追放された少年は『スキル共有スキル』で仲間と共に最強冒険者を目指す

散士

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ルフェールへの道中2

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 出発して三日目。この日も大きなトラブルはなかった。特筆すべき事柄といえば、今日もシェルバッファローと戦闘があった事くらいだろう。今回はデボラが魔術で対処した。

 そして四日目。この日も大きなトラブルはなく過ぎようとしていた。しかし、夕刻になって一行は街道上に意外なものを目にする。人影だ。

 いや、人間と出会う事自体は珍しくはない。今回の移動でも、他の商隊キャラバンや冒険者パーティと何度かすれ違った。だが、今目の前にいる人影はひとりだ。近くに街も村もないこのような場所でひとりきり…何か訳ありの相手に違いない。

 近付けば、その人物のシルエットがはっきりと見て取れた。とはいっても、フード付きのローブのようなものを身に着けており、その顔立ちはよく分からない。

(魔術師、いや…)

 ルカはその人物を観察する。一見すると魔術師の着るローブ風の衣装だが、そんな上等なものではなかった。安い布を繋ぎ合わせローブ風の衣装にしているだけのようだ。その下の顔がちらりと見える。

(女の人…?)

 ローブから覗いたのは、凛々しい顔立ちの女性の顔。年齢は二十歳前後といった所。

 ルカはいささか驚いた。人影が男だと思い込んでいたためだ。その理由は、こんな場所に女性がひとりでいるはずはないという思い込みが第一。第二の理由は、その人物の身長だ。その女性は、明らかに平均的な男性の身長を越えていた。女性としてはまれな高身長だ。

 商隊《キャラバン》が不審に思っていると、人影の方から声をかけてきた。

「すまない、頼みたい事があるのだが」

 凛とした美しい声だ。やはり、人影は女性らしい。

「…何かな?」

 隊長であるジムケが馬車の中から答える。ルカは、万一の場合にすぐに動けるよう一歩前へ出た。

「道に迷ってしまった。もし良ければ同行させていただきたい。無論、謝礼は払う」

 そんな女性の言葉に真っ先に反応したのは、ドナルドだった。

「道に迷っただあ?」

「ああ」

「おいおい、近くに人里もないこんな場所で道に迷ったって言ってんのか?」

「…?人里がないからこそ、迷って困っているのだが…」

「そういう事言ってんじゃねえ!」

 ドナルドが剣のつかに手をかけた。いつでも抜剣できる体制だ。

「そもそも、なんでこんな人気ひとけのない場所にひとりで来たんだ?迷う、迷わない以前に、こんな場所に人がいるのがおかしいって言ってんだ!…てめえ、何者なにもんだ?」

「私は…」

 女性は、少し迷った後に答えた。

「私は、冒険者だ」

 そう言って、女性はローブの袖をめくり冒険者の腕輪を見せる。

「ランクは?」

「Fランクだ」

「Fランクう?」

 ドナルドは顔をしかめる。街道とはいえ、時にはEランクやDランクの魔物モンスターが出没する事がある。Fランク冒険者が単独で移動するのには危険が大きかった。彼の中で、女性に対する不信感が強まった。

「なんでFランク冒険者がこんな所に…あー、いや、いい。これ以上無駄話をするつもりはねえ」

 ドナルドは、女性を追い払うように手を振った。

「なんにしても、同行者を増やすつもりはねえ。てめえひとりでなんとかしろ」

「…そうか。失礼した」

 そう言って女性は立ち去ろうとする。そこでルカが声をあげた。

「あの…別にもうひとりくらい同行者が増えてもいいんじゃないですか」

「あん?」

 ドナルドがルカを睨む。

「こんな得体の知れねえ奴を同行させてもリスクが増えるだけだろうが。こいつが盗賊で、俺たちの寝首をかいて積み荷を奪うつもりだったらどうすんだ!」

「その可能性は低いと思います。もし盗賊なら、持ち運びに便利な貴金属を扱う商隊キャラバンを狙うはずです。僕らの商隊キャラバンが扱っているのは、かさばるものばかり…それは遠目からでも分かるはず。ひとりで盗賊行為を働いても、積み荷をさばくのが大変で…」

「こいつの他に仲間がいるかもしれねえだろうが!」

「この辺りで大規模な窃盗団が出没したという情報はありません。その可能性は低いはずです。もちろん、ドナルドさんの言っている事が正しい可能性もあります。でも、いきなり追い払うのはよくないんじゃないかと思うんです。冒険者ギルド規則第三項にも、冒険者は互いに助け合うべしと…」

「うるっせえよ!」

 ドナルドが吠えた。理屈としては、ルカの方が筋が通っている。それが逆にドナルドをイラつかせたのだ。

「てめえ!俺に喧嘩売ってんのか!?てめえはFランク、俺はDランク。どっちが上か分かってんのか?ああ!?」

 その剣幕にルカは一瞬たじろぎそうになる。しかし、彼は譲らない。

「…どっちが上かは関係ないはずです。何故なら、この女性を同行させるかどうかを決めるのは…僕でもドナルドさんでもないからです」

 ルカは視線を移した。ドナルドもまた、そちらへ顔を向ける。やや腹の出た老人…ジムケの方へ。

 ドナルドは勝手に話を進めようとしたが、彼はあくまで護衛でしかない。この場の決定権は、商隊キャラバンの隊長であるジムケにあるのだ。ジムケは、ルカ、ドナルド、そして女性をそれぞれ見比べた後、口を開いた。

「そこなお方。確か先ほど、『謝礼は払う』とおっしゃられていたが…いくら程お支払いいただけるのかな」

「あいにくと今は持ち合わせがありません。ですが、金銭の代わりにこれを」

 そう言って、女性は懐から何かを取り出した。それをルカが受け取りドナルドへ渡す。

(ナイフ…?)

 それは、豪奢な鞘に包まれたナイフだった。刃渡り10cm程度の小さなものだ。ナイフの持ち手には宝石が埋め込まれている。

 ジムケはまず鞘を、続いてナイフをしげしげと眺める。そして、

「うむ」

 と頷く。

「素晴らしい出来栄え。なかなかの逸品とお見受けした。売れば100万Krクローナはするであろうのう。…本当に、同行するだけでこのナイフを受け取っても良いのかの?」

「勿論です」

「あいわかった。同行を許可しよう」

「なっ…!ジイさん、こんな怪しい奴の事を信じるのか!?そのナイフだって、盗品かもしれねえんだぞ!?」

 ドナルドが不快そうに顔を歪めた。

「ワシは商人じゃからのう。目の前に利があってそれを放っておく事はできぬ」

「だがな、ジイさん!」

「ドナルド殿。この商隊キャラバンの隊長は誰じゃ?」

「…チッ!」

 ドナルドは不服さを露わにしつつも、これ以上雇い主に逆らう事はなかった。舌打ちした後、拗ねるように女性に背を向けた。

「と、いう事でな。ルフェールの街へ到着するまであと数日の日程じゃが、どうかよろしく頼むわい」

「不躾な頼みを聞いていただき感謝します。こちらこそ、どうかよろしくお願いします」

 ローブの女性は自らの左胸に自身の右手を添えジムケに礼を述べた。まるで貴族のような挨拶だ。

「それと、申し遅れました。私の名は…アレクシア。腕に自信はあるので、戦闘となればお力添えいたします」

 その言葉を聞き、ドナルドが小さく呟いた。

「けっ…Fランク如きが、腕に自信があるだと…」

 ドナルドは相変わらず不満そうだったが、こうして商隊キャラバンに新たな同行者が加わる事となった。
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