追放された少年は『スキル共有スキル』で仲間と共に最強冒険者を目指す

散士

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ルフェールへの道中4

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 六日目。この日は、午後から森の中を進む事となった。木々がまばらで、あまり規模の大きくない森だ。森と言うよりも大きめの林と言った方が相応しいかもしれない。中央には街道が通っているため、迷う心配もない。

 森の中を進んでいると、ぶぅん…という羽音を立てて数匹の羽虫が近付いてきた。虫はドナルドの事が気に入ったのか彼にまとわりつく。

「ちっ…!虫…いや、魔物モンスターか!うざってえ!」

 ドナルドにまとわりついているのは、マジック・モスキート。蚊の魔物モンスターだ。一般的な蚊と違うのは、血ではなく魔力を吸い取るという事。もっとも、大した量の魔力を吸い取る訳ではない。普通の蚊に血を吸われて失血死する事がないように、この蚊に魔力を吸い取られたとしてもそれが魔力の枯渇に繋がる事はない。それ故に、マジックモスキートのランクは全魔物モンスター中最低のF-。危険度は極めて低い。

 しかしこの魔物モンスター、ひとつ厄介な性質を持っている。マジック・モスキートは通常の蚊と同じく極細の針を皮膚に刺して魔力を吸い上げるのだが、刺された後の痒みが非常に強いのだ。刺された経験を持つ者によると、通常の蚊の5~10倍の痒みだという。それ故、直接的な危険度は低いにも関わらず冒険者には忌み嫌われている。

「くそっ…こっち来んじゃねえ!

 ドナルドが手を振ってマジック・モスキートを追い払おうとするが、彼の周りを飛び回って離れない。

「ちょっとじっとしてて。…炎よ、わがたなごころの上に『ハンド・フレイム』」

 デボラがドナルドの前で手をかざし、詠唱を行う。初伝レベル1炎属性攻撃魔術、『ハンド・フレイム』。彼女の掌から小さな炎が立ち昇る。その炎がマジック・モスキートを焦がした。羽を焼かれた虫たちは地面に落ちる。

「熱っ!あちっ…!おいババア!俺まで焼けてんじゃねえか!」

 だが、虫を焼くと同時にドナルドの体にも熱気が伝わってしまったようだ。見えれば、彼の前髪が焦げてチリチリになっている。

「仕方ないでしょ。私は炎属性の攻撃魔術しか使えないんだから…」

 ドナルドのために魔術を行使したのにも関わらず逆上され、あまつさえババア呼ばわり…デボラはあからさまに不機嫌な表情を浮かべる。と、そこにまたマジック・モスキートの一団がやってきた。今度はデボラにまとわりつく。

「もう…!」

 追い払おうと手を振るデボラ。しかし、やはり虫は離れない。

「へっ…また炎魔術でも使って自分の顔でも焼きやがれ」

 そんな減らず口を叩き、デボラの虫を払おうともしないドナルド。それを見かねて、ルカがデボラに近付いた。

「デボラさん、目と口を閉じて…それと念のため、耳も塞いでもらっていいですか?」

「え…?こ、こう?」

 とまどいながらもデボラはルカの言葉に従った。ルカは詠唱を行う。

「風よ、我が敵を撃て『ウィンド・ショック』」

 風系初伝レベル1攻撃魔術、『ウィンド・ショック』。突風が吹き抜け、虫たちが吹き飛ばされる。風が吹いた瞬間、その風圧にデボラは「んっ…」と顔をしかめたが肉体的なダメージはない。

