きっとこの世はニャンだふる♪

Ete

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放浪の末

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お日様が顔を出す頃。
俺は草むらの中をテコテコと歩いた。
よく考えたら、朝ごはん食べてから出ればよかった。
カッコばっかりつけて、バカだった。

旅に出ると言っても、行く宛があるわけではない。
とは言え、人間だった頃に住んでいた場所だから、かなり広い範囲で知っているから道に迷う事はない。
そこだけは大丈夫。


せっかくだから俺とチャチャの母親を探してみようか。

実家の集落に猫は居るが、みんな去勢なり、避妊の手術を受けている。
だから仔猫がいるとなれば、誰かが捨てたか、野良猫が産み落としたかのどちらかで間違いない。

一ヶ所だけ思い当たる場所がある。
国道沿いにある、あの製材所。
そこは住宅兼で、猫をたくさん飼っている。
みんな放し飼いで、野良なのか飼われているのか分からない。
運転中に国道に出て来てびっくりした事もある。
実際に轢かれて死んでいた事もあったが、飼い主はさほど可哀想とも思わない様子。
もちろん去勢などしてなくて、よくあちこちから猫が来て困ると批判されていた。
親がいるとしたらあそこしかないとみた!

俺はその製材所を目指して歩き出した。

家を出てから途中、竹藪沿いにある家の飼い猫が玄関に座っていた。
グレーの雑種でかなりのおばあちゃん猫。

「あんた、見かけない顔だねぇ」
おばあちゃん猫が話しかけて来る。
「ああ、初めまして。ちょっと旅をしてまして」
俺は丁寧に挨拶を返した。
「気をつけな。ここいらの人は猫嫌いも多い。保健所に連れて行かれないようになぁ」
「ありがとうございます」

チャチャ以外の猫と初めて喋った。
太々しい顔をしている猫だけど、意外に優しかったな。
人は…いや猫も見た目で判断しちゃ悪い。

車道を歩けば早いのに、何故か猫ってやつは、狭くて人から見つからない場所に行きたがる生き物だ。
体のあちこちに草の実が付く。
くそ!風呂に入りたい!
いや猫だから後で舐めときゃいいか。

太陽が真上に来た頃。
俺は目的地の裏側近くまでやって来た。
裏側と言っても、間に田んぼと線路があって、その向こうが製材所。
煙突からはもくもくと煙が出ている。
今行くと、人が居るなぁ。

俺はあちこち移動しながら暗くなるのを待つことにした。

トカゲがいれば尻尾を掴んで遊ぶ。
草がサワサワ動くと構いたくなる。
時々日陰を求めて車の下に潜り込む。
蛇やカエルに何度出会ったことか。

やれやれ、猫も大変だわ。

そうこうしているうちに陽が沈んできた。
従業員の車が次々出ていく。
って事は今が6時前後。
そろそろ行ってみるか。

俺は姿勢を低くして線路を渡り、建物の裏にあった材木の隙間に入り込んで、こっそり様子を伺う。

いるいる。
建物の中程の広い場所。
猫がいっぱい‼︎
これって猫集会ってやつか?

色んな毛色がいるなぁ。
俺が黒で、チャチャが茶トラ。
って事は親のどっちかが黒で、どっちかが茶トラの可能性が高い。
白黒…茶色…三毛…と、白も居るなぁ。

グレーのシマシマ…あ、黒がいる⁉︎
痩せてるけど…尻尾も長い。
雄か雌かは分からないけど、これは親で間違いなさそうだ。

その斜め向こう…に太った茶トラ…。
手を中に入れ込んで、どでん!と座り込んでいる。
顔つきもどこかチャチャに似てる。
もしかしてこっちが母親か?

俺は自分の親と思われる猫たちを見てドキドキしてきた。
まだ決まった訳ではない。
でも多分間違いない。

俺は見ることに夢中になって、自分が前に前にと出ていたことに気が付かなかった。

「誰だ⁉︎」
三毛猫が叫ぶ。

「やべっ‼︎見つかった!」
どうしよう。
どう誤魔化したらいい⁉︎

「あ、その…通りすがりの猫です…」
何言ってんだ俺。

「通りすがりダァ?ここは俺らのシマだ。よそモンは入って来るんじゃねぇ!」
見た目可愛い三毛猫さん、ドスの効いたオッサンのようだ。

「す、すいません。今出ていきます!」
俺は引き返そうとして、うっかり後ろを見せてしまった。

「シャーーーッ‼︎」
「ウゥウウウウウ‼︎」
「フゥーーーーーーッ‼︎」
猫たちが一斉に唸り出し、そのうちの1匹、白猫がいきなり飛びかかってきた‼︎

「ギャーーーーッ‼︎」
突然のことに俺はびっくりして、大声を出した。
相手は本気でかかって来る‼︎
やばい‼︎
俺も負けじと蹴りを入れた。
他の猫も参戦してきて揉みくちゃになった。
背中を引っ掻かれ、激痛が走る。

とにかく逃げなくちゃ‼︎
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