屋の前に来ていた。
こんこんとノックをしてから呼びかけてみるが返事はない。鍵は……開いてるな。
ノブに触れてみれば抵抗なく回るため、後ろで控えているアイリの合図を待ってから、俺はその扉を開いた。
「ミィ!」
「……っ!?」
部屋に電気は付いている。置いてあるものが随分と少ない、簡素な部屋だ。その奥に丸くなった毛布がビクリと震えたのを見て、そこにミィがいることを悟った俺は、ずかずかと彼女のもとに歩いて行った。
「……ナオ」
随分と泣き腫らしたのか、赤くなった顔をしたミィの表情に、いつもの調子は見られない。
そんな彼女は、ちらりと後ろを向き――
「なにその恰好」
「……『いいか、俺はお兄ちゃんではなくお姉ちゃんだ! だからフリルの着いた服も着るし、スカートだってはくぞ!』」
「そ、そう……」
「いや、待ってくれ今のはなしだ。ちょっと一回やり直させてくれ」
俺のひらひらのスカート装着女装姿を見たミィの目が、みるみると他人行儀になっていくのを見た俺はひとまず撤収。部屋の入り口で腹を抱えて笑っていたサトヤを強襲して、俺がアイリ作の女装をさせられたことに対する復讐を開始した。
「なぁにがお兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんだサトヤこの野郎! 見ろあのミィの目! あんなに引いた眼、始めた見たぞ!?」
「アハハハッ! い、いやさしものあっしも、まさかナオが実行するなんて思ってなくて!」
「わ、私は似合ってると思いますよ!」
「アイリィ! それはお世辞にすらなってねぇんだよ!」
スカートをひらめかせた俺は、サトヤの罠にはめられたようだ。
「と、とにかく第一作戦は失敗ということで……じゃあ次は私の案ですね」
「おいアイリ。いやな予感しかしないんだけど?」
「大丈夫ですって! じゃあ、これ着てください!」
◇~~~◇
「……ミィ、いるか?」
「……」
茶屋のひと時から一時間。俺はミィの部屋の前に来ていた。
こんこんとノックをしてから呼びかけてみるが返事はない。鍵は開いている。
ノブに触れてみれば抵抗なく回るため、後ろで控えているアイリの合図を待ってから、俺はその扉を開いた。
「ミィ!」
「……!?」
部屋に電気は付いている。置いてあるものが随分と少ない、簡素な部屋だ。その奥に丸くなった毛布がビクリと震えたのを見て、そこにミィがいることを悟った俺は、ずかずかと彼女のもとに歩いて行った。
「……ナオ」
どこか他人行儀な瞳をしたミィの表情に、いつもの調子は見られない。
そんな彼女は、俺の方をちらりと見て――
「……また?」
「またとかいうなまたとか。……オホン。『あー、だんご、だんごだんご戦隊~(こぶし)。だんごを食べればあら不思議~~(ビブラート)。未知なる力、それいくぞ~(こぶし)。串! 刺し! 変身! そ~れ~ゆ~け~だんご戦隊~(ビブラート)』」
「……あ、うん」
「すまんミィ。今のもやっぱりなしだ。ちょっと出直してくる」
ついに目も合わせてくれなくなったミィの気配に作戦の失敗を悟った俺は、だんごを模したメカニカルな衣装を手渡してきたアイリに文句を言うために駆けだした。
「ま、まさか子供に大人気のだんご戦隊主人公、クリス、ボブ、アベックのだんご三兄弟が効かないなんて……」
「どういう世界観なんだその作品!? ってか、ミィはああ見えて十六歳だぞ。子供向け作品は受けないんじゃないか?」
「え、十六歳だったんですか!?」
「知らなかったのかよ、お前……」
「ちなみにその衣装はクリスの死を悼む二人によって火葬され海に沈んだクリスの愛機、サクラダンゴ一号機です。海に沈んでいくサクラダンゴ一号機の最後の言葉に鼓舞されて、残された弟二人は兄の死を乗り越えるという感動話なんですが……」
「その流れ、俺が火葬されることでも期待してんのか?」
随分な曰く付きの衣装を着せてくれやがったなアイリ……。
ともかく、この作戦は失敗だ。どうして付き合ってしまったんだろうか、俺は。
「……なあ、ナオ」
「なんだよサトヤ」
「こういうのもなんだが、お前はどうしてミィを助けてやりたいんだ?」
「ああ、そうですよ! 別にミィちゃんのお兄ちゃんの代役でも問題はないと思うんですけど……」
「あー……」
うん、まあ確かに、あれは完全な俺のわがままだ。
ミィの兄貴の代役はしたくない。ミィのトラウマがどうとか、兄貴との思い出がどうとか、いろいろ理由はあるが……結局は、俺のわがままでしかない。
「手伝ってやるんだ。それぐらい教えてくれても構わねぇよな?」
「仕方ない。いいか、クソつまらなくて自分勝手な話だから、聞かなきゃよかったとかいうなよ!」
「ど、ドンときてください!」
胸を張って構えるアイリ。どんな話が出てきても、笑いはしないと言わんばかりの視線を向けてくるサトヤ。
二人のその態度に押されて、俺は昔の話を口にする――
「昔な、付き合ってたやつがいたんだ」
「えぇ!?」
俺の言葉に大声を出して驚愕したのはアイリだった。
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