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プロローグ

資金管理係の追放

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「おい、ヤマト! てめぇはクビだ!」

 人の良さそうな中性的な顔立ちをした青年『ヤマト・スプライド』は、この町で最強パーティへと成り上がった『ソウルヒート』のリーダーからそう告げられていた。

「ま、待ってよ! クエストから帰って来て突然、わけが分からないって!」

 ヤマトは不安げに瞳を揺らしながら声を上げる。
 場所はギルドのクエスト仲介所。
 仲間たちの帰りを待っていたヤマトがかけられた言葉は、「ただいま」というありふれた言葉ではなかった。
 リーダーの後ろから整った顔立ちの剣士が前へ出る。

「いやね、さっきのクエストが楽勝だったから、余った時間で話し合ったんだ」

「な、なにを?」

「これまで僕らは、リーダーと僕で前衛、『スノウ』が後方支援の三人でクエストをこなしてきた。それで、君の役割は?」

「それは、パーティの資金管理をして、みんなが戦っている間に消耗品を買いそろえたり、割高な報酬が出るクエストを探したりして……」

 ヤマトは足手まといになるからとクエストには同行させてもらえず、彼らが戦っている間に次のクエストで必要になる消耗品の調達や割安な装備の調査、厳密な帳簿の作成と予算計画を立てていた。
 これは決して雑用ではなく、ハンターパーティの運用における重要な役割だ。
 そのおかげで、ソウルヒートは効率良くクエストをこなしていけているのだとヤマトは自負している。

「そう、それだよ! 僕らは根っからの面倒くさがりだから、今まで資金管理や雑用をすべて君にまかせてきた。でも、僕らはもう最強だ。装備は十分に整っているし、金もたっぷりある。君に細かい調整をしてもらわなくても、力押しでどうとでもできるんだ」

「だからって僕がいなくなったら、誰がパーティの資金を管理するのさ!?」

 イケメンの剣士『ライダ』の言葉に、ヤマトが反論する。
 すると、リーダー『マキシリオン』の横に立っていた、金髪ショートカットの女『スノウ』が口を開いた。

「そんなの決まっていますわ。あなたを追いだして空いたパーティ枠に、新しいメンバーを迎え入れますの。ちょうど、私の知り合いの中に、最近フリーになった笛使いがいますので」

「し、資金管理は?」

「あなた、ふざけていますの? パーティの財布を管理するぐらい、誰でもできましてよ。彼女には、資金管理をしつつ、戦場では私と一緒に後方支援を担当してもらいますわ」

「スノウの言う通りだ。これで純粋な戦力アップ。むしろ今まで、4人パーティの大事な枠の一つを、てめぇみたいな無能で埋めてたのが異常だったんだ。まぁ俺らが強すぎて、それすら気にならないほどの戦績を上げていたってことだけどな」

 マキシリオンがゲラゲラと声を上げて笑い、ヤマトの顔が青ざめる。

「そ、そんな……」

「あなた、鳥と話ができるっていうから、なにかの役に立つかと思って置いていましたけれど、結局なんの役にも立ちませんでしたわね。少し顔がいいから、リーダーに無理言って置いておいてもらいましたが、もう見飽きましたわ。今まで私たちの稼いだ大金を好きなように使えたこと、光栄に思いなさいな」

 好きに使えたとは言うが、彼らの金使いが荒すぎてそんな簡単なことではない。
 スノウの言葉に反応し、ヤマトの肩に乗っている白い小鳥が威嚇するように鳴いた。

「クェッ、クェェェッ!」

 「ふざけるな、このあばずれ!」と言っている。
 ヤマトだけは小鳥の言っていることを理解していた。
 実は、幼少期の生活の影響で、彼は鳥やリスなどの言葉が分かるのだ。
 しかし粗暴な仲間たちには、耳障りな雑音にしか聞こえない。

「うるさいよ」

 端正な眉を歪めたライダが剣の切っ先をヤマトへ向けると、小鳥は怯えて鳴き止む。
 ヤマトが悔しさと怒りを滲ませて、リーダーのマキシリオンを睨むが、彼は薄ら笑いを浮かべて告げた。

「邪魔だ、失せろ」

「……手切れ金は?」

「あるわけねぇだろ、そんなもん」

 ヤマトは悔しさに奥歯を噛みしめ拳を握ると、鼻の上にしわを作りながらも努めて冷静に答えた。

「……分かったよ。今までお世話になりました」

「ふんっ」
「もう二度と僕の視界に入らないでほしいね」
「同感ですわ」

 ヤマトは三人の見下すような視線を背に、ざわざわしている周囲のハンターたちの視線を浴びながら、去って行く。
 仲介所の木製の扉を開けたところで、ライダが追い打ちとばかりに叫んだ。

「あっ、そうそう、今日からソウルヒートの預金口座は、ヤマト・スプライドが引き出せないように契約変更しておいたから」

「えっ……」

 ヤマトは金も職も奪われ、どん底に落とされるのだった。

 しかし、リーダーのマキシリオンも、ライダも、スノウも、誰一人気付いてはいない。
 ソウルヒートがなぜ、あまたの高ランククエストを連続でクリアでき、最強にまで上り詰めることができたのかを――

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