「大丈夫でしたか?」

 ルカはデボラの顔を覗き込む。

「ありがとう、助かったわ。あんた、風系統の攻撃魔術が使えるのね」

「はい、一応基本属性は全て使えます。と言っても、全部初伝レベル1ですけど」

「へえ…」

 デボラは目を見張る。ルカが魔術の初伝レベル1だという事は知っていたが、使える攻撃魔術はひとつの属性だけだと思い込んでいたからだ。

「しかし、こう虫が多いと難儀じゃのう。まだマジック・モスキートの出る時期ではないと思っておったから、虫よけも用意しとらんぞ」

 ジムケが愚痴を零した。視線を向ければ、彼の周囲にも二、三匹程の虫がまとわりついている。

「…ちょっと待ってもらってもいいですか?」

 そう言うと、ルカは街道の端まで行ってしゃがんだ。しばらくそこで何かしていたようだが、すぐに立ち上がる。彼の手には植物の葉が数枚握られていた。

「炎よ、わがたなごころの上に『ハンド・フレイム』」

 詠唱を行い、掌の上に炎を発生させる。その炎が届くか届かないかの所に植物の葉をかざした。

「…?何をしているんだい?」

 今まで成り行きを見守っていたアレクシアが不思議そうに問いかける。

「乾燥させてるんです。本当は天日に干して時間をかけた方がいいんですけど。…ひとまず、これくらいでいいかな」

 葉が乾燥し、ほんのり茶色く焦げた所で…葉の先端を炎に接触させる。葉に火が燃え移る。が、ふっと息を吹きかけ炎を消した。しかし、炎が消えても無炎燃焼が続いているようで葉は煙を立ち昇らせている。

「んんぅ?…この香りは…」

 ジムケがふんふんと鼻を鳴らした。

「虫除け香の香りに似ておるのう…」

「はい。僕が今拾って集めたのはタリスミントの葉です。この葉は虫除け香の原料のひとつなんです。本当は、時間をかけて乾かして他の原料と合わせた方がいいんですけど…これだけでも効果があるはずです」

 その言葉の通り、ジムケの方へ煙が流れると虫は離れていった。

「ほう…これはいい」

 ジムケの顔が綻ぶ。

「確か、積み荷の中に香炉があったはずじゃな。その中にこの草を入れて焚こう。さすれば、虫も寄ってこんじゃろうて」

「へい」

 ジムケに指示され隊員が積み荷の中から香炉を探しはじめた。

「君…凄いな」

 アレクシアがルカを見ながら感嘆の声をあげた。

「若いのに剣術も魔術も使えて、冒険に必要な知識もある。私などは戦う事しかできないから、君を見ていると自分の事が恥ずかしくなってしまうよ」

「そんな事ありません。剣術も魔術も初伝ですし…」

「いや、あたしも大したものだと思うよ」

 謙遜するルカに、今度はデボラが言った。

初伝レベル1だって言うからあたしも見くびってたけど…その歳で複数の属性を扱える子は、なかなかいないよ」

 そう言って、ルカの左腕を取って体を寄せた。そして顔を近付け微笑んで見せる。

「おいババアてめえ!」

 その様子を見てドナルドが声を荒げた。

「ガキに色目使ってんじゃねえ!」

「あら、そんなに怒らなくてもいいじゃない」

 デボラは聞く耳を持たない。それどころかアレクシアに視線を向け、

「ほら、あんたもぎゅってしてやりなよ」

 と言った。

「こう…だろうか?」

 デボラに指示され、アレクシアはルカの右腕を取り体を寄せた。

 ルカの左にデボラ。右にアレクシア。左右を挟まれる形になる。

 デボラは黒々とした瞳やなめまかしい肌がエキゾチックな魅力を放っている。難点をあげるとすれば、化粧が濃すぎる事だろうか。

 対するアレクシア。ゆったりとしたローブを纏っているため分かり辛いが、豊かな胸と肉付きのいい尻を持っている。それでいて、ウエストは細く縊れており脚もスラリと長い。

「あ、あの…えっと…」

 二人の女性に左右を囲まれ、ルカは体を固くする。特に、アレクシアとは身長差があるためその豊かな胸が顔の位置に来る形になってしまう。体を寄せられているため、その胸が顔に触れそうになり…思わず顔を赤らめた。

「えっと、その…なんで、二人とも僕の腕を…?」

「なんでって言われてもねえ。頼れる男を見たら、くっつきたくなるのが女のさがってもんさ。それとも、あんたは嫌かい?あたしはともかく、アレクシアちゃんみたいなピチピチの美人にくっつかれるのはさ」

 デボラが悪戯っぽい声音で言った。

「いえ、い、嫌とかじゃないですけど…」

 正直、居心地の悪さを感じるルカだったが…さすがに嫌とは言えず、そんな風に答えてしまう。

「ジムケ隊長、荷馬車に香炉を取り付けました。これで羽虫も寄って来ねえでしょう」

「おう、ご苦労」

 隊員の言葉にジムケが答えた。

「それでは進むとするかの」

 隊長、ジムケの指示で一行は再び進み始める。

 しばらくの間、ルカは左右を女性に挟まれたままの移動を余儀なくされる。ドナルドだけはしかめっ面だったが、ジムケは、

「若いというのはいいもんじゃのう。うむうむ、これぞ青春よ」

 などと言ってニコニコしながら、ルカとその左右にはべる女性たちの様子を眺めていた。
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