異世界日記

メラン

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2日目(1)

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「起きて。」
不意に誰かに揺さぶられる感触がして目を覚ました。
目の前には見慣れない少女の顔が...
「起きた?」
「...誰?」
「寝ぼけてる?」
少女...ユナが首をかしげながらチョップの構えをとったので俺は慌てて起き上がった。
「ちゃんと起きた!だからその構えをやめて!」
「ならよかった。出発するから準備して。」
「出発...ってことはもう朝!?」
恐る恐るテントの外を見るとそれはもう綺麗な朝日が輝いていた。
「ごめん!夜番を変わるって言ったのに寝過ごした!」
焦る俺とは対照的にユナは何とも思ってい様子。
「私が起こさなかっただけだから気にしないで。」
「へ?なんで起こしてくれなかったの?」
「はっきり言うと邪魔だったから。慣れない人間に任せても安心して寝ることはできないだろうから徹夜した方がましだと判断した。」
「それは...。」
言い返したいけど、何も言い返せない。
そもそも、自分で替わると言っておきながら起こされなかっただけで朝までグッスリだった。
昨日俺のことを襲ったゴブリンみたいな明確な脅威がいる中でそんな人間にすべてを任せて眠るなんて俺だって無理だ。
「ごめん。」
「気にしなくていい。そもそも私は貴方の救助を依頼されてここにいる。最初から全部一人でやるつもりだったから問題はない。それどころか野営の準備をて手伝ってくれて助かったぐらい。もちろん撤収するのも手伝ってくれるよね?」
「全力で手伝わせていただきます!」
「よろしい。私は朝食の準備をしてるからテントの片づけをお願い。」
ユナはそう言ってそそくさとテントから出ていく。
その後ろ姿はなぜか機嫌がよさそうに見えた。
「いや、そんなわけないだろ。見捨てられないようにさっさと片付けてちょっとでも役に立つってところを見せなないと。」
自分の頬を叩いて眠気を覚ますついでに気合を入れて俺もテントから出た。
そしてテントの撤収に取り掛かり始めたわけだけど、一つ思い出してほしいことがある。
俺はつい先日まで一般的な学生だったわけだ。
それが唐突にこんな世界に迷い込んで半日ほど彷徨い歩いた挙句、ゴブリンに追われて全力で逃げ回ったわけだ。
一般的な学生、それもインドア派の人間がなんの準備もなしにそんなことをすれば何が起こるかというと....。
「あ゛あ゛ぁ゛。」
それはもう恐ろしいほどの筋肉痛に襲われるというわけだ。
少し体を動かすだけで全身に鈍い痛みが走るし、それを無視して無理に動かそうとしようものならこむら返りが起きそうになるわで地獄のような時間だった。
ユナも俺が役に立っていないことに対して罪悪感を覚えていることを知ってか撤収作業に手を出すことはなかったので仕事量も単純計算で2倍に増えて本当に死ぬかと思った。
「お疲れ様。」
野営道具の撤収が終わった後、俺はユナが用意してくれた朝食に舌鼓を打ちながら一息ついていた。
料理に使われている材料は干し肉などの保存食が中心ですごく美味しいというほどではない。
けど飲み物なんかは冷蔵庫から取り出したばかりと間違うほどにキンキンに冷えていて大仕事を終えた後の身としては生き返るような気分だ。
どうやらこれはユナが自身の魔法の力で冷やしたらしい。
容量が見た目以上にあって軽い鞄だったり、外で即座に飲み物をキンキンに冷やせる技術だったり本当に魔法は便利だ。
そしてそれを使える可能性が俺にもあるという。
今からでもギルドとやらに行って適正を見てもらうのが楽しみだ。
「そろそろ、出発しようか。ここからだと街まで大体3時間ぐらい歩くことになるけど大丈夫?」
「大丈夫....ではないけどそこまでいかないと何も始まらないから頑張る。」
「疲れたら休憩をとるから遠慮せずに言って。無理して途中で倒れられる方が迷惑だから。」
「了解しました!」
そこからは二度目の地獄の始まりだった。
自然の中のまともに整備されていない場所を歩いていくものだから普通に歩くよりもダメージは大きかったし、近くの茂みから少しでも音がするたびに昨日のゴブリンの姿が脳裏にちらついて飛び上がる羽目になった。
まあ、この辺りは比較的街に近いということもあって定期的に魔物の類は掃討されるから昼間に遭遇する可能性は限りなく低いらしく、実際に遭遇したのは小動物の類だけだったからすべては俺の独り相撲だったわけだけど。
そんなこんなで無駄に体力を削りつつ太陽が真上に来る頃、遠くの方に石造り壁が見えてきたところで一旦休憩をすることになった。
「あれが目的地。」
「あれが..。思ってたよりもでかいな。」
実際に見たことはないけど、万里の頂上と比べても遜色がないように見える。
「此処の壁は数年に一度起きるスタンピードに備えて特に頑丈に作ってある。」
「スタンピード?」
「魔物が大量発生する現象のこと。此処は不定期に魔物が大量発生して進行してくるの。」
「大量発生って具体的にはどれくらい来るんだ?」
「結構ばらつきがあるから一概には言えないけど、前に起きたときは1万ちょっとぐらいだったかな?」
「1万!?」
「それもゴブリンみたいな小さい魔物だけじゃなくてワイバーンなんかも交じってたとか。」
ワイバーンって確かドラゴンの小さい版みたいなやつだっけ?
あんなに壮大な壁になんの意味があるんだろうと思ったけどそんなものが定期的に襲ってくるなら必要だな。
「休憩はそろそろ終わり。此処からは平坦な道だからちょっとは楽になると思う。もうちょっとだから頑張って。」
「はーい。」
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