異世界日記

メラン

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2日目(3)

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異世界に来て初めて目にする街は思っていたよりも近代的だった。
建物はレンガ造りで道には一定間隔で街灯らしき物まである。
正直に言ってヨーロッパのどこかにある現代の街と言われても納得するほどだ。
唯一の違いと言えば道を走っているのが車ではなく馬車だというところか。
「やっと来た。」
不意に声をかけられたので振り返ると街を囲う壁に寄りかかるようにして立っているユナがいた。
どうやら待ってくれていたようだ。
「先に行ってるものだと思ってた。」
「私が依頼を受けて貴方のことを救助に行ってたの忘れたの?依頼を完了したことの証明のために貴方が必要だから待ってたの。そういうわけだから早速ギルドに行くよ。貴方も適正を見てもらいたいって言ってたから丁度いいでしょ?」
「確かに。案内頼む。」
「了解。」
俺はユナの案内に従って街の中を進みながら改めて街を観察する。
第一印象は現代の街とそれほど変わらないだったけど訂正しよう。
此処は確実に異世界の街だ。
街並み自体はそれほど変わらないけど露店で売っている野菜や果物なんかは全く見たことがないものだし、道行く人の中に明らかに普通ではない人が混じっている。
そう、頭から獣の耳が生えていたり背中から羽が生えている獣人が。
それだけではない。
分かりにくいけどよく見ると耳が尖ったエルフっぽい人までいる。
そんな人達が忙しなく行き来する様子はいかにも異世界の街って感じがする。
「気になるのは分かるけどあんまりキョロキョロしない。田舎者だと思われて変な奴に絡まれる。」
「あ、ごめん。」
ユナに指摘されて慌てて視線を前に向ける。
武器の携行が許された世界でチンピラに絡まれるとか想像しただけでも怖すぎる
「着いた。これがギルド。」
ユナが指さしたところに視線を向けるとそこには大きな盾に剣を立てかけたような見た目の看板を掲げた建物があった。
入口が西部劇に出てくる居酒屋のような両開きで上下がないタイプとなっていて中からは野太い男たちの騒ぐ声が聞こえてくる。
一般人学生の俺にはとても入りづらい。
躊躇う俺を他所にユナは扉を開けて入っていく。
ついて行かないわけにもいかないので俺も意を決してユナの後に続いた。
「「....」」
俺たちが入った瞬間、ギルド内は先ほどまでの騒ぎが嘘だったかのように静まり返る。
それを気にした様子もなくユナは堂々と受付らしきところまで歩いて行った。
そして入口で固まったままの俺に対して「何してるの?」と一言。
というかなんで受付の人も「いつものことですから」みたいな顔して落ち着いてるの!?
「いろいろとやることがあるんだからそんなところでボーっとしてないで早く来て。」
「あ、はい。」
ユナに声をかけられたことで一気に集まってくる周りの視線から逃れるように下を向きながらユナの元へと向かった。
「救助の依頼を受けられていたと思うのでが、その子が救助対象ですか?」
「そう。ついでに迷い人らしい。ガルドが手続きも済ませたから間違いはない。」
「迷い人ですか。」
迷い人と聞いた瞬間、受付の人の目が妖しい光を宿した気がする。
ただ、それ以上に何か言うわけでもなくすぐに俺から視線を外してユナの方に向き直った。
「救助対象に間違いがないか確認のために今から依頼主をお呼びします。近くに店を構えている方なのですぐに来られると思いますがお待ちになられますか?」
「眠いから帰る。報酬はまた次来た時にでも貰う。」
「承知いたしました。ではそのように。」
ユナは「それじゃ。」と言って話は終わったとばかりにギルドから出ていこうとしたので慌ててそれを引き留める。
「何?」
「いや、えっと...。色々とお世話になったからお礼を言おうと思ってさ。ユナが居なかったら多分あそこで何もわからないまま野垂れ死にしてたと思う。」
「....私は依頼されたことを全うしたまで。お礼なら依頼主の人に言って。」
「もちろんそのつもりだけど、依頼だったとしても実際に助けてくれたのはユナだから。本当にありがとう。」
ユナは無言で頷いてから振り向きざまに手を振りながらギルドを出て行った。
動作はカッコいいけど、如何せん見た目が魔女のコスプレをした女の子だから全く様になってない。
「さて、貴方には依頼者が来るまで待ってもらうことになりますけど大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ところで、ユナからギルドで魔法の素質を調べてもらえるって聞いたんですけど本当ですか?」
「できますよ。依頼者の方を待っている間に調べますか?」
「ぜひ!!」
「ふふ。では、道具がある部屋まで案内しますのでついてきてください。」
あまりのテンションの高さに笑われてしまった。
でも、しょうがないと思う。
なんたって誰もが一度は憧れて成長するにつれて諦めることになる魔法を使えるかどうかが判明するんだから。
なお、使えなかった場合のことは全く考えていない。
こういう時はダメなほうの可能性については無視するに限る。
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