異世界日記

メラン

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3日目(1)

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「.....おはようございます。」
結局、晩御飯の時間に目を覚ますことなくグッスリとだった俺は窓から差し込んだ朝の陽ざしに起こされてご飯の時間をすっぽかした気まずさを抱えながら恐る恐る宿の食堂へと顔を出した。
「おはよう。昨日はよく眠れたみたいだね?」
「うっ、すいません。今後はすっぽかしたりしないように気を付けるので許してください。」
「はん。次はないからね。朝食の用意はできているからさっさと食べちまいな。」
「はーい。」
宿の女将であるアデラさんに促されて俺は席に着いた。
食堂にいるのは俺とアデラさん以外だと2組だけ。
まあ、昨日早くに寝てしまった分少し早めに来たからこんなもんかな?
「はいよ。今日の朝食だよ。終わったらそこのカウンターまで持っておいで。ついでに体を拭くためのお湯とタオルを渡してあげるから。」
「お湯とタオルって....お風呂はないんですか?」
「なに言ってるんだい!あんな高い設備があるわけないじゃないか!入りたいなら近くに銭湯があるからそこまで行っておいで!」
そういって不機嫌そうに去っていくアデラさんに謝罪の念を送りつつ俺は配膳された朝食に手をつける。
特に異世界だからと言って特殊な料理が出てくるわけでもなくトーストにカリカリに焼かれたベーコンと目玉焼きを中心に小皿に盛られたサラダとコンソメスープという普通の朝食だ。
この世界に来てからユナに貰った保存食中心の料理以外では初めての食事だけど、普通のもので安心できたようなちょっと残念なような。
でも、お風呂があるというのを知れたのはちょっとうれしい。
やっぱり日本人に生まれたからには風呂は必須と言ってもいいものだからな。
この世界に来てからすでに2日も風呂に入れてないから今から朝風呂に行くのも魅力的だけど、着替えもないしギルドに行く予定もある。
とりあえずはアデラさんが用意してくれるというお湯で体を拭いてお楽しみは夜までとっておこう。
「食べ終わりました。お湯をお願いします。」
「はいよ。」
アデラさんからお湯とタオルを受け取ってしっかりと体を綺麗にしてから宿を出てギルドに向かった。
昨日ぶりに訪れたギルドは朝が早いということもあって昨日の騒がしさが嘘のように静まり返っていた。
唯一併設された酒場で酔いつぶれている人たちが昨日の騒がしさが現実のことだったのを物語っている。
「あ、おはようございます。早いですね。」
ギルドに入ってその様子に困惑する俺に気付いたミルアさんが声をかけてくれたのでこれ幸いとばかりにミルアさんがいる受付まで移動する。
「おはようございます。魔法を使えるようになると思ったら気がはやっちゃって。」
「ふふ。本当に魔法が使いたいんですね。でも、魔法よりも冒険者の登録と説明が先です。」
「ええー。」
「そんな顔しないでください。すぐに終わりますから。」
ミルアさんはそう言って見覚えのある手のひらサイズの水晶を取り出した。
「これって迷い人かどうかを判別する道具ですよね?街に入ると時に一回やったんですけどまたやるんですか?」
「見た目は似ていますけどこれは個人の魔力を読み取ってカードに転写する魔術道具で迷い人を判別するための別物ですよ。ただ使い方は同じなので水晶に触れてください。」
ミルアさんに促されてお俺は水晶に触れた。
結果、淡い光と若干の温もりを感じただけで特に目新しいことが起こることはなかった。
「もういいですよ。」
ミルアさんそう言って俺に手を離させた後カードのようなものを代わりに水晶に押し当てる。
すると水晶は俺が手を当てた時と同じように淡く光放った。
「これで登録は完了ですこれは貴方が冒険者である証明書なります。」
ミルアさんから渡されたカードを受け取って確認してみる。
金属っぽい材質で証明書という割に特に何か書かれているわけでもない。
「そのカードには貴方の魔力が登録されていて専用の道具で読み取れば本人確認ができるようになってます。悪用されるということはほぼありませんが、再登録となると結構な金額がかかってきますのでなくさないように気を付けてくださいね?」
「わかりました。」
「次はギルドの説明に入らせていただきます。」
そう言ってミルアさんの説明が始まった。
昨日カルヴィンさんから聞いた話と一部重複するけど要約すると以下の通り。
1.冒険者とは凶悪な魔物の討伐や錬金術に使う素材の採取に始まり街の掃除などの雑用まで、依頼があればどんなことでも請け負うなんでも屋のような職業である。
2.その冒険者を取りまとめて依頼人との仲介や依頼を行う上で事前の情報収集などの必要なサポートを行う役割を担うのが冒険者ギルドである。
3.冒険者にはF~Aまでのランクがある。ランクは普段の依頼の達成度などを元にギルド側が決め、このランクによって受けられる依頼が変わってくる。
4.依頼は掲示板に張り付けられているので自分に合ったものを選んで受付で手続きをすること。基本的には早いもの勝ちである。
「稀にランクの高さで強さを判別して他人を見下すような輩も居ますが、ランクはあくまで普段の依頼達成度に基づいたギルド側からの信頼度なのでそのあたりは勘違いしないでくださいね?」
「了解です。ちなみにCランクになるのってどれくらい難しいんですか?」
「Cランクですか?基準としては半年の間に受けた依頼の数が50件以上且つ達成割合8割以上といったところです。あっ、因みにですけどユナはこの半年で100件弱の依頼を受けてその全てを問題なく達成しています。」
「凄っ!って、明らかにさっき言ったCランクの条件を上回っているのに何でCランクのままなんですか?Bランクに上がるための条件がもっと厳しかったり?」
「いえ、これに関しても昨日お伝えしたあの子の種族が関係してます。何度も上層部に直訴しているのですが....。」
ミルアさんは悔しそうな表情を浮かべる。
どうやら種族問題は俺が思っている以上に根深いようだ。
「貴方も迷い人兼闇魔法の使い手ということで不愉快な思いをすることがあると思います。もし何かありましたらすぐに相談してくださいね。幸いなことに貴方は契約を結んでいるので上層部もあの子に対するものよりもまともな対応をしてくれると思いますので。」
「それは良かったです。まあ、ユナのことを考えると手放しに喜べないですけどね。」
「それに関しては本人もある程度は納得しているので必要以上に気にしないで上げてください。まあ、私が言っても説得力はないと思いますけど。できるだけ普通に接してあげてください。それがあの子にとっては一番だと思いますから。」
「もちろんです。」
ユナの種族がこの世界で恐れられている種族だったとしても異世界から来た俺には全く関係のないこと。
それにこの世界に来たばかりの俺を依頼だったとは言え助けてくれた命の恩人だ。
そんな相手を何かされたわけでもないのに怖がるなんて人間としてどうかと思う。
「さ、こんな暗い話は辞めて明るい話をしましょう!説明と登録が終わったということは....分かりますよね?」
「やっと魔法が使えるんですね!」
「そういうことです。訓練場所に案内しますのでついてきてください。」
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