554 / 1,156
レオンゼーレ・ツヴァイク
しおりを挟む
子供の頃から、俺は同じような内容の夢を見る事があった。それは自分がある剣士になって敵と戦う夢だ。夢の中の俺が振るう剣は、峻厳な山の頂の如く苛烈で、それでいて美しかった。
それがツヴァイク家の人間が時折発動する天質の一種だと知ったのは、しばらくしてからだった。どうも俺が見ていたのは俺の祖先である剣聖アルトゥースの見た光景らしい。身近な人間では、俺の親父殿であるレオンハルト・ツヴァイクも同様の天質を持っていたし、後には妹の子…姪であるアレクシア・ツヴァイク・フォン・シュタインベルグもそうだという事が分かった。
初めて夢を見たあの日から、俺は剣の虜になった。夢で見た剣士の振るう剣は、この世に存在するあらゆるものよりも美しかった。俺もいつかはあんな風になりたいと、切に願った。あんな美しい剣を振る事が出来るのなら、何を捨ててもいいと思った。そしてそのために、俺は努力した。親父殿に指導を受け、剣を振り続ける日々。幼き日に夢見た理想へと近付いていくための毎日。だが、歳を重ねるにつれて思い知る事になる。自分の才能の限界を。
俺は十四歳で皆伝剣士になり、周囲からは天才ともてはやされた。二十歳で奥伝剣士、三十で秘伝剣士になった。秘伝剣士といえば大陸に数人しかいない。剣の名門と言われるツヴァイク家の人間でさえ皆伝、奥伝止まりの者が多い。だから、周りの者は俺を称えた。「さすがはレオンハルト殿のご子息」「ツヴァイク家の誇りだ」と。
だが、そんな言葉はちっとも嬉しくはなかった。俺の心にあるのは――絶望だった。三十になる頃には、これが俺の限界だと悟り始めていたからだ。俺はいくら努力を重ねてもこれ以上強くなれない。あの美しい頂に到達する事は叶わない。剣聖アルトゥースどころか、俺は親父殿の領域にすら至る事は出来ないだろう。
そして俺は、剣の道を諦め酒や女に溺れ――たりはしなかった。そんなものに溺れる事は出来なかった。むしろ、酒や女や金や権力…そういったものに溺れる事の出来る奴が羨ましかった。だって、酒も、女も、金も、権力も…あの剣の美しさに比べればカスみたいなもんだ。だから、甥っ子のレオンフォルテが権力を欲する様子を見て素直に羨ましいと思ったもんだ。――ああ、俺も剣の頂なんて諦めてあんな風になれたら苦しまずに済むのに…と、嫌味じゃなく本当に羨んだ。
表面上はなんて事ない風を装いつつ、俺は痛みに耐え続けてきた。己の才能の限界という、痛みに。――いつか、年老いて全てを諦める事が出来る日が来るんだろうか。強さへの執着なんてものを捨てて、痛みを忘れて生きていけるんだろうか。そんな風に考えていたある日、『あいつ』は現れた。
「強くなりたいんだろう、レオンゼーレ・ツヴァイク」
『あいつ』はいきなりそう言ってきた。
「己に協力しろ。そうすれば、お前に力を与えてやる」
それがツヴァイク家の人間が時折発動する天質の一種だと知ったのは、しばらくしてからだった。どうも俺が見ていたのは俺の祖先である剣聖アルトゥースの見た光景らしい。身近な人間では、俺の親父殿であるレオンハルト・ツヴァイクも同様の天質を持っていたし、後には妹の子…姪であるアレクシア・ツヴァイク・フォン・シュタインベルグもそうだという事が分かった。
初めて夢を見たあの日から、俺は剣の虜になった。夢で見た剣士の振るう剣は、この世に存在するあらゆるものよりも美しかった。俺もいつかはあんな風になりたいと、切に願った。あんな美しい剣を振る事が出来るのなら、何を捨ててもいいと思った。そしてそのために、俺は努力した。親父殿に指導を受け、剣を振り続ける日々。幼き日に夢見た理想へと近付いていくための毎日。だが、歳を重ねるにつれて思い知る事になる。自分の才能の限界を。
俺は十四歳で皆伝剣士になり、周囲からは天才ともてはやされた。二十歳で奥伝剣士、三十で秘伝剣士になった。秘伝剣士といえば大陸に数人しかいない。剣の名門と言われるツヴァイク家の人間でさえ皆伝、奥伝止まりの者が多い。だから、周りの者は俺を称えた。「さすがはレオンハルト殿のご子息」「ツヴァイク家の誇りだ」と。
だが、そんな言葉はちっとも嬉しくはなかった。俺の心にあるのは――絶望だった。三十になる頃には、これが俺の限界だと悟り始めていたからだ。俺はいくら努力を重ねてもこれ以上強くなれない。あの美しい頂に到達する事は叶わない。剣聖アルトゥースどころか、俺は親父殿の領域にすら至る事は出来ないだろう。
そして俺は、剣の道を諦め酒や女に溺れ――たりはしなかった。そんなものに溺れる事は出来なかった。むしろ、酒や女や金や権力…そういったものに溺れる事の出来る奴が羨ましかった。だって、酒も、女も、金も、権力も…あの剣の美しさに比べればカスみたいなもんだ。だから、甥っ子のレオンフォルテが権力を欲する様子を見て素直に羨ましいと思ったもんだ。――ああ、俺も剣の頂なんて諦めてあんな風になれたら苦しまずに済むのに…と、嫌味じゃなく本当に羨んだ。
表面上はなんて事ない風を装いつつ、俺は痛みに耐え続けてきた。己の才能の限界という、痛みに。――いつか、年老いて全てを諦める事が出来る日が来るんだろうか。強さへの執着なんてものを捨てて、痛みを忘れて生きていけるんだろうか。そんな風に考えていたある日、『あいつ』は現れた。
「強くなりたいんだろう、レオンゼーレ・ツヴァイク」
『あいつ』はいきなりそう言ってきた。
「己に協力しろ。そうすれば、お前に力を与えてやる」
10
あなたにおすすめの小説
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
無能はいらないと追放された俺、配信始めました。神の使徒に覚醒し最強になったのでダンジョン配信で超人気配信者に!王女様も信者になってるようです
やのもと しん
ファンタジー
「カイリ、今日からもう来なくていいから」
ある日突然パーティーから追放された俺――カイリは途方に暮れていた。日本から異世界に転移させられて一年。追放された回数はもう五回になる。
あてもなく歩いていると、追放してきたパーティーのメンバーだった女の子、アリシアが付いて行きたいと申し出てきた。
元々パーティーに不満を持っていたアリシアと共に宿に泊まるも、積極的に誘惑してきて……
更に宿から出ると姿を隠した少女と出会い、その子も一緒に行動することに。元王女様で今は国に追われる身になった、ナナを助けようとカイリ達は追手から逃げる。
追いつめられたところでカイリの中にある「神の使徒」の力が覚醒――無能力から世界最強に!
「――わたし、あなたに運命を感じました!」
ナナが再び王女の座に返り咲くため、カイリは冒険者として名を上げる。「厄災」と呼ばれる魔物も、王国の兵士も、カイリを追放したパーティーも全員相手になりません
※他サイトでも投稿しています
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる