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一回戦第一試合4
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試合場ではザビノの攻撃が続いていた。ルカはそれを捌きつつ、内心は違和感に支配されていた。
(この人の攻撃が…遅く感じる)
ザビノの繰り出す斬撃、それがあまりにも――遅いのだ。単純に剣を振り下ろす速度が遅いというだけではない。剣を振る前に大きく後ろへ振りかぶるからその分余計に時間がかかるし、予備動作のおかげで回避も用意だ。
それに加え、ルカはここ数日間ずっとアレクシアと稽古を行っていた。奥伝剣士である彼女に比べれば、ザビノの斬撃はまるでスローモーションだ。
「クソッ…リスみてえに逃げ回りやがって…ハァ…ハァ…」
ザビノが頬の汗を拭う。度重なる攻撃で、彼はもう息切れしかけていた。あまりにも早い疲労だ。
その様子を観客席で伺うアレクシアが呟く。
「やはり、剣士ではなかったか…」
「ん?剣士じゃない?そりゃあザビノは流派剣術は学んでないけど、その剣で何人も人を殺してきた奴だよ?剣士って言ってもいいんじゃない?」
レームが不思議そうに小首を傾げた。
「確かに、流派剣術を学ばず我流で強い人物もいます。ですが…ザビノ・リデロは違う。私の見た限り、この人物の剣は…剣士の剣ではない」
「というと?」
「ただ、力任せに剣を振るうだけ。そんなものは剣術ではない。今まで人を殺してきたというのも、おそらく無抵抗な素人相手だったのでしょう」
アレクシアの予想は当たっていた。ザビノは今まで、時に人を傷つけ時に命を奪ってきた。だがそれはあくまで素人相手の話。ようは弱い者いじめを繰り返してきたに過ぎないのだ。
「それで自分は強いと勘違いしたのだろうが…剣術とは、それ程甘いものではない」
大切な何かを守るため。尊い何かを手に入れるため。そのために切磋琢磨するのが剣士だ。少なくともアレクシアはそう信じている。だが…ザビノは違う。
試合場ザビノは、怒りと疲労に表情を歪ませながらルカに剣を振り続ける。どうして自分の攻撃が当たらないのか、その理由が分からない。
「くっそ…この…ガキが…ぁ。いい加減に…!」
「――今まで、5名ほど人を殺してきたと言ってましたね」
ルカが口を開いた。
「ああ?それがどうしたよ!?」
「その殺した相手というのは、剣士だったんですか?」
「剣士じゃねえよ。年取ったババアと、お前みてえなガキと、女と、あとは――」
そこまで答えた所で、ザビノが剣を振り下ろしつつルカに飛び掛かった。残る体力を振り絞った、全身全霊の奇襲。
だが…ルカにとっては、あまりにも遅すぎた。
――キン。
硬質な金属同士が触れ合う音が響く。そして次の瞬間には、ザビノの剣は宙を待っていた。アルトゥース流初伝剣技、『絡み落とし』。
「なんだぁ!?クソッ…」
ザビノは慌てて副武装のナイフを懐から取り出そうとする。しかし――、
「うっ…」
気が付けば、ルカの剣が喉元に突きつけられていた。あと僅かでも少年が踏み込めばザビノの喉が貫かれる距離。
試合場には自動回復の魔術がかけられているため、喉を貫かれた所で死ぬ事はない。だが…苦痛は感じる。喉を貫かれる痛み、気道に血が溢れ呼吸できなくなる苦しみ。少なくともそれらを味わう事になる。いわば、疑似的な死を一度体験するという事だ。ザビノの顔からサッと血の気が引いた。
「…どうしますか?」
少年が問いかける。
「まだ、続けますか?」
「…こ、降伏…する…」
そう言って、ザビノは手を上げた。審判が勝負ありを告げる。と同時にルカは剣を引き、ザビノは腰が抜けたようにその場にへたり込んだ。
