俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
387 / 416
〜After story〜

第29話:迷い人



「迷い込んだ?」

「ああ。ある朝、友人と一緒に山の中で山菜を採っていたら、いつの間にか、この世界へと迷い込んでいたんだ」

「山菜採りって……………何故、そんなことを」

「毎朝の日課だったんだ。早朝に山菜を採り、帰ってから朝食。そんでその後に仕事………………これが主な1日の流れだった」

「ずっと働きっぱなしだったのか?」

「そんな訳ない。途中は昼食だったり、茶を飲んだりと休憩しながらだ。で、仕事が終われば銭湯に行って疲れを取り、後は帰って寝る。そんだけだ。とんでもなく疲れるから、よく眠れるぞ~」

「銭湯?自宅に風呂はなかったのか?」

「ああ。火事が怖ぇからな」

「ん?火事?」

「懐かしいな……………んでよ、仕事の量はその日によって違うんだよ。多い時もあれば、少ない時もある。だから、当然終わる時間はいつも決まってないんだ」

「なるほどな。依頼によって、その日のスケジュールが変わると……………聞いてると企業で働く一般社員とかではなく個人事業主って感じだな。結構、特殊な職業だったのか?」

「個人事業主?何じゃ、そりゃ?私が言ってるのは依頼されたことを作業場兼自宅でもある場所で黙々とこなすということだ」

「内職みたいな感じか?」

「内職?お前はさっきから、何を言ってるんだ?」

「どうにもさっきから、話が噛み合わないな……………ちなみに従業員、つまり一緒に仕事をする仲間はいるのか?」

「仲間?弟子なら、いたが」

「へぇ~凄いじゃないか。もしかして代々続く、有名な店とかなのか?」

「いや、そんなんじゃない」

「弟子も同じスケジュールで動いていたのか?」

「ああ、そうだな。あいつらはよく頑張ってくれていたな」

「へ~。でも、そんだけ疲れるってことは帰ったら、遊んだりとかできないな」

「ああ。だから、できることといったら、寝ることだけだな。それに室内の遊びだと双六・カルタ・囲碁・将棋ぐらいしかないからな」

「いや、もっとあるだろ。ゲームやテレビに漫画、あと人によってはペットと戯れたりとか」

「ゲー………ム?テ……レビ?漫……画?ペッ…………なんだって?」

「…………ちょっと待て。まるでその単語を今日初めて聞いたような反応だが、好みでなくとも流石に知ってはいるだろ」

「?」

これは…………まさか。目の前のリッチ・エンペラー…………いや、リョウマのこの反応を見て、俺は1つ確信したことがあった。

「お前が元いた世界での時代は何だったんだ?」

「は?そんなの"江戸時代"に決まってるだろ」

「やはり…………か」

本人の反応から察するに俺をおちょくっている訳でもふざけている訳でもない。となれば、答えは1つ。俺が向こうで暮らしていた時の時代とは違うということだった。

「ちなみに仕事の依頼というのは?」

「俺は刀鍛冶をしていてな……………よく幕府や有力な武士から刀の製作や研ぎを頼まれたんだよ」

「なるほどな」

これは話が噛み合わない訳だ。俺はてっきり、同じ時代からやってきたもんだとばかり思っていた。とするならば、異世界へとやってくる際には時間軸が滅茶苦茶になる………………か、そもそも向こうで流れている時間とこちらで流れている時間に差異が生じているかということになる。どちらにせよ、これは貴重なデータだ。もしかしたら、これから出会う異世界人もバラバラな時間軸の可能性がある。

「私のことはこれでいいか?」

「ああ。助かった」

「じゃあ、次はシンヤのことを聞かせてくれないか?」

「分かった。俺は」

そこから俺は自身の出生からこの世界にやってくるまでの全てを話した。

「なるほど……………そういうことか。どうりで話がいまいち噛み合わない訳だ。そうか。私よりも後の時代の者か」

「聞かなくていいのか?お前が生きていた時代よりも後のことを」

「いや、いいんだ。その後、向こうの世界で何が起こっていようとこちらの世界で暮らしていた時間の方が圧倒的に長いんだ。私はすっかり、この世界の住人なんだよ」

そう語るリョウマの表情はどこか寂しような嬉しいような複雑なものだった。そして、それは俺には到底できない表情だった。確かに今、ここでこいつと戦えば間違いなく勝てる。おそらく、それ以外でもこいつにはほとんどの分野で負ける気がしない。しかし、リョウマのその表情は今の俺では絶対にできない…………様々な経験を積み長い時を生きた者にしかできない非常に味のあるものだった。見た目がガイコツそのものであり、表情など分かりにくいのが普通。なのにそこから感情が読み取れるなんて本来はあり得ない。それほどこちらに訴えかけてくるものがある……………俺はこの時点で軽い敗北を喫したのだった。
感想 5

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。

お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。