TS剣神の徒然奇譚

くま

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序幕『人斬りの唄』

第1話 人斬りは地獄に逝かず

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 一人の男がいた。

 男は五つの頃には剣を握り、十を迎える前には人を斬っていた。

「この罪人! 浪人なりて辻に居座り、人来たらばその腰に佩いた刀抜き放ち、瞬く間に首を刎ねる鬼人なり!」
「ああ無残! かの辻に並びし躯は二十を超え、ついには野犬も近づかぬ死人の辻となり果てた!」
「どうか、ああどうか! この鬼人に裁きを! 大名様! どうか! どうか……夫の仇を!!」

 男は十五の齢には戦に加わり、二十を過ぎれば鬼人と呼ばるる。

「民の嘆き、しかと聞き届けた――我が命によって言い渡す! この者の首を刎ね、死人の辻にて亡骸を犬の餌としてやれ!」

 男が六十を過ぎる頃には、戦は終わり、世には太平が広がっていた。
 侍は剣ではなく筆を握り、女はめかしこみ夜道を歩く。
 そんな時代においても、その男は刀を握っていた。

 男にとって、生きることとは人を斬ることであり、男にはそれしか生きる方法を知らなかった。

「我が郎党五十人を壊滅せしめたその腕前、剣の神が宿っていたというほかない。場所さえ違えば歴史に名を遺す剣豪となっていたことだろう――故に、せめてもの情けである。最後の言葉を残すことを許してやろう。して、何か言い残すことはあるか、人斬り悟郎」

 男の名は『悟郎』。
 人呼んで『人斬り悟郎』。

「最後ねぇ……」

 今わの際、背後に迫る刃の風切り音を聞きながら、悟郎はこう言葉を残した。

「地獄の鬼ぃ、斬ってくるわ」

 かくして人斬り悟郎は首を断たれ、血に塗れた人生に幕を閉じる。

 ただし噂によれば、人斬り悟郎は地獄に行かず、どことも知れぬ異界へと落ちたそうな。

 流石の閻魔大王も、かの鬼人を受け入れるには、いささか荷が重かったのかもしれない。

 なにしろ人斬り悟郎の刃は、数千人もの命が滴る死の刃。常日頃から罪人を嬲る悪鬼すら、比べるには力不足というほどの剣鬼が地獄に居ては、彼らも顔が立たないというものだ。

 故に悟郎は異界へ落ちる。
 どこともしれぬその場所は、悟郎のいた世界とは全く異なる、まさしく異世界。

 肉体から解き放たれし悟郎の魂は、幽世を過ぎて遠い場所へ。
 輪廻転生の円環に従って、彼には新たなる生が与えられる。

 ただし――

「……ふんっ。どうやらここは地獄じゃないらしいな」

 小さな体、甲高い声、長く伸ばされた白い髪に、ひときわ大きな紅瞳。

 異世界に生まれ落ちてより五年。悟郎は生前の意識を取り戻す。
 ともすればここは地獄かと悟郎は思ったが、何か様子がおかしい。それもそのはず、ここは異世界であって地獄ではない。

 そのなによりもの証拠は、彼の――いや、の性別にあった。

「しかし……何故に俺は女の体になっているんだ?」

 人斬り悟郎。
 異世界の地にて、女として生まれ変わった。
 
 
 
 
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