一回戦第一試合ルカ・ハークレイvsザビノ・リデロ…勝者ルカ・ハークレイ
(この人の攻撃が…遅く感じる)
ザビノの繰り出す斬撃、それがあまりにも――遅いのだ。単純に剣を振り下ろす速度が遅いというだけではない。剣を振る前に大きく後ろへ振りかぶるからその分余計に時間がかかるし、予備動作のおかげで回避も用意だ。
それに加え、ルカはここ数日間ずっとアレクシアと稽古を行っていた。奥伝剣士である彼女に比べれば、ザビノの斬撃はまるでスローモーションだ。
「クソッ…リスみてえに逃げ回りやがって…ハァ…ハァ…」
ザビノが頬の汗を拭う。度重なる攻撃で、彼はもう息切れしかけていた。あまりにも早い疲労だ。
その様子を観客席で伺うアレクシアが呟く。
「やはり、剣士ではなかったか…」
「ん?剣士じゃない?そりゃあザビノは流派剣術は学んでないけど、その剣で何人も人を殺してきた奴だよ?剣士って言ってもいいんじゃない?」
レームが不思議そうに小首を傾げた。
「確かに、流派剣術を学ばず我流で強い人物もいます。ですが…ザビノ・リデロは違う。私の見た限り、この人物の剣は…剣士の剣ではない」
「というと?」
「ただ、力任せに剣を振るうだけ。そんなものは剣術ではない。今まで人を殺してきたというのも、おそらく無抵抗な素人相手だったのでしょう」
アレクシアの予想は当たっていた。ザビノは今まで、時に人を傷つけ時に命を奪ってきた。だがそれはあくまで素人相手の話。ようは弱い者いじめを繰り返してきたに過ぎないのだ。
「それで自分は強いと勘違いしたのだろうが…剣術とは、それ程甘いものではない」
大切な何かを守るため。尊い何かを手に入れるため。そのために切磋琢磨するのが剣士だ。少なくともアレクシアはそう信じている。だが…ザビノは違う。
試合場ザビノは、怒りと疲労に表情を歪ませながらルカに剣を振り続ける。どうして自分の攻撃が当たらないのか、その理由が分からない。
「くっそ…この…ガキが…ぁ。いい加減に…!」
「――今まで、5名ほど人を殺してきたと言ってましたね」
ルカが口を開いた。
「ああ?それがどうしたよ!?」
「その殺した相手というのは、剣士だったんですか?」
「剣士じゃねえよ。年取ったババアと、お前みてえなガキと、女と、あとは――」
そこまで答えた所で、ザビノが剣を振り下ろしつつルカに飛び掛かった。残る体力を振り絞った、全身全霊の奇襲。
だが…ルカにとっては、あまりにも遅すぎた。
――キン。
硬質な金属同士が触れ合う音が響く。そして次の瞬間には、ザビノの剣は宙を待っていた。アルトゥース流初伝剣技、『絡み落とし』。
「なんだぁ!?クソッ…」
ザビノは慌てて副武装のナイフを懐から取り出そうとする。しかし――、
「うっ…」
気が付けば、ルカの剣が喉元に突きつけられていた。あと僅かでも少年が踏み込めばザビノの喉が貫かれる距離。
試合場には自動回復の魔術がかけられているため、喉を貫かれた所で死ぬ事はない。だが…苦痛は感じる。喉を貫かれる痛み、気道に血が溢れ呼吸できなくなる苦しみ。少なくともそれらを味わう事になる。いわば、疑似的な死を一度体験するという事だ。ザビノの顔からサッと血の気が引いた。
「…どうしますか?」
少年が問いかける。
「まだ、続けますか?」
「…こ、降伏…する…」
そう言って、ザビノは手を上げた。審判が勝負ありを告げる。と同時にルカは剣を引き、ザビノは腰が抜けたようにその場にへたり込んだ。
一回戦第一試合ルカ・ハークレイvsザビノ・リデロ…勝者ルカ・ハークレイ
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