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4. 38.7度での幻覚
しおりを挟む「休み、決定。バカ息子」
「うぅ…何度?」
「37度9分。まだ上がるでしょうから大人しくしときなさいよ」
「……そーする」
「はは!自業自得ね。私、仕事行くけど、看病は代わりの人に頼んどくわ。じゃあね」
いつもなら言い返す母ちゃんのバカにする言葉にも、怠さが勝って……うぅ。
「…了解。いってら」
パタンと閉まる扉を見る。
はーーーー。怠い…。
昨日、カッコつけてディーを守ったからな。その反動がきたか…。それにしても怠い…はぁ、寝よ。
「え?休み?」
「おう、アレク休むってさー。熱でたらしいぜ」
「そう。…ありがとう」
「おー。お前でもアレクのことで知らない事あるんだな」
「ん?どういう意味?」
「あ、いや、いつも一緒に来るからさー」
「……あいつ」
「ん?」
「いや、ありがとね」
「おー、じゃあなー」
朝起きて、あいつがリビングにいなかった。いや、普通いないはずなんだけど、いることに慣れてたから少し驚いた。でも、気にすることなく1人で来たけど。
休み?
少し気になり、あいつのクラスまで足を運んで得た情報により、休みだと知る。熱で休み、か。
「え…熱って…まさか。昨日の反動?」
魔力の使い過ぎの反動で熱を出すことがある。昨日の演習であいつにまた、助けられた。あいつも魔力結構使ってたはずなのにカッコつけて私の前に出たりするからだ。まったく。
「……看病する人いるのかな」
あいつの両親はバリバリ働いてるからな。日中は家に誰もいない。
「大丈夫かな…」
「なぁに?アレクの事が心配?」
「私のせいでもあるし…って違うっっ!うわぁ!急に現れないでよ!」
後ろから急に現れる美女はとても心臓に悪い。
というか、いつ来たの?気配がなかったけど…。
「あらあら、真っ赤になっちゃって、かわいい」
そして現れた美女は何故か笑みを隠し切れていない顔で、私をからかう。なんなのよ…。
「…うるさいよエラ」
顔も。
「そんなディーにお願いがあるの」
「お願い?……なに?」
「ふふ。あのね……」
…あぁ、この美女は、ほんとに性格がよろしい。
「んん…腹減った………」
空腹感で目が覚めるなんて悲しい。ついでにのど乾いた。汗かいたからだな。着替えもしたい。けど、まだ動くのが怠いな。
「起きた?ほら、これ飲んで。これ食べて。着替えて、もっかい眠れば?」
「おう。ありがとう」
「ん。熱はかって?」
そっと渡される体温計。わきに挟んで、じっと優しい声の持ち主をみつめる。あぁ、熱で幻覚が見えてるのかも。
「…ディー?」
目をこすってみても幻覚は消えない。
「どうしたの?水ならここ、ご飯はこっち」
「お、おう」
「ん」
いつになく優しい。そして、目の前にいるのはやっぱりディーだ。
…あれ、今何時だ。ふと時計を見ると14時過ぎ。どんだけ寝てたの自分。
ん?まだ下校時間じゃないはずだけど。
「学校は?」
「先生急用で、自習だったから帰ってきた」
「なるほど」
「ん」
―――――ピピ、ピピ、ピピ。
「体温計だして」
「あ、おう」
そうだった。存在忘れてた、ごめんな体温計。
「…38度7分」
「…ありゃ、上がってら」
「ご飯食べて寝ろ」
「はい」
笑顔なのに怖いってすごいぜディー。おかげさまで逆らえない。まぁ、怠いってのもある。
机を見るとほかほかのリゾットが見える。それを小皿に移すディーをぼんやり見つめていると。
「はい、あーん」
「っっ!ぇえ!」
「ほら、口開いて」
「自分で食うよ!」
「…償い」
「え?」
「昨日のお詫びです、看病させてください」
「おうふっ」
ちきしょう。なんてこった。もろに上目づかいをくらった。体温上昇しそう。いや、確実にした。なんだこの可愛い生き物は。なんだこの可愛い生き物は!!!くっ!!
「ほら」
「っ!……あーん」
男アレクサンダー。この上なく幸せです。ありがとう!昨日の自分!!よくやった!よくやったぞアレクサンダー!
「どう?」
「ん、おいし。ありがとう」
「うん、もっと食べろこのバカやろう」
「おうふっ」
耳まで真っ赤なディーの照れ隠し最高かよ。これ何、夢?現実?幻覚?
「ちょっと、こっち向いてよ」
ぐいっと顔を挟まれる。おおう、追い打ち。
「お、おう」
「はい、どうぞ」
「…はい」
至福の時は続く。一口一口を噛みしめて。そして完食。さすが俺。
「ありがとう」
「ん。次は着替え」
「え!?それはさすがに自分でやるよ!」
「……そうね。あっち向いとく」
少し考え込む様子が見られたが、クルッと部屋の入口方向に振り返るディー。何故考えた。そこは考えなくても着替えは手伝わなくても大丈夫です。えぇ。
「ふぅーー」
よし、着替えよう。シャツに汗がしみ込んでやがる。…パンツも着替えたいな。
ちら。…うん、どうしよ。うん。
「えぇと、ディアナさんや」
「なに?」
「パンツも着替えたいから、絶対こっち見るなよ」
「…見るわけないだろうがアレキサンダーくんや」
「ですよね」
ところで、どこからそんな低い声がでたんですか?気になります。…ま、今は着替えるか。
パサッ。
あいつが着替えてる音がする。
なんでこんな大胆なことをしているのだい、私は。…あーん、とか!!!なにやってんの、恥ずかしい!!今、絶対顔真っ赤!あいつに見られなくてよかった…。
安堵していると、とんとん、と右肩を叩かれる。
え、なによ、今、そっちを向きたくない!顔見られたくない!
「なに?」
振り向かないまま応える。
「ディー?」
「っ!」
なんで顔を覗き込んでくる!ぼけ!
「……かーわい。顔真っ赤」
「うるさい!」
顔をそむけるようにすると、頬に手を当てられた。
「っ!」
「だーめ。もっと見せて」
「何言ってんの!?てゆーか服を着ろ!」
「あははは」
なんでこいつ上半身裸なんだよ!バカ!熱あがっても知らないから!
「ディアナ」
「…なによ!」
頬に当たる手が熱い。
「ありがとう、大好き。ディアナ」
「なっ!」
距離が近い。熱い。なんなの。
混乱していると、ちゅ、っとおでこに温かいものが触れた。
「は?」
「……」
そのまま上に覆いかぶさるようにこちらに倒れてくるアレクサンダーを受けとめる。
「……寝てやがる」
すーすーと寝息が私の左耳にかかる。
「………」
なんだこのいたたまれない気持ち。どこにぶつければいい。元凶を受けとめつつ、踏ん張りつつ、苛立ちが募ってくる。
「そうだ、あとでしめよう」
そのまま、アレクサンダーを受け止めていた腕を下す。
支えをなくし、ゴツン、と床に落ちるバカ。
「あいたっ」
「アレクサンダーくん?私帰るから、後で覚えとけよ?」
「え?え?え!?」
「永遠とわに眠れ」
「ぐふっ」
でこピンをくらわせ、部屋の扉へ歩く。あーーー、少しスッキリした。
「じゃあ、お大事に」
にっこり笑顔でさようなら。
「あ、はい」
―――パタン
「え、俺なにした…これ夢じゃないの、え?……え!?」
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